上 下
523 / 566

第7章 18 悲しみのヒルダ

しおりを挟む
 ポタッ…

ヒルダの目から涙が零れ落ち、手紙に落ちた。

「ヒルダ…?」

ノワールは心配になり、声を掛けた。

「…」

ヒルダは手紙を広げ、俯いたまま肩を震わせている。そしてまたポタリと手紙の上に涙が落ちた。

「…ヒルダッ!」

ノワールはヒルダの肩をつかみ、無理やり顔を上げさせ…息を飲んだ。

「ヒルダ…」

ヒルダは泣いていた。声も出さずに、ただただ涙を流すだけだった。

「ヒルダ…。泣いていたのか…?」

ノワールの問いかけにヒルダは黙って、頷き…ただ黙って静かに涙を流し続けている。小さな身体を震わせて、声も出さずに涙を流し続けるヒルダがノワールは哀れでならなかった。

「ヒルダ…ッ!」

ノワールはヒルダの腕を掴んで引き寄せると、まるで自分の胸に埋め込まんばかりに強く強く抱きしめながら言った。

「ヒルダ…泣きたいなら無理するな。声を上げて泣きたいなら…泣けばいいんだ」

その言葉にヒルダは目を見開き…そして次に悲しげな嗚咽が漏れ出した。

「お、お兄様…っ…お兄様…。っうっうっ…」

ヒルダの涙がノワールの胸を濡らす。

「すまない…ヒルダ…。エドガーが…俺の弟がとんでもない真似を…!」

ノワールはヒルダを強く抱きしめながら、エドガーに対して激しい怒りを感じていた。

(何故だ?!何故…ヒルダを捨てたんだっ?!10年以上もヒルダに恋をしていたんじゃなかったのかっ?!何故思いが通じ合ってからヒルダを捨てたんだ…?何の為に俺は…ヒルダを…!)

ヒルダはノワールの腕の中でいつまでもいつまでも泣き続け…いつしか眠りについてしまった―。


「ヒルダ…」

ノワールは自分の腕の中で眠ってしまったヒルダの髪を撫でながらそっと名前を呼んだ。

「…」

ノワールはヒルダを抱き上げるとリビングのソファに寝かせた。

(このままヒルダを置いて帰るわけにはいかない…。目が覚めるまで、この部屋で小説の続きでも書かせて貰うか…)

そしてノワールはリビングで執筆活動を始めた―。



****

カチコチカチコチ…

時計の音でヒルダは不意に目が覚めて、薄目を開け…ここがリビングであることに気がついた。

「え…?どうして私…」

ゆっくり身体を起こした時、ノワールが声を掛けてきた。

「ヒルダ?目が覚めたのか?」

「あ…ノワール様…」

ノワールの姿を見た途端、ヒルダはエドガーの事を思い出してしまった。再び悲しい気持ちが蘇ってくるが…もう、泣くことはやめた。

(そうよ…ルドルフの時もそうだったけど…いくら泣いても…もうどうしようもないのだから…)

ノワールはヒルダがぼんやりしている姿が心配でならなかった。

「ヒルダ…大丈夫か…?」

「はい…大丈夫です…今、何時ですか…?」

「あ、ああ。午後2時を過ぎたところだ…」

「そうですか…ご迷惑をお掛けしてしまい、申し訳ございませんでした…」

ヒルダはノワールに頭を下げた。

「そんな…謝らなくていい。カミラはいつ帰ってくるんだ?」

ノワールはヒルダを1人にしてはいけないと思い、尋ねた。

「カミラは…午後6時を過ぎないと帰って来ませんが…?」

「そうか、なら…出かけよう。ヒルダ」

ノワールはノートやペンを鞄にしまいながらヒルダに言った。

「え…?出かける…?」

「ああ。考えてみれば今日は昼の食事をしていないんだ。一緒に外に食事に行こう」

「ですが…私は…食欲が…」

エドガーを失ってしまったばかりのヒルダには食欲など皆無だった。

「いや。一緒に行こう。外の空気を吸えば…少しは気が紛れるだろう?」

「分かりました…」

ノワールにそこまで言われてしまえば、ヒルダは返事せざるを得なかった。


そしてヒルダとノワールは2人で一緒にアパートメントを出た―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜

みおな
恋愛
 大好きだった人。 一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。  なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。  もう誰も信じられない。

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。

桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。 「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」 「はい、喜んで!」  ……えっ? 喜んじゃうの? ※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。 ※1ページの文字数は少な目です。 ☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」  セルビオとミュリアの出会いの物語。 ※10/1から連載し、10/7に完結します。 ※1日おきの更新です。 ※1ページの文字数は少な目です。

家出した伯爵令嬢【完結済】

弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。 番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています 6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】公女が死んだ、その後のこと

杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】 「お母様……」 冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。 古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。 「言いつけを、守ります」 最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。 こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。 そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。 「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」 「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」 「くっ……、な、ならば蘇生させ」 「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」 「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」 「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」 「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」 「まっ、待て!話を」 「嫌ぁ〜!」 「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」 「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」 「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」 「くっ……!」 「なっ、譲位せよだと!?」 「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」 「おのれ、謀りおったか!」 「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」 ◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。 ◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。 ◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった? ◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。 ◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。 ◆この作品は小説家になろうでも公開します。 ◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

逆行令嬢は何度でも繰り返す〜もう貴方との未来はいらない〜

みおな
恋愛
 私は10歳から15歳までを繰り返している。  1度目は婚約者の想い人を虐めたと冤罪をかけられて首を刎ねられた。 2度目は、婚約者と仲良くなろうと従順にしていたら、堂々と浮気された挙句に国外追放され、野盗に殺された。  5度目を終えた時、私はもう婚約者を諦めることにした。  それなのに、どうして私に執着するの?どうせまた彼女を愛して私を死に追いやるくせに。

処理中です...