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2−18 声を掛けてきた人は
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カトリーヌさんに学生寮までの道を教えてもらい、私は寮目指してトボトボと歩いていた。懐中時計を確認すると時刻はもう午後の1時を回っていた。
「何処かでお昼でも買って…寮に戻ったほうがいいわね…」
学生寮ではお昼ごはんは出てこない。今ここで外食するなり、買って帰らない限りは夜まで食事抜きになってしまう。
「パンでも買って帰りましょう」
確かこの通りにパン屋さんがあった気がする。少しの間、歩き続けているとパン屋さんの看板が見えてきた。
「あったわ」
急ぎ足でパン屋へと向かった―。
****
「ありがとうございましたー」
男性店員さんの声に見送られながら私はパン屋を出た。あそこで働いていたのも多分同じ学園の学生かも知れない。年齢も私と同年代に見えたからだ。
「やっぱり働いているのは男子学生なのね…」
他の下級貴族の女子学生たちは何処でアルバイトをしているのだろう?それとも…働いている女子学生はいないのかもしれない。
「兎に角、この格好で寮に戻る姿を見られるわけにはいかないわ」
早いところ女子寮に戻らなければ。先ほどよりも歩くスピードを早めて私は女子寮を目指した―。
女子寮の正門が見えてきた。
「良かったわ…誰にも会わなくてすんで」
そのまま正門に入っていこうとした時、背後から声を掛けられた。
「ちょっと!そこの貴方っ!そんなところで何をしているのっ?!」
その声の鋭さに思わずビクリと肩が跳ねてしまった。
「ここは『リーガルスクール』の女子寮よ?さっさと出ていきなさい。さもなければ大きな声を上げるわよ」
そんな事をされてはたまったものではない。
「ま、待って下さいっ!」
慌てて振り向くと、そこに立っていたのはフランシスカ様だった。イアソン王子と一緒だったはずなのに…。それとももう帰ってきたのだろうか?
「あ…フランシスカ様…」
「え?何故私の名前を?それに…女の子の声に聞こえるけど…?」
驚いたように私を見る。
「私…この学園の女子生徒なんです」
「え?そうだったの?」
「はい…」
私は帽子を取った。すると三編みにしていた長い髪が肩にかかる。
「ふ~ん…やっぱり女の子だったのね?」
「はい…」
フランシスカ様は私を見ても無反応だった。やはりたった一度会っただけの私のことなど分かるはずはないのだろう。
「貴女、名前は何て言うの?」
「ロザリー・ダナンといいます」
「ロザリーね…。ひょっとして平民学生なのかしら?」
「は、はい。あの…この格好を誰かに見られるわけにはいかないので、着替えたいのですが…」
「そうね、着替えてきていいわ。私はここで待っているから着替えが終わったらまたここに戻って来てくれるかしら?」
「え?!」
ど、どうして…?
驚いたようにフランシスカ様を見ると、私に言う。
「何故貴女がそんな格好をしていたのか興味があるの。ちょっと訳ありで暇になってしまったから…私の話に付き合ってもらいたいのだけど」
そしてフランシスカ様は私を見て笑みを浮かべた―。
「何処かでお昼でも買って…寮に戻ったほうがいいわね…」
学生寮ではお昼ごはんは出てこない。今ここで外食するなり、買って帰らない限りは夜まで食事抜きになってしまう。
「パンでも買って帰りましょう」
確かこの通りにパン屋さんがあった気がする。少しの間、歩き続けているとパン屋さんの看板が見えてきた。
「あったわ」
急ぎ足でパン屋へと向かった―。
****
「ありがとうございましたー」
男性店員さんの声に見送られながら私はパン屋を出た。あそこで働いていたのも多分同じ学園の学生かも知れない。年齢も私と同年代に見えたからだ。
「やっぱり働いているのは男子学生なのね…」
他の下級貴族の女子学生たちは何処でアルバイトをしているのだろう?それとも…働いている女子学生はいないのかもしれない。
「兎に角、この格好で寮に戻る姿を見られるわけにはいかないわ」
早いところ女子寮に戻らなければ。先ほどよりも歩くスピードを早めて私は女子寮を目指した―。
女子寮の正門が見えてきた。
「良かったわ…誰にも会わなくてすんで」
そのまま正門に入っていこうとした時、背後から声を掛けられた。
「ちょっと!そこの貴方っ!そんなところで何をしているのっ?!」
その声の鋭さに思わずビクリと肩が跳ねてしまった。
「ここは『リーガルスクール』の女子寮よ?さっさと出ていきなさい。さもなければ大きな声を上げるわよ」
そんな事をされてはたまったものではない。
「ま、待って下さいっ!」
慌てて振り向くと、そこに立っていたのはフランシスカ様だった。イアソン王子と一緒だったはずなのに…。それとももう帰ってきたのだろうか?
「あ…フランシスカ様…」
「え?何故私の名前を?それに…女の子の声に聞こえるけど…?」
驚いたように私を見る。
「私…この学園の女子生徒なんです」
「え?そうだったの?」
「はい…」
私は帽子を取った。すると三編みにしていた長い髪が肩にかかる。
「ふ~ん…やっぱり女の子だったのね?」
「はい…」
フランシスカ様は私を見ても無反応だった。やはりたった一度会っただけの私のことなど分かるはずはないのだろう。
「貴女、名前は何て言うの?」
「ロザリー・ダナンといいます」
「ロザリーね…。ひょっとして平民学生なのかしら?」
「は、はい。あの…この格好を誰かに見られるわけにはいかないので、着替えたいのですが…」
「そうね、着替えてきていいわ。私はここで待っているから着替えが終わったらまたここに戻って来てくれるかしら?」
「え?!」
ど、どうして…?
驚いたようにフランシスカ様を見ると、私に言う。
「何故貴女がそんな格好をしていたのか興味があるの。ちょっと訳ありで暇になってしまったから…私の話に付き合ってもらいたいのだけど」
そしてフランシスカ様は私を見て笑みを浮かべた―。
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