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3−6 階級
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「もう一度尋ねるよ。君たちはこの子に一体何をしていたのかな?」
「あ、そ・それは…」
彼女たちは全員泣きそうになっている。特に私の財布を持っている女子学生は目に涙が浮かんでいた。
「答えないつもりかな?」
イアソン王子が声のトーンを落とした。その声は…被害者の私でさえ、背筋が寒くなるほどだった。
「あ、あのっ!」
たまらず私は声を上げた。
「どうしたんだい?」
イアソン王子は私にだけは態度をまるで変えて優しい声で尋ねてきた。
「ち、違うんです。私が転んで荷物を落としてしまって…この方々が拾い上げてくれたんです。ほ、本当にそれだけですから!」
もし、ここで彼女たちがイアソン王子に怒られ、逆恨みでもされたらますます私に対する風当たりが強くなってしまう。
「本当に…そうなの?」
疑わし気な目で私を見つめるイアソン王子。
「はい、そうです…」
イアソン王子はため息をつくと女子学生たちの方を向いた。
「聞いただろう?…荷物と財布を返すんだ」
「は、はい!」
1人の女子学生が財布とリュックを預かると恐る恐るイアソン王子に渡した。
「…」
無言で私の荷物を受け取った王子は私を振り返った。
「はい。どうぞ」
笑みを浮かべて私にリュックと財布を手渡してきた。
「…ありがとうございます」
頭を下げてお礼を述べた。
「寮まで送ろうかい?」
「い、いえ。大丈夫です。1人で帰れますから」
私は素早く返事をした。もし、彼女たち以外の別の学生たちに…私がイアソン王子と一緒に歩いている姿を見られでもしたら、ますます大変な事になってしまう。
「そうかい?…わかったよ。それじゃ気をつけてね」
イアソン王子も何かを察したのだろう。それ以上追求してくることは無かった。
「ご心配頂き、ありがとうございました。それでは失礼します」
頭を下げる私は足の痛みを我慢して、寮までの道のりを歩いた―。
****
「まぁ!一体どうしたのっ?!その姿は!」
寮に戻った私を出迎えたアニータが驚きの声をあげた。…彼女が驚くのも無理はなかっただろう。私の制服は汚れ、膝からは擦りむいたために血が滲んでいる。
「ええ…実は…」
うなだれながら私は先程の出来事をアニータに語った。
「そう…そんな事があったのね…」
「ええ」
「それなら…もう私達平民はあの店には行かないほうがいいって事ね。残念だわ…。あの店、素敵な商品が沢山売られていたのに…」
アニータが寂しげに言う。
「ごめんなさい、私のせいだわ」
謝ると、アニータが驚いたように私を見た。
「何故貴女のせいになるの?」
「私が制服のまま、あのお店に行ってしまったから…身元がばれてしまったのだもの」
うなだれて話す私にアニータが言った。
「そんな事無いわ。気にしないで。ロザリーのせいじゃないわよ」
「だけど…」
「本当にいいんだってば。一番悪いのは…この学園の風習よ。だってあまりにも貴族と平民を…差別する階級制度を強いているのだから」
アニータは悔しそうに言った―。
「あ、そ・それは…」
彼女たちは全員泣きそうになっている。特に私の財布を持っている女子学生は目に涙が浮かんでいた。
「答えないつもりかな?」
イアソン王子が声のトーンを落とした。その声は…被害者の私でさえ、背筋が寒くなるほどだった。
「あ、あのっ!」
たまらず私は声を上げた。
「どうしたんだい?」
イアソン王子は私にだけは態度をまるで変えて優しい声で尋ねてきた。
「ち、違うんです。私が転んで荷物を落としてしまって…この方々が拾い上げてくれたんです。ほ、本当にそれだけですから!」
もし、ここで彼女たちがイアソン王子に怒られ、逆恨みでもされたらますます私に対する風当たりが強くなってしまう。
「本当に…そうなの?」
疑わし気な目で私を見つめるイアソン王子。
「はい、そうです…」
イアソン王子はため息をつくと女子学生たちの方を向いた。
「聞いただろう?…荷物と財布を返すんだ」
「は、はい!」
1人の女子学生が財布とリュックを預かると恐る恐るイアソン王子に渡した。
「…」
無言で私の荷物を受け取った王子は私を振り返った。
「はい。どうぞ」
笑みを浮かべて私にリュックと財布を手渡してきた。
「…ありがとうございます」
頭を下げてお礼を述べた。
「寮まで送ろうかい?」
「い、いえ。大丈夫です。1人で帰れますから」
私は素早く返事をした。もし、彼女たち以外の別の学生たちに…私がイアソン王子と一緒に歩いている姿を見られでもしたら、ますます大変な事になってしまう。
「そうかい?…わかったよ。それじゃ気をつけてね」
イアソン王子も何かを察したのだろう。それ以上追求してくることは無かった。
「ご心配頂き、ありがとうございました。それでは失礼します」
頭を下げる私は足の痛みを我慢して、寮までの道のりを歩いた―。
****
「まぁ!一体どうしたのっ?!その姿は!」
寮に戻った私を出迎えたアニータが驚きの声をあげた。…彼女が驚くのも無理はなかっただろう。私の制服は汚れ、膝からは擦りむいたために血が滲んでいる。
「ええ…実は…」
うなだれながら私は先程の出来事をアニータに語った。
「そう…そんな事があったのね…」
「ええ」
「それなら…もう私達平民はあの店には行かないほうがいいって事ね。残念だわ…。あの店、素敵な商品が沢山売られていたのに…」
アニータが寂しげに言う。
「ごめんなさい、私のせいだわ」
謝ると、アニータが驚いたように私を見た。
「何故貴女のせいになるの?」
「私が制服のまま、あのお店に行ってしまったから…身元がばれてしまったのだもの」
うなだれて話す私にアニータが言った。
「そんな事無いわ。気にしないで。ロザリーのせいじゃないわよ」
「だけど…」
「本当にいいんだってば。一番悪いのは…この学園の風習よ。だってあまりにも貴族と平民を…差別する階級制度を強いているのだから」
アニータは悔しそうに言った―。
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