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第6章 6 エドガーとマルコ
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「「…」」
エドガーとマルコは誰もいない静かな廊下を黙って歩いていた…が、やがて意を決したようにマルコが口を開いた。
「エドガー様は…ヒルダ様の事をお好きなのですか?」
「!」
その言葉にエドガーは一瞬ピクリと肩を動かしたが…やがてため息をつくと言った。
「あ、ああ…そうだ。俺はヒルダの事が…好きだ。妹としてではなく…1人の女性として…愛してる」
「エドガー様…」
マルコはエドガーを見た。エドガーの顔は青ざめている。そしてエドガーは苦痛に顔を歪めると言った。
「すまない、マルコ」
頭を下げて来た。
「エドガー様?何故…私に謝罪を?」
「それは…俺が余計な真似をしたばかりにルドルフを失う事になってしまったからだ…俺がもっと考えて行動していれば…今頃ルドルフは…。それにヒルダとルドルフは恋人同士だったのに…俺はずっとヒルダに恋をしていて、そして今ではあんな真似まで…!」
エドガーは俯くと拳を握りしめた。
「エドガー様、ルドルフが死んでしまったのは…エドガー様のせいではありません。ヒルダ様が今の様な不遇な状況に置かれているのも…全ての元凶はグレースとグレースの母親のせいです。私は…逆にエドガー様とヒルダ様がお気の毒で仕方がありません。エドガー様は意にそぐわない結婚を強いられ、ヒルダ様はルドルフを失ってしまった…こんな悲劇的な事、あってはならないと思います」
「マルコ…」
するとマルコは悲し気な笑みを浮かべると言った。
「ルドルフは…もう二度と帰って来る事はありません。こんな事…父親である自分が口にするのはどうなのかと思いますが…ヒルダ様にはもう前を向いて生きて貰いたいと思っています。そして…私はお2人は…お似合いの仲だと思っております」
「!」
その言葉にエドガーは驚きを隠せなかった。
「すみません…出過ぎた事を話してしまいました…」
マルコは足を止めた。目の前はいつの間にかパーティー会場だった。
「それでは私は失礼致します。他に別件がございますので」
エドガーに頭を下げるとマルコはそのまま背を向け、厨房の方へ向かって行った。
「マルコ…」
少しの間、エドガーは去りゆくマルコの後姿を見届けていたが…やがてため息をつくと、パーティー会場へと入って行った―。
****
エドガーに部屋まで送って貰ったヒルダは自室に残されていた冬物のワンピースに着換えると、1人窓の外を眺めていた。ヒルダの部屋とパーティー会場は中庭を挟んで対面している。大広間の明りに映し出されて大勢の人たちがひしめき合っている姿をヒルダはじっと見つめていたが…やがてカーテンをそっとしめると暖炉の前に移動した。暖炉の前にはロッキングチェアが置かれている。ヒルダはひざ掛けを持ってくると、本棚からお気に入りの本を一冊抜き取り温かな暖炉の前で本の頁をめくり始めたが…少しも頭には入って来なかった。先程のエドガーの話が頭から離れなかったからである。
『父は今回のクリスマスパーティーで周辺に住む有力貴族たちを招き、俺だけでなく、ヒルダの結婚相手も探すつもりなんだ…。俺はまだ離婚すら成立していないのに…。さっきパーティー会場で会ったあいつだって…お前の婚約候補者だ…。だが、俺は…他の誰とも…』
「お兄様…」
ヒルダはポツリと呟いた。ルドルフを失ってから、ヒルダの心は半分死んでしまった。本当は今でも無性に泣きたくなってくるし、何をしていても楽しめない。何故なら自分の半身を失ってしまったからだ。けれど…それはエドガーにとっても同じなのかもしれない。エドガーとルドルフは互いに仲が良かった。ルドルフはエドガーを慕っていたと言う話もメイド達から聞かされていた。
(お兄様も、私も…大切なルドルフを失ってしまった者同士…。お互いに寄り添っていけば…虚無感を和らげることが出来るのかしら…)
ヒルダはまだ気が付いていない。
自分の中に芽生えた、ある一つの感情に―。
エドガーとマルコは誰もいない静かな廊下を黙って歩いていた…が、やがて意を決したようにマルコが口を開いた。
「エドガー様は…ヒルダ様の事をお好きなのですか?」
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その言葉にエドガーは一瞬ピクリと肩を動かしたが…やがてため息をつくと言った。
「あ、ああ…そうだ。俺はヒルダの事が…好きだ。妹としてではなく…1人の女性として…愛してる」
「エドガー様…」
マルコはエドガーを見た。エドガーの顔は青ざめている。そしてエドガーは苦痛に顔を歪めると言った。
「すまない、マルコ」
頭を下げて来た。
「エドガー様?何故…私に謝罪を?」
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「エドガー様、ルドルフが死んでしまったのは…エドガー様のせいではありません。ヒルダ様が今の様な不遇な状況に置かれているのも…全ての元凶はグレースとグレースの母親のせいです。私は…逆にエドガー様とヒルダ様がお気の毒で仕方がありません。エドガー様は意にそぐわない結婚を強いられ、ヒルダ様はルドルフを失ってしまった…こんな悲劇的な事、あってはならないと思います」
「マルコ…」
するとマルコは悲し気な笑みを浮かべると言った。
「ルドルフは…もう二度と帰って来る事はありません。こんな事…父親である自分が口にするのはどうなのかと思いますが…ヒルダ様にはもう前を向いて生きて貰いたいと思っています。そして…私はお2人は…お似合いの仲だと思っております」
「!」
その言葉にエドガーは驚きを隠せなかった。
「すみません…出過ぎた事を話してしまいました…」
マルコは足を止めた。目の前はいつの間にかパーティー会場だった。
「それでは私は失礼致します。他に別件がございますので」
エドガーに頭を下げるとマルコはそのまま背を向け、厨房の方へ向かって行った。
「マルコ…」
少しの間、エドガーは去りゆくマルコの後姿を見届けていたが…やがてため息をつくと、パーティー会場へと入って行った―。
****
エドガーに部屋まで送って貰ったヒルダは自室に残されていた冬物のワンピースに着換えると、1人窓の外を眺めていた。ヒルダの部屋とパーティー会場は中庭を挟んで対面している。大広間の明りに映し出されて大勢の人たちがひしめき合っている姿をヒルダはじっと見つめていたが…やがてカーテンをそっとしめると暖炉の前に移動した。暖炉の前にはロッキングチェアが置かれている。ヒルダはひざ掛けを持ってくると、本棚からお気に入りの本を一冊抜き取り温かな暖炉の前で本の頁をめくり始めたが…少しも頭には入って来なかった。先程のエドガーの話が頭から離れなかったからである。
『父は今回のクリスマスパーティーで周辺に住む有力貴族たちを招き、俺だけでなく、ヒルダの結婚相手も探すつもりなんだ…。俺はまだ離婚すら成立していないのに…。さっきパーティー会場で会ったあいつだって…お前の婚約候補者だ…。だが、俺は…他の誰とも…』
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(お兄様も、私も…大切なルドルフを失ってしまった者同士…。お互いに寄り添っていけば…虚無感を和らげることが出来るのかしら…)
ヒルダはまだ気が付いていない。
自分の中に芽生えた、ある一つの感情に―。
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