上 下
16 / 77

16 ヘンリーの怒りの理由

しおりを挟む
「ま、待って・・・ヘンリー。腕が痛いから・・は、離してくれる・・?」

「・・・。」

しかし、ヘンリーは私の声が届いていないのか、無言のまま大股で歩き続けている。

今私はヘンリーに無理やり右手首を掴まれて、引っ張られるように廊下を歩かされていた。一体・・・彼は私を何所へ連れて行くつもりなのだろう?それに・・どうしてキャロルはいないのだろう?

 そのまま私は人気の無い中庭へ連れて来られると、掴んでいた手首をヘンリーは乱暴に離した。ようやく手首を解放された私はそっと左手で捕まれていた右手首に触れてみると、紫色の痣が出来ている。

「・・・。」

今までこれほどまでに乱暴な扱いを受けたことが無かった私は驚いてヘンリーを見た。

「ヘンリー・・・。どうしたの?何故そんなに怒っているの・・?私、何か貴方を怒らせるような事・・してしまった?」

「ああ・・そうだ。テアッ!お前のせいでキャロルは怪我をしたんだぞっ!」

「えっ?!キャロルが・・怪我をっ?!ど、どうして・・・?!」

「お前がフリーダとレオナの3人で行ってしまったから、キャロルはお前の後を追って、走った時に転んでしまったんだ。その時に足首をくじいてしまったんだよ。」

「え・・?」

確かに私はキャロルの前からいなくなってしまったけれども・・転んで怪我をしたのは私のせいになってしまうのだろうか・・?私のそんな心の機微に気づいたのかヘンリーが言った。

「何だ?その不服そうな目は・・キャロルが怪我したのは自分には関係ないと思っているのか?」

「いいえ、そんな事無いわ。・・私がいけなかったのよ・・・。それでキャロルは何所にいるの?」

「キャロルは医務室にいる。・・お前を呼んでいるんだよ。行ってやってくれ。」

忌々し気に言うヘンリー。キャロルが私を呼んでいるのが余程気に入らないらしい。

「分ったわ・・行って来るわね。」

医務室に向かって歩き始めると、距離を空けてヘンリーも後からついて来た。

「・・・。」

私は後ろを振り返らないように歩き、医務室を目指した。歩くたびにヘンリーに掴まれた右手首がズキズキ痛む。そっとブラウスの袖をまくってみれば、さっきよりも赤黒く腫れていた。ヘンリーがついて来なければ・・ついでに右手首を診察して貰えるのだけど、彼の前で診察をして貰うのは気が引けた。・・・後で水で冷やしておこう・・・私はそう考えた。


****

医務室に辿り着いた私は左手でドアをノックした。

コンコン

すると・・・

カチャリとドアノブが回り、ドアが開いた。そこには眼鏡をかけた長い髪を後ろで結わえた白衣姿の若い男性がいた。

「患者さんかい?」

「いいえ・・こちらに足首を怪我した女子学生がいるはずなのですが・・。」

すると彼は「ああ」と頷き、ドアを大きく開け放つと言った。

「どうぞ。」

「ありがとうございます。」

頭を下げて医務室の中へ入ると、ヘンリーも続いて中に入ろうとする。すると・・。

「ストップ。君は入らないでくれ。」

先生はヘンリーが中へ入ろうとするのを止めた。

「何故ですか?」

ヘンリーはジロリと先生を睨み付けた。

「それは彼女が君は中に入らないでくれと言っているからだよ。彼女と2人きりで話がしたいそうだ。さ、どうぞ。」

先生は私を招き入れると、ヘンリーに言った。

「君はここで待っていてくれ。」

そしてバタンとドアを閉めてしまった。すると・・・・。

「テア。」

背後で声が聞こえた。振り向くとそこには椅子に座り、左足首に包帯を巻いたキャロルの姿があった。

「キャロル。ごめんなさい。私が勝手にいなくなってしまったから・・。」

キャロルの傍によると私は彼女の手を取り、謝った。

「いいのよ、だって怪我をしたのは私が悪いんだもの。テアは何も悪くはないわ。でも・・。」

キャロルは私の手をそっと握りしめると言った。

「お願い・・私から離れていかないでね?」

そう言ってニッコリ微笑んだ―。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

今さら後悔しても知りません 婚約者は浮気相手に夢中なようなので消えてさしあげます

神崎 ルナ
恋愛
旧題:長年の婚約者は政略結婚の私より、恋愛結婚をしたい相手がいるようなので、消えてあげようと思います。 【奨励賞頂きましたっ( ゚Д゚) ありがとうございます(人''▽`)】 コッペリア・マドルーク公爵令嬢は、王太子アレンの婚約者として良好な関係を維持してきたと思っていた。  だが、ある時アレンとマリアの会話を聞いてしまう。 「あんな堅苦しい女性は苦手だ。もし許されるのであれば、君を王太子妃にしたかった」  マリア・ダグラス男爵令嬢は下級貴族であり、王太子と婚約などできるはずもない。 (そう。そんなに彼女が良かったの)  長年に渡る王太子妃教育を耐えてきた彼女がそう決意を固めるのも早かった。  何故なら、彼らは将来自分達の子を王に据え、更にはコッペリアに公務を押し付け、自分達だけ遊び惚けていようとしているようだったから。 (私は都合のいい道具なの?)  絶望したコッペリアは毒薬を入手しようと、お忍びでとある店を探す。  侍女達が話していたのはここだろうか?  店に入ると老婆が迎えてくれ、コッペリアに何が入用か、と尋ねてきた。  コッペリアが正直に全て話すと、 「今のあんたにぴったりの物がある」  渡されたのは、小瓶に入った液状の薬。 「体を休める薬だよ。ん? 毒じゃないのかって? まあ、似たようなものだね。これを飲んだらあんたは眠る。ただし」  そこで老婆は言葉を切った。 「目覚めるには条件がある。それを満たすのは並大抵のことじゃ出来ないよ。下手をすれば永遠に眠ることになる。それでもいいのかい?」  コッペリアは深く頷いた。  薬を飲んだコッペリアは眠りについた。  そして――。  アレン王子と向かい合うコッペリア(?)がいた。 「は? 書類の整理を手伝え? お断り致しますわ」 ※お読み頂きありがとうございます(人''▽`) hotランキング、全ての小説、恋愛小説ランキングにて1位をいただきました( ゚Д゚)  (2023.2.3)  ありがとうございますっm(__)m ジャンピング土下座×1000000 ※お読みくださり有難うございました(人''▽`) 完結しました(^▽^)

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

私のことが大嫌いらしい婚約者に婚約破棄を告げてみた結果。

夢風 月
恋愛
 カルディア王国公爵家令嬢シャルロットには7歳の時から婚約者がいたが、何故かその相手である第二王子から酷く嫌われていた。  顔を合わせれば睨まれ、嫌味を言われ、周囲の貴族達からは哀れみの目を向けられる日々。  我慢の限界を迎えたシャルロットは、両親と国王を脅……説得して、自分たちの婚約を解消させた。  そしてパーティーにて、いつものように冷たい態度をとる婚約者にこう言い放つ。 「私と殿下の婚約は解消されました。今までありがとうございました!」  そうして笑顔でパーティー会場を後にしたシャルロットだったが……次の日から何故か婚約を解消したはずのキースが家に押しかけてくるようになった。 「なんで今更元婚約者の私に会いに来るんですか!?」 「……好きだからだ」 「……はい?」  いろんな意味でたくましい公爵令嬢と、不器用すぎる王子との恋物語──。 ※タグをよくご確認ください※

王子妃だった記憶はもう消えました。

cyaru
恋愛
記憶を失った第二王子妃シルヴェーヌ。シルヴェーヌに寄り添う騎士クロヴィス。 元々は王太子であるセレスタンの婚約者だったにも関わらず、嫁いだのは第二王子ディオンの元だった。 実家の公爵家にも疎まれ、夫となった第二王子ディオンには愛する人がいる。 記憶が戻っても自分に居場所はあるのだろうかと悩むシルヴェーヌだった。 記憶を取り戻そうと動き始めたシルヴェーヌを支えるものと、邪魔するものが居る。 記憶が戻った時、それは、それまでの日常が崩れる時だった。 ★1話目の文末に時間的流れの追記をしました(7月26日) ●ゆっくりめの更新です(ちょっと本業とダブルヘッダーなので) ●ルビ多め。鬱陶しく感じる方もいるかも知れませんがご了承ください。  敢えて常用漢字などの読み方を変えている部分もあります。 ●作中の通貨単位はケラ。1ケラ=1円くらいの感じです。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※異世界の創作話です。時代設定、史実に基づいた話ではありません。リアルな世界の常識と混同されないようお願いします。 ※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。登場人物、場所全て架空です。 ※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

「わかれよう」そうおっしゃったのはあなたの方だったのに。

友坂 悠
恋愛
侯爵夫人のマリエルは、夫のジュリウスから一年後の離縁を提案される。 あと一年白い結婚を続ければ、世間体を気にせず離婚できるから、と。 ジュリウスにとっては亡き父が進めた政略結婚、侯爵位を継いだ今、それを解消したいと思っていたのだった。 「君にだってきっと本当に好きな人が現れるさ。私は元々こうした政略婚は嫌いだったんだ。父に逆らうことができず君を娶ってしまったことは本当に後悔している。だからさ、一年後には離婚をして、第二の人生をちゃんと歩んでいくべきだと思うんだよ。お互いにね」 「わかりました……」 「私は君を解放してあげたいんだ。君が幸せになるために」 そうおっしゃるジュリウスに、逆らうこともできず受け入れるマリエルだったけれど……。 勘違い、すれ違いな夫婦の恋。 前半はヒロイン、中盤はヒーロー視点でお贈りします。 四万字ほどの中編。お楽しみいただけたらうれしいです。

婚約者を想うのをやめました

かぐや
恋愛
女性を侍らしてばかりの婚約者に私は宣言した。 「もうあなたを愛するのをやめますので、どうぞご自由に」 最初は婚約者も頷くが、彼女が自分の側にいることがなくなってから初めて色々なことに気づき始める。 *書籍化しました。応援してくださった読者様、ありがとうございます。

処理中です...