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第5章 13 クリスマスの迎え
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あの後、ヒルダとノワールは汽車に乗り、殆ど会話する事も無くロータスの駅へ帰って来た。汽車の中ではノワールはずっと読書をしており、話しかける雰囲気では無かったし、そもそもヒルダは彼の事を苦手としていたからであった。
そしてロータスに降りると、ノワールは言った。
「ヒルダ、次に会うのは25日だ。11時に迎えに来るからすぐに出られるように準備しておけよ」
「はい、それで…何所へ出かけるのでしょうか?」
ヒルダはもう一度尋ねた。
「…当日に教える。俺はまだ用事があるからヒルダとはここまでだな」
ノワールは不愛想にそれだけ言うと、ヒルダに背を向けて町の雑踏の中へと消えて行った。
「ノワール様…」
ヒルダはノワールの背中が見えなくなるまで、その場に立っていた。ヒルダは堪らなく不安だった。ノワールはいつも強引に誘ってくるのに、肝心な事は何一つ語ってくれない。
(ノワール様…一体今度のクリスマス、何があると言うのですか?私に何をさせようとしているのですか…?)
ヒルダは暫くその場に佇んでいた―。
****
12月25日―
今日はクリスマス。町を歩く人々は皆幸せそうに歩き、特別な休暇を楽しんでいるように見えた。カミラもめかしこんで10時にアパートメントを出て行っている。
しかし、ヒルダだけは―。
「ふ~…」
溜息をつき、姿見の前に立っていた。大きな鏡の前には赤いパーティードレスに身を包んだヒルダが映っている。薄化粧に金色の髪を緩く巻き上げ、ノワールが選んだアクセサリーを身に着けたヒルダの姿は…とても美しかった。恐らく町を歩けば誰もが振り返るのではなかろうかと思えるその美貌。けれども鏡に映ったヒルダの顔に笑顔は無い。暗い表情に愁いを秘めた瞳。今のヒルダにはとてもではないがクリスマスを楽しめるような気持にはなれなかったのだ。
時計を見ると時刻はそろそろ約束の11時になろうとしている。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「ノワール様だわ」
ヒルダは紺色のコートを羽織り、ショルダーバッグを肩から下げると扉を開けた。するとやはりそこにはグレーの防寒コート姿のノワールが立っていた。首元には白いマフラーが巻かれている
「迎えに来たぞ」
「こんにちは、ノワール様。本日はよろしくお願い致します」
そしてヒルダは頭を下げる。
「…」
ノワールは無言でヒルダをじっと見つめていたが、やがて言った。
「…綺麗だ。そのドレスもとても良く似合っている」
「あ、ありがとうございます」
まさかノワールの口からそのような台詞が飛び出してくるとは思わず、ヒルダ頬を赤く染めながら俯く。
「コートだけでは寒いだろう」
そしてノワールは首に巻いていたマフラーを外すとヒルダの首にかけた。
「い、いえ。私は大丈夫ですから」
慌ててマフラーを返そうとしたが、ノワールに止められた。
「駄目だ、風邪でも引かれた申し訳が立たないからな」
意味深な言い方にヒルダは首を傾げた。
「あの、ノワール様…?」
「行こう、下に馬車を待たせてあるのだ」
ノワールはそれだけ言うと、アパートメントの階段を降りて行く。そこでヒルダも玄関に置いてある杖を取り、戸締りをするとノワールの後を追った―。
そしてロータスに降りると、ノワールは言った。
「ヒルダ、次に会うのは25日だ。11時に迎えに来るからすぐに出られるように準備しておけよ」
「はい、それで…何所へ出かけるのでしょうか?」
ヒルダはもう一度尋ねた。
「…当日に教える。俺はまだ用事があるからヒルダとはここまでだな」
ノワールは不愛想にそれだけ言うと、ヒルダに背を向けて町の雑踏の中へと消えて行った。
「ノワール様…」
ヒルダはノワールの背中が見えなくなるまで、その場に立っていた。ヒルダは堪らなく不安だった。ノワールはいつも強引に誘ってくるのに、肝心な事は何一つ語ってくれない。
(ノワール様…一体今度のクリスマス、何があると言うのですか?私に何をさせようとしているのですか…?)
ヒルダは暫くその場に佇んでいた―。
****
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しかし、ヒルダだけは―。
「ふ~…」
溜息をつき、姿見の前に立っていた。大きな鏡の前には赤いパーティードレスに身を包んだヒルダが映っている。薄化粧に金色の髪を緩く巻き上げ、ノワールが選んだアクセサリーを身に着けたヒルダの姿は…とても美しかった。恐らく町を歩けば誰もが振り返るのではなかろうかと思えるその美貌。けれども鏡に映ったヒルダの顔に笑顔は無い。暗い表情に愁いを秘めた瞳。今のヒルダにはとてもではないがクリスマスを楽しめるような気持にはなれなかったのだ。
時計を見ると時刻はそろそろ約束の11時になろうとしている。
コンコン
扉をノックする音が聞こえた。
「ノワール様だわ」
ヒルダは紺色のコートを羽織り、ショルダーバッグを肩から下げると扉を開けた。するとやはりそこにはグレーの防寒コート姿のノワールが立っていた。首元には白いマフラーが巻かれている
「迎えに来たぞ」
「こんにちは、ノワール様。本日はよろしくお願い致します」
そしてヒルダは頭を下げる。
「…」
ノワールは無言でヒルダをじっと見つめていたが、やがて言った。
「…綺麗だ。そのドレスもとても良く似合っている」
「あ、ありがとうございます」
まさかノワールの口からそのような台詞が飛び出してくるとは思わず、ヒルダ頬を赤く染めながら俯く。
「コートだけでは寒いだろう」
そしてノワールは首に巻いていたマフラーを外すとヒルダの首にかけた。
「い、いえ。私は大丈夫ですから」
慌ててマフラーを返そうとしたが、ノワールに止められた。
「駄目だ、風邪でも引かれた申し訳が立たないからな」
意味深な言い方にヒルダは首を傾げた。
「あの、ノワール様…?」
「行こう、下に馬車を待たせてあるのだ」
ノワールはそれだけ言うと、アパートメントの階段を降りて行く。そこでヒルダも玄関に置いてある杖を取り、戸締りをするとノワールの後を追った―。
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