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滅亡したオーランド王国の国王と皇女たちの物語 3

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 出港して5日目―。

 今にも沈没寸前の漁船に乗せられた我々は船内で馬車馬のように働かされた。室内の掃除や、網の修繕、釣った魚の仕分けや餌の準備…。慣れない船の上での仕事はまさに酔いとの戦いだった。娘たちはこんな思いをするくらいなら、いっそ海の藻屑となったほうがマシだと樽を抱えたまま泣き言を言うしで散々だった。
私だって何度そう思ったかしれない。だがしかし、大事な可愛い我が娘レベッカに会うまでは絶対に死ぬわけにはいかないのだ。私は必死になって気力で船酔いを打ち負かし、頑張って働いた。船酔いで使い物にならなくなった出来そこないの娘たちの分まで。
そして途中、島々に寄って燃料を補給しながら、ついに本日かつてオーランド王国があった大陸へと到着したのだった―。


何所までも広がる大海原と青い空を背景に私と船長は向かい合って立っていた。

「いや~。あんたのお陰で助かったよ。無事に漁を終わらせることが出来た」

私をこの沈没寸前の漁船に誘った船長が笑顔で握手を求めてきた。

「いや、こちらこそ5日間世話になった。感謝する」

私も男の手を握り返した。

「それにしてもあんた、なかなかやるな。たった5日間しか漁船に乗ってないのに、今や完全に海の男の顔になってるぞ?」

船長は私を上から下までジロジロ見ると言った。確かに自分でも僅か5日間で驚くべき変貌を遂げたと思っている。顔は浅黒く日焼けし、紙は潮風にやられて栗毛色だった髪の色が今や金色になっている。そして顔には無精髭。かつてグランダ王国の国王だった頃の私を知る者は今の私を見れば相当驚く事だろう。娘たちでさえ私の変貌ぶりに驚愕し、何故か私から距離を置くようになってしまった。

「ああ。自分でも随分変わったのは自覚している。だが、今の姿の自分の方が好きだ。お前たちの漁船の乗組員になった事で、何かが変わった気がしている」

「ふん!だが、口調だけは変わらなかったな。まるで王様のような尊大な口調…。俺だから良かったものの、他の連中には気を付けたほうがいいぞ。いざこざにまきこまれたくなければな?」

船長はニヤリと笑った。王様のようなと言うが、実際私は国王だった。生まれつきこのような言葉遣いをしていたので今更直せと言うのは、無理がある。

「ああ、分った。何とか善処してみるとしよう。世話になったな。さらばだ」

「ああ、元気でな!」

船長と私は堅く握手を交わすと彼に背を向け、既に馬車の荷台に乗って待機している娘たちの元へ、大股で向かった。

「待たせたな、お前達!ではすぐに町へ向かって出発だ!」

御者台に座り、手綱を掴むと娘たちを振り返る。

「全く、いつまで男同士で気持ち悪い別れを惜しんでいるのよ」

一番親不孝者のエミリーがふてくされた顔でこちらを睨んでくる。

「本当よ、早く町に行って熱いシャワーを浴びたいわ。体中塩風でベタベタで気持ち悪いわよ」

エリザベスが泣きごとを言う。

「ああ、早くさっぱりしてお酒を飲みたいわ!」

すっかりワイルドな顔つきと性格に変貌したジョセフィーヌ。うむ、流石は長女の事だけある。他の娘たちより根性もある。

「よし!それでは飛ばすぞ!お前達、舌を噛まないように口を閉じていろよ!」

そして私は馬に鞭を振るった。

ヒヒーンっ!!

馬が大きな声でいななき、途端に物凄い勢いで走り出した。途端に馬車がガラガラ大きな音を立てて動き出す。やがて前方には大きな丘が見えてきた。

「フハハハ…!この丘を越えれば、かつてグランダ王国があった町へ辿り着くのだ!レベッカ!どうか無事でいろよ!」

高笑いしながら、私は馬を走らせるのだった―。


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