上 下
28 / 221

2-16 いたたまれない瞳

しおりを挟む
「え?ま、まさか…この少年はブランシュ様のお連れの人だったのですかっ?!」

店主は真っ青になっている。やはりこの人は私がブランシュ様と入店したことに気付いていなかったのだ。

「この店は身なりだけで人を判断するのですか?そんな店ではもう二度と買い物する気にはなれません。ここの店との取引はもうやめさせて頂きます」

きっぱりというブランシュ様に、店主はますます顔を青ざめさせた。

「も、申し訳ございませんっ!二度と人を見た目で判断するような真似は致しませんので…どうか、お許し願えないでしょうかっ?!」

すると他にも店内にいた店員たちが集まって来て、レナート様に頭を下げて来た。

「お願い致しますっ!」
「どうかお許しくださいっ!」

店員たちは次々に謝って来るが、レナート様は黙っている。この騒ぎに他のお客たちもヒソヒソ話しているのが耳に入って来た。

「公爵家が見捨てた店での買い物はやめた方がいいかもしれないわね」
「ええ、その方がいいわ…」
「他のお店で買う事にしましょう?」

等々…非難めいた言葉が飛び交っている。

どうしよう…私のせいでとんでもないことになってしまった。このままではいけない!

「待って下さい、レナート様っ!」

「ロザリー…」

いきなり大きな声を出したので、レナート様は驚いた様に私を見た。

「どうか、このお店を責めないで頂けますか?お店の人の意見は尤もです。私の様に貧しい身なりの人間が買えるような品物は売っているはずないですし、ここは貴族の方々が利用される高級店です。私が立ち入ってはこのお店の品位を落としてしまいます。悪いのは私なのです。身の程をわきまえずに入店してしまいましたから…」

そして頭を下げた。レナート様の前でこんな事を言うのは…すごく惨めで恥ずかしかったけれども、これらの話しは全て事実なのだから。

「ロザリー。何故…」

レナート様は何故か悲し気な瞳で私を見ている。その瞳も…まるで同情されているかのようで、いたたまれなかった。

「あの…私、もう行きます。大変失礼致しました。レナート様は、どうぞお買い物を続けて下さい」

そして言うや否や、私は駆け足で店の外へ飛び出した―。



****

「ごめんなさい…レナート様…」

ポツリと呟きながら、私はトボトボと1人町を歩いていた。店を飛び出した後、私は目茶目茶に走り…今は完全に道を迷っていた。

「ふぅ…困ったわ…どこかで道を尋ねないと…」

呟いたとき、すぐ傍に花屋があった。店の軒先には故郷で育てていた懐かしいダリアの花が売られている。

「まぁ…ダリアだわ…」

思わず近付き、マジマジと見つめていると壁にアルバイト募集の張り紙が張られていた。しかも都合の良いことに土日だけの求人だったのだ。

「アルバイト募集…採用してもらえないかしら?」

そこで私は早速店の奥へと入って行くと、そこには人のよさそうな女性店員が大きな前掛けエプロンを付けて、花束を作っていた。

「いらっしゃいませ。あら?可愛らしいお客様ね?」

女性店員は私を見るとニッコリ微笑みかけてきた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?

新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。 ※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

両親も義両親も婚約者も妹に奪われましたが、評判はわたしのものでした

朝山みどり
恋愛
婚約者のおじいさまの看病をやっている間に妹と婚約者が仲良くなった。子供ができたという妹を両親も義両親も大事にしてわたしを放り出した。 わたしはひとりで家を町を出た。すると彼らの生活は一変した。

処理中です...