上 下
8 / 194

レベッカの過去 2

しおりを挟む
 それは10月―実りの季節の時期。
突然父と名乗る人が私とミラージュが住む小屋へ現れたのだった。


 その日は朝から2人で収穫した小麦粉を使って台所でパンを作っていた時・・・突然小屋がガタガタと小刻みに揺れ始めた。

「あら・・何でしょう?この地響きは・・。」

ミラージュがパンを作る手を止めて、窓の方へ歩み寄り、外を覗き込むと慌てたように声を掛けてきた。

「た、大変ですっ!レベッカ様っ!大きな馬車が・・こちらへ向かって近づいてきていますっ!」

「ええっ?!馬車が?!」

粉まみれになった身体でミラージュの傍へ行き、足元に置いてあった木箱の上によじ登り、窓の外を見た私は驚いてしまった。
今までに見たこともないくらい、立派な馬車が2頭の馬に引かれてこちらへ向かってどんどん近づいてくる。

「どうしましょう?レベッカ様。迎え撃ちましょうか?」

レベッカが頭からドラゴンの角をニョキニョキ伸ばしながら私の方を振り向いた。

「駄目駄目。ミラージュ、落ち着いて。とりあえずその角を引っ込めて頂戴。あれはお城の馬車かもしれないわ。」

「まあ・・お城の?この小屋にですか?あ・・そういえばこの間お手紙が入っていましたよね?」

ミラージュが思い出したかのように言う。

「ええ。あのお手紙に書いてあったのよ。近々、迎えをよこすって。それは・・この事だったのかもしれないわ。」

等と話している間に、とうとう馬車はこの小屋の前で止まった。

「あ、ほらほら、ミラージュ。早く頭の角をしまって。」

「は、はい!レベッカ様っ!とりあえず、私が対応するのでレベッカ様は台所の奥に隠れていてください。」

「分かったわ、ミラージュ。」

何故隠れなければならないのか分からなかったが、私は返事をするとミラージュの言う通り、台所の棚の陰に隠れた。

そうこうしているうちに、小屋のドアがノックもなしに乱暴に開けられた。


「何だ・・・随分汚らしい小屋だな・・本当にこんなところに住んでいるのか?」

失礼なことを言いながら小屋の中に足を踏み入れてきたのは口ひげを生やし、マントを羽織った偉そうな男だった。

「はい、間違いありません。末姫様はこの小屋に住んでらっしゃいます。」

付き人と思われる男性が背後から声を掛けている。他にも数名の兵士らしき人物たちがいるが、彼らは無言で立っていた。

「失礼ですが、どちら様でいらっしゃいますか?」

ミラージュは角を隠すのが間に合わなかったのか、頭に頭巾をかぶった状態でマントを羽織った男性の前に立った。私は物陰からそっと様子を伺う。

「誰だ?お前は?」

口髭マント男は偉そうな態度でミラージュに対峙する。ミラージュ・・耐えるのよ!貴女はプライドが高い神獣と呼ばれるドラゴンの化身だけど・・この山小屋で暴れたら、私たちまた住む場所を失ってしまうからねっ?!

「は?いきなりノックもせずに、そのような偉そうな態度・・・一体貴方はどちら様ですか?」

しかし、ミラージュは喧嘩腰に対応する。だ、駄目だわ・・・あのままでは、ミラージュは・・!!

「何だ・・・お前は。随分無礼な女だな・・・。このわしが誰か分からんのか?」

「ええ、知りませんわ。ご覧の通り、森の中に住んでいる田舎者ですので。」

すると付き人らしき人物が口髭マント男に言う。

「陛下、この人物はどうやら末姫様の侍女と思われます。あのレイラ様の侍女だった荘です。」

「何?レイラの・・・?言われて見ればそのような人物がいたような気がするな・・・。」

「な、何ですって?!いたような気がする・・・?!」

ミラージュが怒りに震え始めた。ま、まずい・・・っ!私は慌てて台所から姿を現した。

「あ、あの・・・どちら様ですか?」

そしてわざとオドオドした様子で口髭マント男を見上げる。

「おおっ!お前が・・・レベッカか?」

「はい、そうです。」

頷くて、口髭マント男が笑みを浮かべて私に言う。

「そうか・・・お前がわしの娘のレベッカだな?よし、今から城へ向かうぞ?今日からお前は・・城で暮らすのだ。」


 こうして私は有無を言わさず、城へ連れて行かれた。勿論ミラージュも一緒に。

この時の私は何故城へ連れて行かれることになったのか・・・知る由も無かった―。




しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

転生調理令嬢は諦めることを知らない

eggy
ファンタジー
リュシドール子爵の長女オリアーヌは七歳のとき事故で両親を失い、自分は片足が不自由になった。 それでも残された生まれたばかりの弟ランベールを、一人で立派に育てよう、と決心する。 子爵家跡継ぎのランベールが成人するまで、親戚から暫定爵位継承の夫婦を領地領主邸に迎えることになった。 最初愛想のよかった夫婦は、次第に家乗っ取りに向けた行動を始める。 八歳でオリアーヌは、『調理』の加護を得る。食材に限り刃物なしで切断ができる。細かい調味料などを離れたところに瞬間移動させられる。その他、調理の腕が向上する能力だ。 それを「貴族に相応しくない」と断じて、子爵はオリアーヌを厨房で働かせることにした。 また夫婦は、自分の息子をランベールと入れ替える画策を始めた。 オリアーヌが十三歳になったとき、子爵は隣領の伯爵に加護の実験台としてランベールを売り渡してしまう。 同時にオリアーヌを子爵家から追放する、と宣言した。 それを機に、オリアーヌは弟を取り戻す旅に出る。まず最初に、隣町まで少なくとも二日以上かかる危険な魔獣の出る街道を、杖つきの徒歩で、武器も護衛もなしに、不眠で、歩ききらなければならない。 弟を取り戻すまで絶対諦めない、ド根性令嬢の冒険が始まる。  主人公が酷く虐げられる描写が苦手な方は、回避をお薦めします。そういう意味もあって、R15指定をしています。  追放令嬢ものに分類されるのでしょうが、追放後の展開はあまり類を見ないものになっていると思います。  2章立てになりますが、1章終盤から2章にかけては、「令嬢」のイメージがぶち壊されるかもしれません。不快に思われる方にはご容赦いただければと存じます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!

たぬきち25番
恋愛
 気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡ ※マルチエンディングです!! コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m 2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。 楽しんで頂けると幸いです。

いや、あんたらアホでしょ

青太郎
恋愛
約束は3年。 3年経ったら離縁する手筈だったのに… 彼らはそれを忘れてしまったのだろうか。 全7話程の短編です。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

処理中です...