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第8章 3 疲れ切ったヒルダ
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17時40分―
カミラはヒルダが無事に帰って来るかどうか心配でならなかった。
(こんな事ならやはり今日はアルバイトをお休みさせて頂くべきだったわ…)
いつもならもう帰っている時間なのにまだ帰宅してこないヒルダの事を思うといてもたってもいられず、ついに我慢出来なくなったカミラはコートに袖を通したその時―
カチャリと扉が開かれる音が聞こえ、元気の無い声のヒルダが帰宅してきた。
「ただいま…」
「ヒルダ様っ!」
カミラは急いで玄関へ迎えに行き…扉の前で立っているヒルダを目にした途端、強くヒルダを抱きしめた。
「ヒルダ様…っ!」
「どうしたの…?カミラ」
ヒルダは戸惑いながらカミラに尋ねた。
「い、いえ…ヒルダ様のお帰りが遅くて…とても心配になってしまったものですから…つ、つい…」
カミラはヒルダを抱きしめたまま言う。
「そうだったの?ごめんなさい、心配かけて…」
するとカミラはヒルダの身体から離れると尋ねた。
「ヒルダ様…大丈夫ですか…?」
「え?何が?」
「い、いえ。その…」
カミラはどうしてもエドガーの事は口に出せなかった。もし今エドガーの名前を口にすればヒルダが壊れてしまう様な気がしたからだ。
「それよりも見て、カミラ。アルバイト先で今夜の夕食にどうぞってお料理を分けて頂いたの。今夜はこれでお食事にしましょう?」
ヒルダはカミラにバスケットを見せながら言った。
「ええ。そうですね。そうしましょう。さ、ヒルダ様。外は寒かったでしょうからリビングへ行きましょう。お部屋が温まっておりますよ」
「ええ。ありがとう、カミラ」
そしてヒルダはコートを脱いで、フックに掛けると足を引きずりながらリビングへと向かった―。
リンダとレイチェルが作ってくれた料理をテーブルに並べながらカミラがヒルダに尋ねた。
「ヒルダ様、今日のお仕事はどうでしたか?」
「ええ、そうね。今日はあまり患者さんがいらっしゃらなかったわ。きっと寒かったからね。だからそれ程大変じゃ無かったわ」
ヒルダは薪ストーブの前で暖まりながら返事をした。
「お食事の用意が出来ましたからいらして下さい」
料理とお皿を並べ終えたカミラはヒルダに声を掛けた。
「ええ。ありがとう」
そして2人はテーブルに着くと、2人で食事を始めた。
ヒルダは元気はあまりなかったが、それでもカミラとの会話に応じていた。その姿を見てカミラは思った。
(良かった…この様子だと…ヒルダ様は大丈夫かもしれない…)
しかし、カミラはまだ気が付いていなかった。それがヒルダの演技であると言う事を。本当はエドガーを失った悲しみで今にも押しつぶされそうではあったが、カミラを心配させないために、必死で元気がある素振りを見せていたと言う事を―。
****
深夜1時―
ヒルダはベッドに入ったものの、少しも眠ることが出来なかった。アレンから貰った睡眠薬を1包み飲んでみても少しも眠気がこない。
「やっぱり…1包みだけでは足りないのかしら…」
ヒルダはベッドから起き上がると、サイドテーブルの引き出しを開けた。そこには大量の包みが入っている。
「これを…沢山飲めば眠れるかしら…?」
飲み過ぎは身体に毒…
アレンの言葉がヒルダの脳裏に蘇る。
(毒でもいいわ…眠れるなら…それに…もう、私には生きる希望を失ってしまったわ…)
ヒルダは今までの自分の過去を思い出してみた。
グレースの罠にはまり、落馬事故で左足に大怪我をして二度と元通りに歩けなくなってしまった事…ルドルフとの悲しい別れの後に、再び再会して恋人同士になれた矢先に銃殺されてしまったルドルフ。そんなヒルダに寄り添ってくれたエドガー。両親との決別の後に…愛していると言ってくれたエドガーに捨てられてしまった事…。
何て、壮絶な人生だったのだろう…。
「もう…疲れたわ…ゆっくり休みたい…」
ヒルダはポツリと言うと、包み紙を次から次へと開けて…サイドテーブルに置いた水差しで、全ての睡眠薬を飲んでしまった。
「これで…やっと眠れるわ…」
ヒルダはベッドに潜り込み…やがて、深い深い眠りについた―。
カミラはヒルダが無事に帰って来るかどうか心配でならなかった。
(こんな事ならやはり今日はアルバイトをお休みさせて頂くべきだったわ…)
いつもならもう帰っている時間なのにまだ帰宅してこないヒルダの事を思うといてもたってもいられず、ついに我慢出来なくなったカミラはコートに袖を通したその時―
カチャリと扉が開かれる音が聞こえ、元気の無い声のヒルダが帰宅してきた。
「ただいま…」
「ヒルダ様っ!」
カミラは急いで玄関へ迎えに行き…扉の前で立っているヒルダを目にした途端、強くヒルダを抱きしめた。
「ヒルダ様…っ!」
「どうしたの…?カミラ」
ヒルダは戸惑いながらカミラに尋ねた。
「い、いえ…ヒルダ様のお帰りが遅くて…とても心配になってしまったものですから…つ、つい…」
カミラはヒルダを抱きしめたまま言う。
「そうだったの?ごめんなさい、心配かけて…」
するとカミラはヒルダの身体から離れると尋ねた。
「ヒルダ様…大丈夫ですか…?」
「え?何が?」
「い、いえ。その…」
カミラはどうしてもエドガーの事は口に出せなかった。もし今エドガーの名前を口にすればヒルダが壊れてしまう様な気がしたからだ。
「それよりも見て、カミラ。アルバイト先で今夜の夕食にどうぞってお料理を分けて頂いたの。今夜はこれでお食事にしましょう?」
ヒルダはカミラにバスケットを見せながら言った。
「ええ。そうですね。そうしましょう。さ、ヒルダ様。外は寒かったでしょうからリビングへ行きましょう。お部屋が温まっておりますよ」
「ええ。ありがとう、カミラ」
そしてヒルダはコートを脱いで、フックに掛けると足を引きずりながらリビングへと向かった―。
リンダとレイチェルが作ってくれた料理をテーブルに並べながらカミラがヒルダに尋ねた。
「ヒルダ様、今日のお仕事はどうでしたか?」
「ええ、そうね。今日はあまり患者さんがいらっしゃらなかったわ。きっと寒かったからね。だからそれ程大変じゃ無かったわ」
ヒルダは薪ストーブの前で暖まりながら返事をした。
「お食事の用意が出来ましたからいらして下さい」
料理とお皿を並べ終えたカミラはヒルダに声を掛けた。
「ええ。ありがとう」
そして2人はテーブルに着くと、2人で食事を始めた。
ヒルダは元気はあまりなかったが、それでもカミラとの会話に応じていた。その姿を見てカミラは思った。
(良かった…この様子だと…ヒルダ様は大丈夫かもしれない…)
しかし、カミラはまだ気が付いていなかった。それがヒルダの演技であると言う事を。本当はエドガーを失った悲しみで今にも押しつぶされそうではあったが、カミラを心配させないために、必死で元気がある素振りを見せていたと言う事を―。
****
深夜1時―
ヒルダはベッドに入ったものの、少しも眠ることが出来なかった。アレンから貰った睡眠薬を1包み飲んでみても少しも眠気がこない。
「やっぱり…1包みだけでは足りないのかしら…」
ヒルダはベッドから起き上がると、サイドテーブルの引き出しを開けた。そこには大量の包みが入っている。
「これを…沢山飲めば眠れるかしら…?」
飲み過ぎは身体に毒…
アレンの言葉がヒルダの脳裏に蘇る。
(毒でもいいわ…眠れるなら…それに…もう、私には生きる希望を失ってしまったわ…)
ヒルダは今までの自分の過去を思い出してみた。
グレースの罠にはまり、落馬事故で左足に大怪我をして二度と元通りに歩けなくなってしまった事…ルドルフとの悲しい別れの後に、再び再会して恋人同士になれた矢先に銃殺されてしまったルドルフ。そんなヒルダに寄り添ってくれたエドガー。両親との決別の後に…愛していると言ってくれたエドガーに捨てられてしまった事…。
何て、壮絶な人生だったのだろう…。
「もう…疲れたわ…ゆっくり休みたい…」
ヒルダはポツリと言うと、包み紙を次から次へと開けて…サイドテーブルに置いた水差しで、全ての睡眠薬を飲んでしまった。
「これで…やっと眠れるわ…」
ヒルダはベッドに潜り込み…やがて、深い深い眠りについた―。
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