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1−2 遅い初恋

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「げっ!」
「ま、まずい…」
「あの人は…」

3名の学生達が青ざめて白い制服の学生を見ている。

「何をしているんだ?僕の声が聞こえたなかったのか?その女子生徒の手を離せと言っているだろう?」

その人は私の腕を掴んでいる学生に言った。

「す、すみませんっ!」

学生は私の腕をパッと離すと、3人揃って彼に頭を下げた。

「頭を下げるのは僕ではなく…」

そして彼はチラリと私を見ると言った。

「その女子生徒に謝るべきだろう?」

「「「な…っ!」」」

途端に3名の学生たちが青ざめる。周りで見ていたグレーの制服の学生たちもざわめいた。…一体何をそんなに騒ぐのだろう?
すると私の腕を掴んでいた学生が言った。

「あ、あの…ブランシュ様…それだけは許して頂けませんか…?」
「ええ、そうですよ。仮にも私達は貴族ですから」
「平民に頭を下げるなんて、それでは我々のプライドが…」

その言葉に納得した。…ああ、そういう事なのかと。彼等の中では貴族と平民の関係は絶対的なもの。どんな横暴な振る舞いをしても自分たちは貴族だから何をしても謝罪する必要は無いと言う事なのだ。平民の学生たちも俯いている。
すると彼が言った。

「貴族…?」

彼が小さく口の中で呟いた。

「ええ、そうです。我々は…貴族なのですから、どうか穏便に…」

ヘラヘラと笑みを浮かべる学生に彼が鋭い声で言った。

「貴族だから?プライドがあるから?だから平民には何をしても許されると思っているのか?僕には謝罪できるのに、彼女には出来ない?ふざけるなっ!お前たちは最初からここで平民の学生たちを見張っていただろう?風紀委員である僕の目を騙せるとでも思っていたのかっ?!そんなに貴族の権威を振るうと言うなら、僕もお前たちに同じことをしてもいいという事だなっ?!」

その言葉に3人の学生は益々青くなり、突然私の方を見ると頭を下げてきた。

「ごめんなさいっ!」
「俺達が悪かったですっ!」
「どうか許して下さいっ!」

学生たちは私に頭を下げたまま震えている。それを見た平民の学生たちが一斉にざわめいた。

「まぁ…貴族の学生たちが謝っているわ…」
「信じられない…」
「でも少し気分がいいかも…」

そう答えた学生は慌てて口元を押さえた。

「あ、あの…」

私に向かって頭を下げ続ける学生たちに戸惑っていると、彼が声を掛けてきた。

「君」

「はい」

「どうする?彼等はああやって頭を下げているけど…許すかい?それとも女の子に手を上げた罰を与えようか?」

「い、いえ!ば、罰なんてとんでもありません!もう…十分ですから」

慌てて答えると、彼は笑みを浮かべた。

「そうかい?ありがとう」

「い、いえ…」

その優しい笑みに思わず胸がドキリとした。彼はすぐに視線を3人の学生たちに移すと言った。

「聞こえたか?彼女がお前たちを許すと言ったのを」

「はい!」
「勿論です!」
「ちゃんと聞こえました!」

「…許しを貰えたならさっさと行け。ここはお前たちのエリアじゃないだろう?」

ため息混じりの彼の言葉に3人の学生たちは蜘蛛の子を散らす様に走り去っていった。彼は私達の様子を見ていた平民の学生たちをグルリと見渡すと頭を下げた。

「騒ぎを起こしてごめん」

「い、いえ!」
「そんな…ブランシュ様に謝って頂くなんて…!」

学生たちが次々に声を上げた。

「ありがとう、皆。もう行って構わないよ」

彼の言葉に学生たちは頭を下げると、それぞれ建物の中へと戻っていき…その場は私と彼の2人きりとなっていた。

「やっと静かになったな」

彼は周りを見渡すと言った。

「は、はい…」

「君はひょっとすると高等部から編入してきた学生かい?」

「はい、そうです」

頭を下げた。

「そうか、やっぱりね。大きな荷物を引っ張って歩いているから、ひょっとするとそうじゃないかと思っていたんだけど…ごめんね。驚いただろう?」

「は、はい。少しは…」

「この学園は皆が平等に…なんてうたっているけれど、実際はああいう貴族の学生がい多いのが現状なんだ。その為、定期的に…何かイベントがある時などは僕達風紀委員がこの辺りをパトロールしているんだよ。彼等が君たちのように…弱い立場の学生たちに手を出さないようにね」

「そうだったのですね」

「明日の入学式に参加する為に入寮するんだよね?」

「そうです」

「そうか、僕も君と同じ1年だよ。ひょっとすると同じクラスになるかも知れないね。そうだ、名前を教えておくよ。僕の名前はレナート・ブランシュ。君の名前は?」

「はい、私はロザリー・ダナンと申します」

頭を下げた。

「ロザリー・ダナンか…よろしく。ロザリー」

彼は私を見てニッコリと笑みを浮かべた。

「こ、こちらこそ…!」

思わず顔が赤くなる。

「ようこそ、『リーガルスクール』へ」

彼が私に言う。

「は、はい…!」

私の心臓が煩いくらいにドキドキしている。

これが、私の遅い初恋と…報われない恋の始まりだった―。
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