上 下
4 / 221

1−4 旧友のように

しおりを挟む
「私は左側のベッドと机を使っているから、ロザリーは右側を使って」

「ええ、分かったわ」

アニータに言われたとおり、私は右側のスペースにキャリーバッグを持って移動すると、さっそく荷物整理を始めた。

「あの…フランシスカ様ってどんな方なのかしら?」

ベッドの上に持ってきた着替えを乗せながらアニータに尋ねた。

「フランシスカ様ね?とってもお美しい方よ。ストレートの長いブロンドの髪に海のように青い瞳…成績もとても優秀なの。だけど、あの方も侯爵家の方でとても身分が高いから私達平民が迂闊に近づいたり、声を掛けるなんてことも恐れ多くて出来ないけどね」

「そうなのね…」

フランシスカ様…彼女も他の貴族同様に気位が高いのだろうか?

「それにしても不公平だと思わない?」

どこか不服そうにアニータが言う。

「え?何が?」

キャリーバッグから取り出した衣類を部屋に備え付けのワードローブにハンガーで吊るしながら返事をした。

「だって、私達お金持ちの平民が多額の寄付金を支払っているお陰もあって、学園の経営が成り立っているのよ?下級貴族の中には私達よりも貧しい生活をしているって言うのに、爵位があるだけであんなにえばっているのだから。あ~あ…お父様、爵位を買ってくれないかしら…そうすればこんな惨めな思いをしなくて済むのに」

「アニータのお父様は何のお仕事をしているの?」

バタンとワードローブの扉を閉めながら尋ねた。

「私のお父様は印刷工場を経営しているのよ。ロザリーの家の家業は何?」

「えっと、我が家はぶどう農園を経営しているの」

ドキドキしながら答える。

「へ~ひょっとしてワイナリーでも経営しているのかしら?」

アニータが目をキラキラさせながら尋ねてくる。

「ええ、まぁそんなところね」

大丈夫…嘘はついていない…。だけど、そんな事情すら私は全て初耳だった。平民も通える学園とは聞いていたけれども、まさか彼等の家は皆お金持ちだったなんて…。
私は…卒業までの3年間…素性がバレること無く学園生活を過ごせるのだろうか…?



****

 
 荷物整理も全て終了し、私は同室のアニータと話に花を咲かせていた。彼女はとても気さくなタイプで、私達はほんの僅かな時間でまるで古くからの親友のような関係になっていた。

「あ、もうすぐ夕食の時間よ」

不意にアニータが部屋の壁時計を見ると言った。時計はもうすぐ18時半になろうとしている。

「そう言えば夕食は18時半だったわね」

入寮案内に記載されていた規約を思い出しながら言った。

「ええ、そうよ。じきに寮母さんがベルを鳴らしながら教えてくれるわ」

するとその直後―

ガランガラン…
ガランガラン…

廊下にベルの音が響き渡った。

「あの音が夕食の合図よ、行きましょう」

アニータが嬉しそうに言う。

「ええ、行きましょう」


 2人で部屋を出ると、大勢の女子生徒達がぞろぞろと同じ方角目指して歩いている。彼女たちは全員私服姿で、勿論私もすでに自分の服に着替えていた。

「ここ、西塔には平民の生徒たちしかいないから何も気兼ねする事ないからね」

隣を歩くアニータが話しかけてきた。

「ええ、そうね。ところで…さっきから気になっている事があるのだけど…」

私は遠慮がちにアニータに尋ねた。

「いいわよ、何でも聞いてちょうだい。私は中等部からこの学園に通っているから詳しいわよ」

「ここの料理って…美味しい?」


****

「どう?この寮の食事は」

食堂で向かい合わせに座ったアニータが尋ねてきた。

「ええ、とっても美味しいわ。アニータの言ったとおりね」

目の前の料理を口に運びながら私は笑みを浮かべた。
焼き立てのフカフカテーブルパンにクリームスープ。ミートボールに野菜たっぷりのスープ…。とてもあの家で暮らしていた頃とは比べ物にならないくらい豪華な食事だ。お父様…フィリップはどうしているだろう。今も…食べ物に飢えているのだろうか?それとも…あの人は約束を守ってくれている…?

「どうしたの?ロザリー。今、ぼ~っとしていたけど」

向かい側に座るアニータが尋ねてきた。

「え?そうだった?」

「フフフ…とぼけなくてもいいわ。分かってるから」

アニータが含み笑いをする。

「え?何が?」

わけが分からず首を傾げる。

「レナート様の事を考えていたんでしょう?素敵な方だものね~」

「え、ええ。そうね…」

すると背後で声を掛けられた。

「ねぇ、貴女…昼間の騒ぎの中心になった人でしょう?」

振り向くとそこには赤毛の長い髪の少女と焦げ茶色の髪の少女が料理の乗ったトレーを手に、立っていた―。

しおりを挟む
感想 96

あなたにおすすめの小説

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

やり直すなら、貴方とは結婚しません

わらびもち
恋愛
「君となんて結婚しなければよかったよ」 「は…………?」  夫からの辛辣な言葉に、私は一瞬息をするのも忘れてしまった。

婚約破棄されました。

まるねこ
恋愛
私、ルナ・ブラウン。歳は本日14歳となったところですわ。家族は父ラスク・ブラウン公爵と母オリヴィエ、そして3つ上の兄、アーロの4人家族。 本日、私の14歳の誕生日のお祝いと、婚約者のお披露目会を兼ねたパーティーの場でそれは起こりました。 ド定番的な婚約破棄からの恋愛物です。 習作なので短めの話となります。 恋愛大賞に応募してみました。内容は変わっていませんが、少し文を整えています。 ふんわり設定で気軽に読んでいただければ幸いです。 Copyright©︎2020-まるねこ

ヒロインは辞退したいと思います。

三谷朱花
恋愛
リヴィアはソニエール男爵の庶子だった。15歳からファルギエール学園に入学し、第二王子のマクシム様との交流が始まり、そして、マクシム様の婚約者であるアンリエット様からいじめを受けるようになった……。 「あれ?アンリエット様の言ってることってまともじゃない?あれ?……どうして私、『ファルギエール学園の恋と魔法の花』のヒロインに転生してるんだっけ?」 前世の記憶を取り戻したリヴィアが、脱ヒロインを目指して四苦八苦する物語。 ※アルファポリスのみの公開です。

記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話

甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。 王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。 その時、王子の元に一通の手紙が届いた。 そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。 王子は絶望感に苛まれ後悔をする。

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

【完結】ふしだらな母親の娘は、私なのでしょうか?

イチモンジ・ルル
恋愛
奪われ続けた少女に届いた未知の熱が、すべてを変える―― 「ふしだら」と汚名を着せられた母。 その罪を背負わされ、虐げられてきた少女ノンナ。幼い頃から政略結婚に縛られ、美貌も才能も奪われ、父の愛すら失った彼女。だが、ある日奪われた魔法の力を取り戻し、信じられる仲間と共に立ち上がる。 歪められた世界で、隠された真実を暴き、奪われた人生を新たな未来に変えていく。 ――これは、過去の呪縛に立ち向かい、愛と希望を掴み、自らの手で未来を切り開く少女の戦いと成長の物語―― 旧タイトル ふしだらと言われた母親の娘は、実は私ではありません 他サイトにも投稿。

処理中です...