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第9章 3 新しい生活の始まり
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ヒルダの荷物の片付けは左程時間がかからなかった。あらかた必要なものは運び終わっていたし、収納場所は余るほどあったからである。作業を始めて2時間ほどで全て終了したので、ヒルダはリビングへ向かった。
そっとリビングを覗き込むと、ノワールは原稿用紙と資料の為に集めたと思われる大量の本に囲まれるようにペンを走らせていた。
(お仕事の邪魔をしてはいけないわね…)
そこでヒルダはノワールの為にお茶を用意しようと考えついた。既にヒルダはノワールのアシスタントとしてこの家を訪れているのでキッチンの状況は把握していた。
自室に戻り、引き出しから白いエプロンを取り出して身につけると早速ヒルダはキッチンへ向かった。
幸いこの家には水道もキッチン・ストーブも完備されているので簡単にケトルでお湯を沸かすことが出来る。以前のアパートメント暮らしを考えれば雲泥の差だった。
(本当にこんな素敵な家に住まわせて下さるノワール様には感謝しなくては…)
ヒルダはお茶の準備をしながら思うのだった―。
「ん?」
執筆作業に没頭していたノワールはコーヒーの香りに気づき、顔を上げるとそこにはエプロンをしめ、コーヒーを運んできたヒルダの姿があった。
「ああ、ヒルダ…すまなかった。全然気づかなくて。コーヒーを淹れてくれたのか?」
「はい、お仕事の合間にお飲み下さい」
ノワールの近くにコーヒーカップを置いた。
「ありがとう、折角だから今もらおう」
原稿用紙と積み重なった本を脇にどかすと、ノワールはコーヒーカップを引き寄せ手香りを嗅いだ。
「うん、いい香りだ」
そしてテーブルの側に立つヒルダに気付いた。
「ヒルダは一緒に飲まないのか?」
「え?でも…お仕事中ですよね?お邪魔ではありませんか?」
「俺がヒルダを邪魔に思うはずないだろう?そうでなければ一緒に暮らすことを提案などしない」
ぶっきらぼうな言い方ではあったが、何となくその言葉に温かみを感じた。ノワールと一緒に過ごす時間が増えていくにつれ、ヒルダにはノワールの人となりが理解出来るようになっていた。
「…ありがとうございます。では私もお茶を持ってきますね」
ヒルダは笑みを浮かべてノワールを見た。
「…ああ」
そしてヒルダがキッチンに消えるとノワールはポツリと言った。
「…参ったな…」
その顔は耳まで赤くなっていた―。
****
2人で向かい合わせにノワールはコーヒーを、ヒルダは紅茶を飲んでいた。
「片付けは終わったのか?」
ノワールが尋ねてきた。
「はい、終わりました」
「随分早かったな?」
「収納棚が沢山遭ったお陰です。ありがとうございます」
その時―
ボーンボーンボーン
12時を告げる振り子時計が鳴った。
「あ、もうこんな時間だったのですね。食事作りますね。何かリクエストありますか?」
「いや、今日の準備はいい。実は今朝ヒルダが来る前に朝市で色々食べ物を買ってきたんだ。それを2人で食べよう」
「まぁ、この辺に朝市があるのですか?」
「週末になると海岸通に屋台が並ぶ。なのでこれからはそこで週末は買って食べようかと思っているんだ」
そしてノワールは席を立つと5分ほどで戻ってきた。右手には紙袋、左手には2枚の大皿をてにしている。
「今テーブルの上をどかすから待っていてくれ」
「はい」
ノワールはテーブルの端に本と原稿用紙を置くと、紙袋の中からサンドイッチやスコーン、マフィン等を取り出し、皿の上に置いていく。
「まぁ…すごい量ですね」
「ああ、好きなだけ食べていいぞ」
「ありがとうございます」
「別に礼を言われるほどのことでは無いさ」
そしてノワールは口元に少しだけ笑みを浮かべてヒルダを見た―。
そっとリビングを覗き込むと、ノワールは原稿用紙と資料の為に集めたと思われる大量の本に囲まれるようにペンを走らせていた。
(お仕事の邪魔をしてはいけないわね…)
そこでヒルダはノワールの為にお茶を用意しようと考えついた。既にヒルダはノワールのアシスタントとしてこの家を訪れているのでキッチンの状況は把握していた。
自室に戻り、引き出しから白いエプロンを取り出して身につけると早速ヒルダはキッチンへ向かった。
幸いこの家には水道もキッチン・ストーブも完備されているので簡単にケトルでお湯を沸かすことが出来る。以前のアパートメント暮らしを考えれば雲泥の差だった。
(本当にこんな素敵な家に住まわせて下さるノワール様には感謝しなくては…)
ヒルダはお茶の準備をしながら思うのだった―。
「ん?」
執筆作業に没頭していたノワールはコーヒーの香りに気づき、顔を上げるとそこにはエプロンをしめ、コーヒーを運んできたヒルダの姿があった。
「ああ、ヒルダ…すまなかった。全然気づかなくて。コーヒーを淹れてくれたのか?」
「はい、お仕事の合間にお飲み下さい」
ノワールの近くにコーヒーカップを置いた。
「ありがとう、折角だから今もらおう」
原稿用紙と積み重なった本を脇にどかすと、ノワールはコーヒーカップを引き寄せ手香りを嗅いだ。
「うん、いい香りだ」
そしてテーブルの側に立つヒルダに気付いた。
「ヒルダは一緒に飲まないのか?」
「え?でも…お仕事中ですよね?お邪魔ではありませんか?」
「俺がヒルダを邪魔に思うはずないだろう?そうでなければ一緒に暮らすことを提案などしない」
ぶっきらぼうな言い方ではあったが、何となくその言葉に温かみを感じた。ノワールと一緒に過ごす時間が増えていくにつれ、ヒルダにはノワールの人となりが理解出来るようになっていた。
「…ありがとうございます。では私もお茶を持ってきますね」
ヒルダは笑みを浮かべてノワールを見た。
「…ああ」
そしてヒルダがキッチンに消えるとノワールはポツリと言った。
「…参ったな…」
その顔は耳まで赤くなっていた―。
****
2人で向かい合わせにノワールはコーヒーを、ヒルダは紅茶を飲んでいた。
「片付けは終わったのか?」
ノワールが尋ねてきた。
「はい、終わりました」
「随分早かったな?」
「収納棚が沢山遭ったお陰です。ありがとうございます」
その時―
ボーンボーンボーン
12時を告げる振り子時計が鳴った。
「あ、もうこんな時間だったのですね。食事作りますね。何かリクエストありますか?」
「いや、今日の準備はいい。実は今朝ヒルダが来る前に朝市で色々食べ物を買ってきたんだ。それを2人で食べよう」
「まぁ、この辺に朝市があるのですか?」
「週末になると海岸通に屋台が並ぶ。なのでこれからはそこで週末は買って食べようかと思っているんだ」
そしてノワールは席を立つと5分ほどで戻ってきた。右手には紙袋、左手には2枚の大皿をてにしている。
「今テーブルの上をどかすから待っていてくれ」
「はい」
ノワールはテーブルの端に本と原稿用紙を置くと、紙袋の中からサンドイッチやスコーン、マフィン等を取り出し、皿の上に置いていく。
「まぁ…すごい量ですね」
「ああ、好きなだけ食べていいぞ」
「ありがとうございます」
「別に礼を言われるほどのことでは無いさ」
そしてノワールは口元に少しだけ笑みを浮かべてヒルダを見た―。
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