526 / 566
第7章 21 ノワールの回想 2
しおりを挟む
「何って…見れば分かるだろう?本を読んでいるんだよ」
「本当?どんな本を読んでいるの?私も見たい」
「え…?」
ヒルダはノワールが返事をする前にちょこちょこと近付いて来るとノワールの隣にストンと座ってしまった。
「な、何だよ…」
ノワールはいきなり隣に座ってきたヒルダを見た。するとヒルダはノワールが読んでいる本を覗き込むと言った。
「うわぁ~…文字ばかり。絵が無いわ」
「それはそうだろう。僕はもう7歳なんだから絵本なんか読まないんだよ」
「そうなの?私は絵本大好きよ。でもお兄ちゃんは7歳なのね。私は4歳よ」
「ふ~ん…4歳か…」
「あのね、今日は私の誕生日なの」
「え…?誕生日…?ってことはヒルダかっ?!」
「あったり~!すごいね、お兄ちゃん…よく私の名前、分かったわね?」
「それは当然さ。だって俺たちはヒルダの誕生祝いに呼ばれて来たんだから」
しかし、本当は来たくなかった…とはヒルダの前で言えなかった。
「そうなの?ありがとう、お兄ちゃん」
ヒルダはニッコリ笑った。それはまるで花が咲いたかのような笑顔でノワールはドキリとした。
「そ、そんな事より…いいのか?パーティーの主役がこんなところにいて」
「だって…つまんないんだもの…それより私も本を読む方が好きだわ」
「へぇ~…僕と一緒だな」
いつの間にかノワールはヒルダと話をするのが楽しくなってきた。何よりまるで天使のように愛らしい少女なのだ。見ていると何故か胸がドキドキしてくる。つい、いい格好をしようとノワールは言った。
「ヒルダはどんな本が好きなんだ?」
「えっとね…可愛い絵が描いてある絵本が好き。私、お絵描きも好きだから」
「そうか…僕はいつか自分で物語を作って見たいと思ってるんだ…」
するとヒルダが言った。
「それじゃ、お兄ちゃんは大きくなったら本を書く人になるのね?」
「あ、ああ。もしなれればだけど…」
「それじゃ私は大きくなったら絵本を書く人になりたいわ」
その時―
「ヒルダーッ。何処にいるのー」
女性の声が聞こえた。
「あ、ママだわ!」
ヒルダはベンチから下りると言った。
「お兄ちゃんが大きくなって本を書いたら私にも読ませてね」
「う、うん。分かったよ」
「本当?それじゃ約束ね」
そしてヒルダは手を振ると、マーガレットの元へ走って行った―。
「ヒルダか…」
ノワールはポツリと呟いた。それは彼にとっての初恋であり…小説家を目指すきっかけとなった出来事であった―。
****
(ヒルダ…お前は覚えていないだろうが…あの時のお前の言葉が俺を小説家にしたんだぞ…?)
相変わらずヒルダは虚ろな瞳で馬車の窓から外を眺めている。その様子は酷く儚げで…このまま消えてしまうのではないかと思えるほどで、ノワールは不安になってきた。何かヒルダに話しかけてやらばければと思うものの、エドガーと違ってノワールは口下手だった。小説ではいくらでも言葉を紡ぎ出すことが出来るのに、それを口にすることが出来ない。
(俺も…エドガーのように社交的だったら良かったのに…)
ノワールには傷ついているヒルダにかける言葉が見つからなかった。
本当はヒルダのことを心から心配しているにも関わらず―。
「本当?どんな本を読んでいるの?私も見たい」
「え…?」
ヒルダはノワールが返事をする前にちょこちょこと近付いて来るとノワールの隣にストンと座ってしまった。
「な、何だよ…」
ノワールはいきなり隣に座ってきたヒルダを見た。するとヒルダはノワールが読んでいる本を覗き込むと言った。
「うわぁ~…文字ばかり。絵が無いわ」
「それはそうだろう。僕はもう7歳なんだから絵本なんか読まないんだよ」
「そうなの?私は絵本大好きよ。でもお兄ちゃんは7歳なのね。私は4歳よ」
「ふ~ん…4歳か…」
「あのね、今日は私の誕生日なの」
「え…?誕生日…?ってことはヒルダかっ?!」
「あったり~!すごいね、お兄ちゃん…よく私の名前、分かったわね?」
「それは当然さ。だって俺たちはヒルダの誕生祝いに呼ばれて来たんだから」
しかし、本当は来たくなかった…とはヒルダの前で言えなかった。
「そうなの?ありがとう、お兄ちゃん」
ヒルダはニッコリ笑った。それはまるで花が咲いたかのような笑顔でノワールはドキリとした。
「そ、そんな事より…いいのか?パーティーの主役がこんなところにいて」
「だって…つまんないんだもの…それより私も本を読む方が好きだわ」
「へぇ~…僕と一緒だな」
いつの間にかノワールはヒルダと話をするのが楽しくなってきた。何よりまるで天使のように愛らしい少女なのだ。見ていると何故か胸がドキドキしてくる。つい、いい格好をしようとノワールは言った。
「ヒルダはどんな本が好きなんだ?」
「えっとね…可愛い絵が描いてある絵本が好き。私、お絵描きも好きだから」
「そうか…僕はいつか自分で物語を作って見たいと思ってるんだ…」
するとヒルダが言った。
「それじゃ、お兄ちゃんは大きくなったら本を書く人になるのね?」
「あ、ああ。もしなれればだけど…」
「それじゃ私は大きくなったら絵本を書く人になりたいわ」
その時―
「ヒルダーッ。何処にいるのー」
女性の声が聞こえた。
「あ、ママだわ!」
ヒルダはベンチから下りると言った。
「お兄ちゃんが大きくなって本を書いたら私にも読ませてね」
「う、うん。分かったよ」
「本当?それじゃ約束ね」
そしてヒルダは手を振ると、マーガレットの元へ走って行った―。
「ヒルダか…」
ノワールはポツリと呟いた。それは彼にとっての初恋であり…小説家を目指すきっかけとなった出来事であった―。
****
(ヒルダ…お前は覚えていないだろうが…あの時のお前の言葉が俺を小説家にしたんだぞ…?)
相変わらずヒルダは虚ろな瞳で馬車の窓から外を眺めている。その様子は酷く儚げで…このまま消えてしまうのではないかと思えるほどで、ノワールは不安になってきた。何かヒルダに話しかけてやらばければと思うものの、エドガーと違ってノワールは口下手だった。小説ではいくらでも言葉を紡ぎ出すことが出来るのに、それを口にすることが出来ない。
(俺も…エドガーのように社交的だったら良かったのに…)
ノワールには傷ついているヒルダにかける言葉が見つからなかった。
本当はヒルダのことを心から心配しているにも関わらず―。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜
みおな
恋愛
私は10歳から15歳までを繰り返している。
1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。
2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。
5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。
それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
王子が主人公のお話です。
番外編『使える主をみつけた男の話』の更新はじめました。
本編を読まなくてもわかるお話です。
【第一章完結】相手を間違えたと言われても困りますわ。返品・交換不可とさせて頂きます
との
恋愛
「結婚おめでとう」 婚約者と義妹に、笑顔で手を振るリディア。
(さて、さっさと逃げ出すわよ)
公爵夫人になりたかったらしい義妹が、代わりに結婚してくれたのはリディアにとっては嬉しい誤算だった。
リディアは自分が立ち上げた商会ごと逃げ出し、新しい商売を立ち上げようと張り切ります。
どこへ行っても何かしらやらかしてしまうリディアのお陰で、秘書のセオ達と侍女のマーサはハラハラしまくり。
結婚を申し込まれても・・
「困った事になったわね。在地剰余の話、しにくくなっちゃった」
「「はあ? そこ?」」
ーーーーーー
設定かなりゆるゆる?
第一章完結
殿下、婚約者の私より幼馴染の侯爵令嬢が大事だと言うなら、それはもはや浮気です。
和泉鷹央
恋愛
子爵令嬢サラは困っていた。
婚約者の王太子ロイズは、年下で病弱な幼馴染の侯爵令嬢レイニーをいつも優先する。
会話は幼馴染の相談ばかり。
自分をもっと知って欲しいとサラが不満を漏らすと、しまいには逆ギレされる始末。
いい加減、サラもロイズが嫌になりかけていた。
そんなある日、王太子になった祝いをサラの実家でするという約束は、毎度のごとくレイニーを持ち出してすっぽかされてしまう。
お客様も呼んであるのに最悪だわ。
そうぼやくサラの愚痴を聞くのは、いつも幼馴染のアルナルドの役割だ。
「殿下は幼馴染のレイニー様が私より大事だって言われるし、でもこれって浮気じゃないかしら?」
「君さえよければ、僕が悪者になるよ、サラ?」
隣国の帝国皇太子であるアルナルドは、もうすぐ十年の留学期間が終わる。
君さえよければ僕の国に来ないかい?
そう誘うのだった。
他の投稿サイトにも掲載しております。
4/20 帝国編開始します。
9/07 完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる