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5-9 鉢合わせ

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「あの…私はお花を届けに伺っただけで…今、アルバイト中です。なのでもう帰らなければならないのですが…」

「10分位なら構わないだろう?それとも馬車を外で待たせているのか?」

「いいえ。歩いてここまで来ました」

私の言葉に驚いたのかユーグ様は目を見開いた。

「何と?ここまで歩いて来たのか?そんなに大量の花束を抱えて?」

「いえ。お花は台車に乗せて運んできました」

「ひょっとしてそなたは台車を引いてここまで歩いて来たのかね?」

「はい…そうです」

するとユーグ様は大きな溜息をついた。

「何と言う事だ…。そのような貧しい身なりをしてアルバイトをするだけでなく、台車を引いてここまで歩いて来たとは…」

「はい」

「何度も話したであろう?ロザリー。そなたはこのような過酷な環境に置かれるような身分では無いと言う事を。何故私からの援助を受けないのだね?」

「援助なら受けております。学費を全て払って頂いておりますから。ですがそれ以外は…自分で何とか工面します」

だって…これ以上貸を作りたくは無かったからだ。

「そんな強情を張らずとも素直になれば良いのに…。まぁ、そういうところも可愛らしいがな」

その言葉に背筋がゾクリとする。

「まぁ…引き留めてアルバイト先の人物に迷惑をかけるわけにもいかないからな。だが、帰りは馬車を使う様に。お金ならこちらから支払おう」

「い、いえ!大丈夫です。歩いて帰れますから」

「しかし、雇い主側からすれば早く帰って来てもらった方が助かるのではないかな?」

「そ、それは…」

確かにユーグ様の仰る通りだ。私は先週ただでさえ、風邪をひいてアルバイトをお休みしている。迷惑をかける訳にはいかない。

「はい…。分りました」

頷くとユーグ様が立ち上がった。

「それでは私も出口まで見送ろう」

「…ありがとうございます…」


ユーグ様が先に立ち、扉を開けるとそこにはノーラさんが立っていた。

「彼女を花屋まで送り届けて、お金を支払ってくれ」

「はい、承知致しました」

頭を下げるノーラさん。

「よし、それでは参ろうか?」

「はい」

そして私達は部屋を出た―。



****

 ホテルのフロントまで3人で出てきた時、突然私は声を掛けられた。

「ロザリー」

振り向き、私は驚いた。何と、そこにレナート様が立っていたからだ。

「え…?な、なぜここに…?」

私は自分の目を疑った。まさか…ここまで私の後をつけてきたのだろうか?

「誰かね?彼は」

ユーグ様の目が光った。

「あ…あの方は…」

途惑っていると、レナート様はこちらへ近づいてい来ると口を開いた。

「始めまして。僕はレナート・ブランシュと申します。こちらにいるロザリーとは同じクラスメイトです。大層ご立派な方とお見受け致しましたが、失礼ですが…一体どのようなご関係でしょうか?」

するとユーグ様は少し考えた素振りを見せた。

「レナート・ブランシュ?ブランシュ…ああ、ひょっとすると公爵家のかね?」

「僕の事を御存じの様ですね?」

「あの、この方はお花屋さんのお客様なのです。お届けに上がったところ、帰りは送って下さるそうなのでついて来て頂いただけです」

この2人が顔を合わせるのはまずい…何故か私はそう感じた。それに私はレナート様に嫌われている。ユーグ様が私の学費を出していることが知られれば、ますます軽蔑されてしまいそうだ。思わず身体が震えた。

「…」

そんな様子の私をユーグ様は黙って見下ろしていたけれども、レナート様に向き直った。

「君は一体ロザリーに何をしたのだね?」

ユーグ様は冷たい声でレナート様に尋ねた―。
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