上 下
502 / 566

第6章 17 これからの話

しおりを挟む
 翌朝―

ヒルダ達はホテルのレストランで朝食をとっていた。


「え?お兄様も『ロータス』に住むことにしたのですか?」

ヒルダは目を見張った。

「ああ、エドガーも俺と一緒に暮らす事になったんだ。俺のアパートメントは1人で暮らすには広過ぎだしな」

「お兄様…」

ヒルダはチラリとエドガーを見た。丁度食事を終えたエドガーはコーヒーを一口飲むと言った。

「取りあえず、今日は『エボニー』へ戻って家族に挨拶をしてくるけれども…明後日には『ロータス』へ行くつもりなんだ」

「あの…その後はどうするつもりなのですか?」

エドガーはフィールズ家では次期当主としての仕事を引き継ぐ為に忙しく働いていた。けれども今はフィールズ家との養子縁組は解かれ、自由の身となっている。

「新しく仕事を探すつもりだ。『ロータス』は都会だし、『カウベリー』に比べれば仕事も見つかりやすいと思うんだ」

「お兄様…」

エドガーはああ言っているが、ヒルダはエドガーの今後の事が心配だった。いくら頭が良く、優秀だとしてもエドガーは高校しか卒業していない。

(本当に良い仕事が見つかるのかしら…)

その時、ヒルダの脳裏をよぎったのはノラとコリンの事だった。2人は『ボルト』の工場で劣悪な環境で働かされていた。肺結核により命を落としたノラや…痩せ細り、お腹を空かしていたコリンの事を思い出してしまったのだ。

「どうした?ヒルダ?」

ノワールがヒルダに声を掛けた。

「い、いえ…お兄様が…心配で…」

ヒルダの今にも消え入りそうな声にエドガーが尋ねた。

「心配?俺の事が?」

「はい…」

コクリと頷くヒルダにノワールが言った。

「何も心配する事は無い。当面エドガーの仕事が決まるまでは俺のアシスタントをやってもらうつもりだからな。給料だってちゃんと支払うつもりだし」

「アシスタント…?」

エドガーが首を傾げた。

「ああ、そうだ。小説を書くには色々下調べをしないと書けない事がたくさんあるんだ。時には取材に出る時もある。写真が必要な場合だってあるし…今までは小説を書きながらそれを1人でやっていたけれども、もうすぐ卒業とはいえ俺はまだ学生だ。学業と小説家の両立は中々大変だ。だが、小説を書くのに手伝いをしてくれる人間がいてくれれば俺も大助かりだしな」

ノワールがエドガーとヒルダの顔を交互に見ながら説明する。

「兄さん…そんな事まで考えていてくれたのですか?」

エドガーは声を震わせて尋ねた。

「当り前だ、お前は…俺にとって大切な弟だからな」

「ありがとうございます。兄さん…」


「…」

ヒルダはそんな2人をじっと見つめていた。

(お兄様がフィールズ家の犠牲になったのは…元をただせば私が原因なのだわ。お兄様が『カウベリー』とフィールズ家から解放されたのだから…私はもうお兄様と距離を置くべきよね…だっていくら親子の縁が切れたとしても、私はフィールズ家の人間なのだから…)

ヒルダはテーブルの下で自分の手をギュッと握りしめるのだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ
恋愛
身に覚えのない罪で婚約破棄のはずが、何故かヒロインを立派な令嬢にするために引き取ることになってしまった! 結果によってはやっぱり婚約破棄? 血の繋がりがない婚約者と子爵令嬢が兄妹?いったいどういう意味? 虐められていたのは本当?黒幕は別?混乱する公爵令嬢を転生兄妹が守り抜いたら、別の公爵令嬢に悪役フラグが立った!

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

【完結】義妹(ヒロイン)の邪魔をすることに致します

凛 伊緒
恋愛
伯爵令嬢へレア・セルティラス、15歳の彼女には1つ下の妹が出来た。その妹は義妹であり、伯爵家現当主たる父が養子にした元平民だったのだ。 自分は『ヒロイン』だと言い出し、王族や有力者などに近付く義妹。さらにはへレアが尊敬している公爵令嬢メリーア・シェルラートを『悪役令嬢』と呼ぶ始末。 このままではメリーアが義妹に陥れられると知ったへレアは、計画の全てを阻止していく── ─義妹が異なる世界からの転生者だと知った、元から『乙女ゲーム』の世界にいる人物側の物語─

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...