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49 ヘンリーと母
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朝食を終えた私は大学へ行く為にエントランスのドアを開けようとしたとき、背後から母に声を掛けられた。
「大学へ行くのね?テア。」
「はい、そういえば・・・お母さん。結局ダイニングルームには来なかったけど・・どうかしたの?」
すると母はクスリと笑うと言った。
「ええ・・・ちょっとね。害虫駆除をしていたものだから・・。」
「え?害虫駆除?」
「ええ、とっても大きな害虫だったわ・・・。図々しいことに丁度エントランスにいたのよ。だから排除してやったわ。ちょこまか逃げ回って少し苦労したけどね?」
母は気づいているのだろうか・・駆除が排除になっていることに。けれど・・。
「でも駆除に成功したのよね?良かったわ。そんな大きな害虫がいたら安心していられないもの。」
「ええそうよ。でもこれに懲りて、多分もう二度とここには来ないと思うわ。だから安心なさい。」
「はい、それじゃ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
私は母に手を振ると、ドアを開けて外へ出た。すると目の前にはもう私専用の馬車が待機していた。
「おはようございます。テア様。」
10年以上私の馬車の御者を務めてくれているベンが声を掛けてきた。
「おはよう、ベン。今日は16時半頃に迎えに来てくれる?」
「はい、承知しました。」
「よろしくね?」
そして乗り込むと、馬車は大学へ向けて走り出した―。
****
「どうもありがとう。」
大学へ到着し、ベンにお礼を言うと彼は帽子をちょっと上げて走り去って行った。その姿を見届けると、私は最初の講義である経営学のクラスへと向いながら、キャロルとヘンリーの3人で全て同じものを選択してしまっていたことに早くも後悔していた。きっとヘンリーとキャロルは同じ席同士で座っているだろう。その時は2人の邪魔にならないように離れた席に座ることにしよう。
解放されっぱなしのドアから教室を覗いてみた。ョロキョロと辺りを見渡し・・窓際の後ろの席でヘンリーとキャロルが隣同士で座っている姿を見つけた。
ヘンリーは笑顔でキャロルに話しかけ、キャロルもヘンリーと話をしている。けれどもキャロルはどこか上の空に見えた。・・気のせいだろうか?
「2人が一緒なら・・私は離れた席に座った方がいいわね。」
私は顔を見られないようにうつむいて、教室の中へと入り、一番廊下よりの席・・・つまりヘンリーとキャロルとは正反対の席に座り、授業が始まるのを待っていると、突然背後から声を掛けられた。
「あら?テアじゃないの?」
「え?」
驚いて顔を上げると、そこにはフリーダとレオナが立っていた。声を掛けてきたのはフリーダだった。
「あら?フリーダにレオナ・・・ひょっとして2人とも経営学の講義を受講していたの?」
私は交互に、2人を見ながら尋ねた。
「ええ、そうよ。ところで・・いいの?テア・・・。ヘンリーとキャロルを一緒にさせておいて・・?」
レオナがチラリと視線を送った先には、ヘンリーとキャロルが会話をしている。
「ええ・・いいのよ。あの2人の邪魔をしたら悪いでしょう?」
私の言葉にフリーダが言う。
「ううん、そうじゃなくて・・あれはどうみてもキャロルは迷惑そうにしているように見えるのだけど・・」
「え?」
一体どういう事だろう?キャロルとヘンリーの方に顔を向けると、ヘンリーはキャロルに一生懸命話しかけているが、キャロルはキョロキョロと辺りを探している。完全にヘンリーの話は聞いていないように見えた。
「ねえ、もしかして・・テア。貴女をさがしているんじゃない?」
レオナが私を見た。
「え・・?そうなのかしら・・?」
思わず席を立ちあがってキャロルを見ると、私に気づいたのか嬉しそうに手を振って手招きをしてきた。一方のヘンリーは私に目を向け、露骨に嫌そうな顔をする。
「ほら、やっぱりテアを待っていたんじゃない。行ってきなさいよ。」
「え、ええ・・。」
レオナに言われて私はカバンを持つと立ち上がり、キャロルの元へ向かった。
すると何故かヘンリーはガタンと席を立つとカバンを持ってそそくさと前の方に移動してしまった。
「おはよう、キャロル。」
近づきながら挨拶をした。
「おはよう、テア。腕の怪我、もう治ったのね?良かったわ。さ、ここに座って?」
キャロルは私が傍に来るとさっきまでヘンリーが座っていた席をポンポンと叩き、笑顔で言った。
「ありがとう、でも・・・何だかヘンリーに悪い事してしまったわ。」
「あら?どうして?」
「だってヘンリーが座っていたのに、私が来たばかりに席を移動してしまって・・・。」
「ああ・・・それね?どうも今朝、テアのお母さんに酷い目に遭わされたって言ってたから・・逃げたんじゃないの?」
「え?お母さんに・・?」
でも母からはヘンリーに会ったことは何も聞かされなかったけど・・・。酷い目・・一体何をされたのだろう?
するとすぐにチャイムが鳴り、教授が教室に入ってきたのでそれ以上の事はキャロルに聞くことが出来なくなってしまった。
こうして私はモヤモヤした気分のまま、講義を受ける事になった―。
「大学へ行くのね?テア。」
「はい、そういえば・・・お母さん。結局ダイニングルームには来なかったけど・・どうかしたの?」
すると母はクスリと笑うと言った。
「ええ・・・ちょっとね。害虫駆除をしていたものだから・・。」
「え?害虫駆除?」
「ええ、とっても大きな害虫だったわ・・・。図々しいことに丁度エントランスにいたのよ。だから排除してやったわ。ちょこまか逃げ回って少し苦労したけどね?」
母は気づいているのだろうか・・駆除が排除になっていることに。けれど・・。
「でも駆除に成功したのよね?良かったわ。そんな大きな害虫がいたら安心していられないもの。」
「ええそうよ。でもこれに懲りて、多分もう二度とここには来ないと思うわ。だから安心なさい。」
「はい、それじゃ行ってきます。」
「行ってらっしゃい。」
私は母に手を振ると、ドアを開けて外へ出た。すると目の前にはもう私専用の馬車が待機していた。
「おはようございます。テア様。」
10年以上私の馬車の御者を務めてくれているベンが声を掛けてきた。
「おはよう、ベン。今日は16時半頃に迎えに来てくれる?」
「はい、承知しました。」
「よろしくね?」
そして乗り込むと、馬車は大学へ向けて走り出した―。
****
「どうもありがとう。」
大学へ到着し、ベンにお礼を言うと彼は帽子をちょっと上げて走り去って行った。その姿を見届けると、私は最初の講義である経営学のクラスへと向いながら、キャロルとヘンリーの3人で全て同じものを選択してしまっていたことに早くも後悔していた。きっとヘンリーとキャロルは同じ席同士で座っているだろう。その時は2人の邪魔にならないように離れた席に座ることにしよう。
解放されっぱなしのドアから教室を覗いてみた。ョロキョロと辺りを見渡し・・窓際の後ろの席でヘンリーとキャロルが隣同士で座っている姿を見つけた。
ヘンリーは笑顔でキャロルに話しかけ、キャロルもヘンリーと話をしている。けれどもキャロルはどこか上の空に見えた。・・気のせいだろうか?
「2人が一緒なら・・私は離れた席に座った方がいいわね。」
私は顔を見られないようにうつむいて、教室の中へと入り、一番廊下よりの席・・・つまりヘンリーとキャロルとは正反対の席に座り、授業が始まるのを待っていると、突然背後から声を掛けられた。
「あら?テアじゃないの?」
「え?」
驚いて顔を上げると、そこにはフリーダとレオナが立っていた。声を掛けてきたのはフリーダだった。
「あら?フリーダにレオナ・・・ひょっとして2人とも経営学の講義を受講していたの?」
私は交互に、2人を見ながら尋ねた。
「ええ、そうよ。ところで・・いいの?テア・・・。ヘンリーとキャロルを一緒にさせておいて・・?」
レオナがチラリと視線を送った先には、ヘンリーとキャロルが会話をしている。
「ええ・・いいのよ。あの2人の邪魔をしたら悪いでしょう?」
私の言葉にフリーダが言う。
「ううん、そうじゃなくて・・あれはどうみてもキャロルは迷惑そうにしているように見えるのだけど・・」
「え?」
一体どういう事だろう?キャロルとヘンリーの方に顔を向けると、ヘンリーはキャロルに一生懸命話しかけているが、キャロルはキョロキョロと辺りを探している。完全にヘンリーの話は聞いていないように見えた。
「ねえ、もしかして・・テア。貴女をさがしているんじゃない?」
レオナが私を見た。
「え・・?そうなのかしら・・?」
思わず席を立ちあがってキャロルを見ると、私に気づいたのか嬉しそうに手を振って手招きをしてきた。一方のヘンリーは私に目を向け、露骨に嫌そうな顔をする。
「ほら、やっぱりテアを待っていたんじゃない。行ってきなさいよ。」
「え、ええ・・。」
レオナに言われて私はカバンを持つと立ち上がり、キャロルの元へ向かった。
すると何故かヘンリーはガタンと席を立つとカバンを持ってそそくさと前の方に移動してしまった。
「おはよう、キャロル。」
近づきながら挨拶をした。
「おはよう、テア。腕の怪我、もう治ったのね?良かったわ。さ、ここに座って?」
キャロルは私が傍に来るとさっきまでヘンリーが座っていた席をポンポンと叩き、笑顔で言った。
「ありがとう、でも・・・何だかヘンリーに悪い事してしまったわ。」
「あら?どうして?」
「だってヘンリーが座っていたのに、私が来たばかりに席を移動してしまって・・・。」
「ああ・・・それね?どうも今朝、テアのお母さんに酷い目に遭わされたって言ってたから・・逃げたんじゃないの?」
「え?お母さんに・・?」
でも母からはヘンリーに会ったことは何も聞かされなかったけど・・・。酷い目・・一体何をされたのだろう?
するとすぐにチャイムが鳴り、教授が教室に入ってきたのでそれ以上の事はキャロルに聞くことが出来なくなってしまった。
こうして私はモヤモヤした気分のまま、講義を受ける事になった―。
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