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第3章 6 エドガーの実兄

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 結局ヒルダとノワールは2人で話し合う事になり、オープンテラスのカフェのテーブルに2人で向かい合って座っていた。そしてノワールは静かにアイスティーを飲んでいる。

「…」

一方のヒルダは失礼に当たるかもしれないと思いつつ…どうしてもノワールの姿をちらちらと観察してしまっていた。

(やっぱりお兄様と実の兄弟と言うだけのことがあって…雰囲気がそっくりだわ…)

するとヒルダの視線に気づいたノワールが言った。

「どうしたんだい?そんなに俺の顔を見て…ひょっとして見惚れていたかな?」

「あ、す・すみません…そんなつもりでは…」

ヒルダは慌てて視線を自分の飲み物に移した。

「別にいいけどね。ヒルダみたいな美人の視線を浴びるのは悪くない」

ノワールの言葉にヒルダは思った。

(この方…お兄様と姿は似ているけど…性格は全然似ていないようだわ…)

「ところで、ヒルダ。君は寮生なのかい?」

不意にノワールが話しかけて来た。

「いいえ。カミラという…昔から私の専属メイドをしてくれた女性と2人でアパートメントを借りて住んでいます」

「ふ~ん…そうか…」

対して興味が無さげにノワールは言うと、ヒルダをチラリと見た。

「それにしても…君はとても恵まれた環境にいるんだね?」

「え…?」

ノワールの何処か避難めいた言い方にヒルダは顔を上げた。するとノワールは美しい口元に笑みを浮かべながら言った。

「君の事情は何となく知ってるよ?自分が犯してもいない罪を被ったばかりに領民達から、そして父親から憎まれて『カウベリー』を追い出されたんだろう?そして跡取りがいなくて困ったハリス氏は遠縁にあたるハミルトン家養子縁組を申し入れて来たんだよ。ハミルトン家は3人兄弟で、しかもフィールズ家よりも格下の子爵家だったからね…言う事を聞くと思ったのだろう?そこでエドガーを名指ししてきたんだよ」

「!」

ヒルダはその言葉に反応して顔を上げた。

「どのみち、エドガーは末っ子立ったからね…いくら優秀でも家督を継ぐことは出来ない。両親は喜んでエドガーを差し出す事にしたんだよ。何しろ伯爵家の跡取りにする事が出来るのだから。…最もエドガー自身がフィールズ家に養子になるのを望んだこともあったのだけどね」

「え…?」

(お兄様が…じぶんから養子になることを望んだの…?)

するとノワールが言った。

「何故だと思う?」

「?」

ヒルダは首を傾げた。

「何故エドガーはフィールズ家に養子になることを望んだと思う?」

「さ、さぁ…何故ですか?」

(お兄様がフィールズ家の後を継ぎたいから…と言うはずは無いわ。だってお兄様はそんなタイプではないもの…だったら何故…?)

「本当に分らないのかい?」

ノワールはじっとヒルダの目を覗き込むように言う。

「は、はい…申し訳ありませんが…私にはわかりません」

「やれやれ…かわいそうなエドガーだ」

ノワールは肩をすくめると言った。そんな様子のノワールを見てヒルダは俯いた。

(だって…本当に分らないのだもの…)

するとノワールは言った。

「ヒルダ・フィールズ。それは君だよ」

「え?」

「エドガーはね、ずっとヒルダの事が好きだった。だからフィールズ家の力になりたくて…養子になったんだよ。」

「お、お兄様が…?」

ヒルダはギュッとテーブルの上で手を組んだ。

「あれ?ひょっとして…君はエドガーの気持ちを知らなかったのかい?」

「い、いえ…お兄様が…私に気があることを知ったのは‥ほんのつい最近…お兄様が結婚する直前だったので…」

「ああ。あの結婚式は…最低だったね。ハミルトン家は全員激怒して結婚式には参加しなかったからね。いくら金持ちでもあんな評判の悪いトナー家と縁戚関係を結ばせたのだから。しかも相手の女性は32歳。エドガーはまだたったの20歳なのに…あれでは身売りされたようなものだよ」

「!」

その言葉にヒルダの肩がピクリと跳ねた。
グイッとアイスティーを飲み干すとノワールは言った。

「我が弟ながら可哀相なエドガーだよ。彼は本当に頭が良かった。知ってたかい?学者になるのが彼の夢だったんだよ?それなのに身売りして…まだたったの20歳で学問を諦めさせられ、領民達を救う為に、あんな年増女と結婚させられ…それなのに実の娘は女のくせに大学に入学してくるのだからね」

言いながらノワールは今度こそ、はっきりと敵意の込められた目でヒルダを睨み付けて来た―。

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