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5-19 貸し切りレストラン
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「え?このレストランは…?」
連れて来られたレストランは今日アルバイトでお花の配達をしたレストランだった。
「あら?ご存知でしたか?もしかして…こちらのお店でお食事された事でも?」
隣に立つノーラさんが尋ねて来た。
「い、いえ!まさか私のような者がこのような立派なお店でお食事なんて出来るはずありません。ただ、本日…このお店に花束を届けに来たのです」
するとノーラさんが眉をひそめた。
「え?まさか…そんな…」
「ノーラさん?どうされましたか?」
ノーラさんの困惑した表情が気になったので尋ねてみた。
「い、いえ。何でもありません。では中に入りましょうか?後程お迎えに参りますので」
「はい。ありがとうございます」
促されて返事をした。
「ではお入り下さい」
ノーラさんが扉を開けてくれた―。
「え…?」
店内へ入り、私は驚いた。お店の中にはユーグ様が1人大きなテーブルに向かって座っているだけで他のお客様が誰もいなかったからだ。そしてユーグ様の背後にはこの店の従業員と思われる人たちが整列している。その中にはシェフのヴィンサントさんまでいた。けれどヴィンサントさんは私を見ても無反応だ。ひょっとするとこのドレスと髪型を変えた為に気付いていないのかもしれない。
「ああ、よく来たね。ロザリー。さぁ、こっちにおいで」
ユーグ様が笑みを浮かべて私を手招きする。
「は、はい…」
名前を呼ばれて私が返事をしたことで、ヴィンサントさんは初めて私が花屋から来たロザリーだと言う事に気付いた様だ。その証拠に目を見開いて私を見つめている。
「本日はこのような素敵なレストランにお招き頂き、ありがとうございます」
お辞儀をすると、ユーグ様はますます笑顔になった。
「おお…思った通りだ。美しいロザリーに良く似合っているよ。さぁ、座りなさい。ここのレストランは美味しいと評判の店で格式がとても高いのだよ」
「はい、では失礼致します」
着席すると、店のオーナーらしき口ひげを生やした男性が進み出て来た。
「本日は来店して頂き、誠にありがとうございます。誠心誠意サービスさせて頂きます。ごゆっくりお楽しみ下さい」
「はい。ありがとうございます」
私も返事をするとオーナーは頷き、従業員たちを伴って店の奥へと去って行った。
「あの…ユーグ様。何故他のお客様達がいらっしゃらないのでしょうか?」
するとユーグ様は店内を見渡しながら言った。
「ああ、この店はテーブルマナーに煩い貴族たちが大勢集まる店なのだよ」
「テーブルマナー…」
平民の私には知らないマナーだ。
「だから本日は貸し切りにしてもらったのだ。ロザリーが周囲の目を気にする事無く食事を楽しめるようにな」
「そうだったのですか?ありがとうございます」
頭を下げた。
「今日はテーブルマナーなど気にせず食べると良い。何、テーブルマナー等は学園を卒業後、ゆっくり学べば良いのだからな」
ユーグ様の言葉の意味する事を知り、緊張が走る。
それは…花嫁修業は卒業後でも構わない…その事を意味しているのだ。
「ありがとうございます…」
心の中で絶望しながら私はユーグ様にお礼を述べた。
やっぱり私はもう逃げられないのだ。学園を卒業後は…家に帰ることも許されず、私はユーグ家に行く。そこで花嫁修業をさせられ…父よりも遥かに年上のユーグ様の元へ嫁がされるのだ。
ユーグ様は食事を楽しむように言ったけれど…とてもではなけれど今の私に楽しめるとは思えなかった―。
連れて来られたレストランは今日アルバイトでお花の配達をしたレストランだった。
「あら?ご存知でしたか?もしかして…こちらのお店でお食事された事でも?」
隣に立つノーラさんが尋ねて来た。
「い、いえ!まさか私のような者がこのような立派なお店でお食事なんて出来るはずありません。ただ、本日…このお店に花束を届けに来たのです」
するとノーラさんが眉をひそめた。
「え?まさか…そんな…」
「ノーラさん?どうされましたか?」
ノーラさんの困惑した表情が気になったので尋ねてみた。
「い、いえ。何でもありません。では中に入りましょうか?後程お迎えに参りますので」
「はい。ありがとうございます」
促されて返事をした。
「ではお入り下さい」
ノーラさんが扉を開けてくれた―。
「え…?」
店内へ入り、私は驚いた。お店の中にはユーグ様が1人大きなテーブルに向かって座っているだけで他のお客様が誰もいなかったからだ。そしてユーグ様の背後にはこの店の従業員と思われる人たちが整列している。その中にはシェフのヴィンサントさんまでいた。けれどヴィンサントさんは私を見ても無反応だ。ひょっとするとこのドレスと髪型を変えた為に気付いていないのかもしれない。
「ああ、よく来たね。ロザリー。さぁ、こっちにおいで」
ユーグ様が笑みを浮かべて私を手招きする。
「は、はい…」
名前を呼ばれて私が返事をしたことで、ヴィンサントさんは初めて私が花屋から来たロザリーだと言う事に気付いた様だ。その証拠に目を見開いて私を見つめている。
「本日はこのような素敵なレストランにお招き頂き、ありがとうございます」
お辞儀をすると、ユーグ様はますます笑顔になった。
「おお…思った通りだ。美しいロザリーに良く似合っているよ。さぁ、座りなさい。ここのレストランは美味しいと評判の店で格式がとても高いのだよ」
「はい、では失礼致します」
着席すると、店のオーナーらしき口ひげを生やした男性が進み出て来た。
「本日は来店して頂き、誠にありがとうございます。誠心誠意サービスさせて頂きます。ごゆっくりお楽しみ下さい」
「はい。ありがとうございます」
私も返事をするとオーナーは頷き、従業員たちを伴って店の奥へと去って行った。
「あの…ユーグ様。何故他のお客様達がいらっしゃらないのでしょうか?」
するとユーグ様は店内を見渡しながら言った。
「ああ、この店はテーブルマナーに煩い貴族たちが大勢集まる店なのだよ」
「テーブルマナー…」
平民の私には知らないマナーだ。
「だから本日は貸し切りにしてもらったのだ。ロザリーが周囲の目を気にする事無く食事を楽しめるようにな」
「そうだったのですか?ありがとうございます」
頭を下げた。
「今日はテーブルマナーなど気にせず食べると良い。何、テーブルマナー等は学園を卒業後、ゆっくり学べば良いのだからな」
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それは…花嫁修業は卒業後でも構わない…その事を意味しているのだ。
「ありがとうございます…」
心の中で絶望しながら私はユーグ様にお礼を述べた。
やっぱり私はもう逃げられないのだ。学園を卒業後は…家に帰ることも許されず、私はユーグ家に行く。そこで花嫁修業をさせられ…父よりも遥かに年上のユーグ様の元へ嫁がされるのだ。
ユーグ様は食事を楽しむように言ったけれど…とてもではなけれど今の私に楽しめるとは思えなかった―。
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