上 下
480 / 566

第5章 18 隠しきれない気持ち

しおりを挟む
「お兄様…ですが、私は『カウベリー』で…領民の人たちから嫌われているんです。それなのに長く滞在することは…」

ヒルダはうつむきながら返事を渋った。

「駄目…か?」

エドガーはじっとヒルダの目を見つめている。その瞳は切なげに揺れていた。

「それなら2日だけなら…」

ヒルダは消え入りそうな声で言う。本当は今すぐにでも汽車に乗ってロータスへ戻りたかったが、エドガーの気持ちを無下にする事は出来なかった。

「本当か?本当に滞在してくれるのか?」

たった2日期限を延ばしただけなのに、エドガーは嬉しそうに言う。

「はい」

ヒルダはエドガーを見つめ、笑みを浮かべた。

「ありがとう、ヒルダ…」

エドガーは頬を染めてヒルダを見る。もうエドガーはヒルダに対する好意を隠すことは無くなっていた。けれど、ヒルダにはエドガーの気持ちに応える事は出来なかった。

(お兄様の事は…尊敬しているし、好きだけど…だけど私は…)

ヒルダはまだルドルフの事を忘れられなかった。そしてエドガーのことは家族としての情愛しか持てずにいた。

(それにお兄様は結婚されているわ…)

そこでヒルダはエドガーの妻であるエレノアの事を尋ねてみた。

「お兄様、あの…エレノア様はどうされたのでしょうか」

すると途端にエドガーの顔色が変わる。

「あ…彼女はまだ実家から戻ってきていないんだ…」

そしてヒルダをじっと見つめるとエドガーは言った。

「ヒルダ、俺は酷い人間だ。正直、今はエレノアが実家に帰っている事に安堵している自分がいる。出来れば…いっそこのまま二度とフィールズ家に戻って来ないで欲しいと願っている自分がいるんだ…」

エドガーは苦しげに顔を歪めた。

「お兄様…っ!」

ヒルダはその言葉に驚いた。

(もしかしたらお兄様は本当にエレノア様と別れたいと思っているのかしら…けれどそんな事をすれば…)

ヒルダはノワールの言葉を思い出していた。

『今エレノアはエドガーと別居を始め、離婚をほのめかし…フィールズ家に莫大な慰謝料を請求しているらしい。それが嫌ならエレノアの要求を飲むように言われているようだが、エドガーはそれを拒否している…』

「お兄様…お父様は何と仰っているのですか?」

「父は…何とかトナー家に考え直すように説得しているところなんだ。なにしろあの家からはかなりの資金援助をしてもらっているから…だが、俺は…」

エドガーは苦しげに言うと、正面に座っているヒルダをじっと見つめた。エドガーの目の前にいるヒルダは…いつにもまして美しかった。まるでこの世の物ではないかの如く…。

(ヒルダ…俺はお前を愛している。どうすればお前も俺と同じ気持ちを持ってくれるんだ…?)

エドガーは最早自分の気持ちを押し殺すことが出来なくなっていたのだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大切なあのひとを失ったこと絶対許しません

にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。 はずだった。 目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う? あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる? でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの? 私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?

つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。 彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。 次の婚約者は恋人であるアリス。 アリスはキャサリンの義妹。 愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。 同じ高位貴族。 少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。 八番目の教育係も辞めていく。 王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。 だが、エドワードは知らなかった事がある。 彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。 他サイトにも公開中。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

運命の歯車が壊れるとき

和泉鷹央
恋愛
 戦争に行くから、君とは結婚できない。  恋人にそう告げられた時、子爵令嬢ジゼルは運命の歯車が傾いで壊れていく音を、耳にした。    他の投稿サイトでも掲載しております。

貴方といると、お茶が不味い

わらびもち
恋愛
貴方の婚約者は私。 なのに貴方は私との逢瀬に別の女性を同伴する。 王太子殿下の婚約者である令嬢を―――。

好きでした、婚約破棄を受け入れます

たぬきち25番
恋愛
シャルロッテ子爵令嬢には、幼い頃から愛し合っている婚約者がいた。優しくて自分を大切にしてくれる婚約者のハンス。彼と結婚できる幸せな未来を、心待ちにして努力していた。ところがそんな未来に暗雲が立ち込める。永遠の愛を信じて、傷つき、涙するシャルロッテの運命はいかに……? ※小説家になろう様にも掲載させて頂いております。ただ改稿を行い、結末がこちらに掲載している内容とは異なりますので物語全体の雰囲気が異なる場合がございます。あらかじめご了承下さい。(あちらはゲオルグと並び人気が高かったエイドENDです)

【完結済み】婚約破棄致しましょう

木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。 運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。 殿下、婚約破棄致しましょう。 第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。 応援して下さった皆様ありがとうございます。 本作の感想欄を開けました。 お返事等は書ける時間が取れそうにありませんが、感想頂けたら嬉しいです。 賞を頂いた記念に、何かお礼の小話でもアップできたらいいなと思っています。 リクエストありましたらそちらも書いて頂けたら、先着三名様まで受け付けますのでご希望ありましたら是非書いて頂けたら嬉しいです。

処理中です...