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72 許婚関係になった真実は

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「え・・?しゃ、借金の代替品・・?そ、そんな・・嘘よね?」

嘘だ、そんな話・・・初耳だ。

『嘘なものか。ちゃんと証文まで出てきたぞ?お前の父親は・・旅先で10年前、俺の父が経営するカジノへ遊びに来ていて・・多額の金額をスッてしまったんだよ。当時お前の父親は金に苦労していたみたいで・・それで2人に同じ年の娘と息子がいる話が出て、お前を俺の家に借金の代替品として差し出すことを条件に借金をチャラにしてしまったのさ。つまり・・テア。お前は父親に売られたんだよ。10年前にな?』

「その話・・ほ、本当なの・・・?」

駄目だ、受話器を持つ手が震えてしまう。

『こんな話・・・わざわざ作るはずないだろう?事実だよ。お前の父親のサインだって入ってるんだ。筆跡鑑定をすればすぐに分かるだろうさ?』

「だ、だったら・・・その借金を今払うわっ!いくらなの?!」

思わ大きな声を出してしまった。するとヘンリーが言った。

『それは無理だな。タイムオーバーだ。』

「え?ど・・・どういう事?」

『10年以内に借金が返済されなければ・・契約不履行として・・いくら借金を返しても通用しないのさ。つまり・・お前は俺の意志で許婚関係を破棄しない限りは勝手にお前から解消できないって事さ。』

「そ、そんな・・・。」

私は目の前が真っ暗になる気がした。しかし、私の絶望的な気持ちとは裏腹に彼の声は浮かれていた。

『テア、喜べよ。明日・・俺とデートしよう。11時に馬車で迎えに行ってやるよ。お前の好きなところならどこだって連れて行ってやるよ。ちゃんと・・今日みたいにめかしこんで来いよ?今日のお前・・すごく可愛かったぞ?』

以前の私なら・・ヘンリーのその言葉を嬉しく受け通ったかもしれないけれども、今ではその真逆だった。その言葉に全身に鳥肌が立ってしまったからだ。私は・・もう何があってもヘンリーを受け入れる事が出来なくなっていた。

「も、もし・・断ったら・・?」

『言っただろう?お前と俺は対等な関係じゃないって・・・でも俺はお前を無理やり服従させるつもりは全くないから安心しろよ。今まではお前に対して酷い態度ばかり取ってきたからな・・・すごく反省してるんだ。だからこれからは・・親切になるよ。約束する。それじゃ・・明日11時、待ってろよ?くれぐれも・・逃げようなんて考えるなよ?』

それだけ言うと・・電話は切られてしまった。

「あ・・・。」

途端に全身に震えが走り・・・私はその場の崩れ落ちてしまった。どうしよう、ヘンリーは本気だ。本気で明日私をデートに誘いに迎えに来る。

ヘンリーのお迎え・・・何故以前の私はそんなことを夢見ていたのだろう?今の私にとってヘンリーのお迎えは恐怖でしかない。

「お母さん。キャロル・・・お父さん・・・・。どうして・・よりにもよってこんな時に・・誰もいないの・・・?」


 私は絶望的な気持ちで立ち上がり・・自室へと向かった。

その夜・・私はほぼ一睡もすることが出来ず・・夜が明けた―。



****

 翌朝―10時


コトン

マリがブラシを置くと、ドレッサーに映る私に言う。

「テア様・・・すごくお綺麗です・・・。」

マリの声は・・元気が無かった。

「ええ・・ありがとう、マリ。」

確かにマリの言う通りだった。鏡に映る私はまるで別人のようだった。昨夜ヘンリーに言われたと通り、私はめかしこんだのだ。もし言いつけを守らなかった時の・・彼がどんな態度を取るか怖かったからだ。

「はぁ・・・・ヘンリーとデートなんて・・・行きたくない。」

思わずマリの前で本音が出てしまった。

「ううう・・おかわいそうなテア様・・。」

マリは涙ぐんでいる。

「泣かないで・・マリ。とりあえずヘンリーに言われた通り、おめかしはしたのだから・・・なるべく従順にふるまっていれば・・彼も酷い事は・・してこないと思うのよ・・。」

「テア様・・。」

「ねえ?マリ・・・心を落ち着ける為に・・ハーブティーをいれてもらえるかしら?」

「は、はい!承知致しましたっ!」

 それから・・ヘンリーが迎えに来るまでの時間・・・私は不安に押しつぶされそうになりながら待った―。


11時きっかりにヘンリーは現れた。今までそんなことは一度も無かったのに。

「テアッ!お待たせ・・さあ、君の為にバラの花束を用意したよ?」

「い・・いらっしゃい、ヘンリー。」

引きつりながらもなんとかヘンリーを迎え入れる。
ヘンリーは大量のバラの花を抱えて応接室へとやってきて・・めかしこんだ私を見て嬉しそうに目を細めた。

「テア・・・本当に見違えたよ。うん、俺は・・テアは磨けばきっと光り輝くと思っていたんだ。よし、これなら・・いけるだろう。」

いける・・・?いけるとは一体どういう意味なのだろうか?しかしヘンリーは私の肩にするりと腕を回すと言った。

「さあ・・それじゃデートに行こうか?」

耳元で囁かれ、全身にブワッと鳥肌が立った。その時―

バンッ!!

「お待ちなさいっ!!」

激しくドアが開かれ、応接室の中に飛び込んできた人物は―。






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