366 / 566
第4章 32 残りたくない理由
しおりを挟む
「いいえ…お兄様‥私、『ロータス』へ帰ります」
「ヒルダ…」
「もう私のいるべき場所は…『ロータス』なのです‥。高校もアルバイトも…私の日常生活を送るべき場所は‥あそこなんです」
「ヒルダ、だがここにも高校はあるぞ?それは確かにヒルダが通う『セロニア学園』のような名門校は無いが子息令嬢達だけが通う高校だってあるし、何よりここに住んでいればアルバイトだってする必要は無い。俺は…出来れば『カウベリー』に残って欲しいんだ…ヒルダの事が心配だから…」
エドガーは声を振り絞るように言う。ヒルダの事が心配…。それは確かに事実である。だが、本当は愛するヒルダを自分の傍に置いておきたい気持ちが大半を占めていた。本当はヒルダに愛を告げたい。しかし、いくら血の繋がりが無いとはいえ、エドガーとヒルダは兄妹の関係である。そして婚約者のアンナは2人が実の兄妹だと思っているのだ。まして…恋人を失ったばかりの傷心のヒルダに思いを告げる等、そんな恐ろしい事はエドガーには出来なかった。そんな事をすれば、ヒルダの事もアンナの事も深く傷つける事になってしまうだろう。
(俺はヒルダに自分の思いを告げられない…。この先もずっと兄妹の関係は変わる事はないだろう。だけど…それでも俺はお前に傍にいて欲しいんだ…!)
エドガーはヒルダを抱きかかて歩きながら、尚も続ける。
「ヒルダ…母さんもヒルダが…ここに残ることを望んでいると…思うんだ‥」
卑怯な手を使っている自覚はあったが、エドガーはマーガレットの事を口にしてしまった。
「お母様が…」
ヒルダはポツリと言うが、次の瞬間両目から大粒の涙を流し始めた。
「す、すまん!ヒルダ。俺はお前を泣かせるつもりは…!」
ヒルダの涙を見てエドガーは焦った。
(しまった!俺は…自分の事ばかり優先してヒルダの気持ちを何も考えていなかった!)
「いいえ…。お兄様。私は我儘な人間です…。ここは私の大切な故郷‥大切なお父様やお母様、そしてお兄様がいらっしゃるのに…それでも私はもうここには住めません‥。だってあまりにも沢山、何年にもわたるルドルフとの思い出があるから‥‥。勿論『ロータス』でもルドルフの思い出はあるけれども、『カウベリー』の比ではありません…」
そしてエドガーの胸に顔をうずめ、悲し気にシクシクと泣きだした。
「ヒルダ…」
ヒルダの熱い涙がエドガーの胸を濡らしていく。
「すまなかった。ヒルダ…」
エドガーはヒルダの髪を撫でながら謝罪した―。
****
ヒルダの部屋の前に着いたのでエドガーはヒルダを下ろすと言った。
「ヒルダ。明日は目が覚めるまで…ゆっくり寝るといい。ルドルフの墓へはヒルダの都合のよい時間に連れて行ってやるから」
「お兄様…でも本当に宜しいのですか?お仕事が忙いのではないですか?」
ヒルダはエドガーを見上げながら尋ねる。エドガーはフッと笑みを浮かべると言った。
「気にするな、ヒルダ。お前の為に時間を割くこと位何て事は無い。ヒルダは俺にとって大切な…」
エドガーはヒルダの金の髪に触れながら、途中で言葉を切った。
「お兄様…?」
「そう、大切な妹だからな」
エドガーは自分の心を押し殺しながら言う。
「ありがとうございます。お兄様」
「ヒルダ、それじゃまた明日な?」
「はい、お兄様。お休みなさい」
「お休み、ヒルダ」
そして2人はヒルダの部屋の前で別れを告げた。
エドガーの後姿を見送っていたヒルダはやがてドアノブを回して部屋に入った。
そしてベッドへ向かうとそのまま倒れ込んでしまった。
(疲れたわ…もう何も動きたくない…)
ヒルダは余りにも沢山悲しみ、泣きすぎて疲れ切っていた。入浴する気も失せていた。
「ルドルフ…もう一度貴方に会いたい…。名前を呼んで抱きしめて貰いたい…」
ヒルダは枕を抱きかかえて顔をうずめると、再び愛しいルドルフを思った。窓から差し込む月明りに照らされたベッドの上でヒルダは泣き疲れて眠るまで涙を流し続けるのだった―。
「ヒルダ…」
「もう私のいるべき場所は…『ロータス』なのです‥。高校もアルバイトも…私の日常生活を送るべき場所は‥あそこなんです」
「ヒルダ、だがここにも高校はあるぞ?それは確かにヒルダが通う『セロニア学園』のような名門校は無いが子息令嬢達だけが通う高校だってあるし、何よりここに住んでいればアルバイトだってする必要は無い。俺は…出来れば『カウベリー』に残って欲しいんだ…ヒルダの事が心配だから…」
エドガーは声を振り絞るように言う。ヒルダの事が心配…。それは確かに事実である。だが、本当は愛するヒルダを自分の傍に置いておきたい気持ちが大半を占めていた。本当はヒルダに愛を告げたい。しかし、いくら血の繋がりが無いとはいえ、エドガーとヒルダは兄妹の関係である。そして婚約者のアンナは2人が実の兄妹だと思っているのだ。まして…恋人を失ったばかりの傷心のヒルダに思いを告げる等、そんな恐ろしい事はエドガーには出来なかった。そんな事をすれば、ヒルダの事もアンナの事も深く傷つける事になってしまうだろう。
(俺はヒルダに自分の思いを告げられない…。この先もずっと兄妹の関係は変わる事はないだろう。だけど…それでも俺はお前に傍にいて欲しいんだ…!)
エドガーはヒルダを抱きかかて歩きながら、尚も続ける。
「ヒルダ…母さんもヒルダが…ここに残ることを望んでいると…思うんだ‥」
卑怯な手を使っている自覚はあったが、エドガーはマーガレットの事を口にしてしまった。
「お母様が…」
ヒルダはポツリと言うが、次の瞬間両目から大粒の涙を流し始めた。
「す、すまん!ヒルダ。俺はお前を泣かせるつもりは…!」
ヒルダの涙を見てエドガーは焦った。
(しまった!俺は…自分の事ばかり優先してヒルダの気持ちを何も考えていなかった!)
「いいえ…。お兄様。私は我儘な人間です…。ここは私の大切な故郷‥大切なお父様やお母様、そしてお兄様がいらっしゃるのに…それでも私はもうここには住めません‥。だってあまりにも沢山、何年にもわたるルドルフとの思い出があるから‥‥。勿論『ロータス』でもルドルフの思い出はあるけれども、『カウベリー』の比ではありません…」
そしてエドガーの胸に顔をうずめ、悲し気にシクシクと泣きだした。
「ヒルダ…」
ヒルダの熱い涙がエドガーの胸を濡らしていく。
「すまなかった。ヒルダ…」
エドガーはヒルダの髪を撫でながら謝罪した―。
****
ヒルダの部屋の前に着いたのでエドガーはヒルダを下ろすと言った。
「ヒルダ。明日は目が覚めるまで…ゆっくり寝るといい。ルドルフの墓へはヒルダの都合のよい時間に連れて行ってやるから」
「お兄様…でも本当に宜しいのですか?お仕事が忙いのではないですか?」
ヒルダはエドガーを見上げながら尋ねる。エドガーはフッと笑みを浮かべると言った。
「気にするな、ヒルダ。お前の為に時間を割くこと位何て事は無い。ヒルダは俺にとって大切な…」
エドガーはヒルダの金の髪に触れながら、途中で言葉を切った。
「お兄様…?」
「そう、大切な妹だからな」
エドガーは自分の心を押し殺しながら言う。
「ありがとうございます。お兄様」
「ヒルダ、それじゃまた明日な?」
「はい、お兄様。お休みなさい」
「お休み、ヒルダ」
そして2人はヒルダの部屋の前で別れを告げた。
エドガーの後姿を見送っていたヒルダはやがてドアノブを回して部屋に入った。
そしてベッドへ向かうとそのまま倒れ込んでしまった。
(疲れたわ…もう何も動きたくない…)
ヒルダは余りにも沢山悲しみ、泣きすぎて疲れ切っていた。入浴する気も失せていた。
「ルドルフ…もう一度貴方に会いたい…。名前を呼んで抱きしめて貰いたい…」
ヒルダは枕を抱きかかえて顔をうずめると、再び愛しいルドルフを思った。窓から差し込む月明りに照らされたベッドの上でヒルダは泣き疲れて眠るまで涙を流し続けるのだった―。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!
行枝ローザ
恋愛
身に覚えのない罪で婚約破棄のはずが、何故かヒロインを立派な令嬢にするために引き取ることになってしまった!
結果によってはやっぱり婚約破棄?
血の繋がりがない婚約者と子爵令嬢が兄妹?いったいどういう意味?
虐められていたのは本当?黒幕は別?混乱する公爵令嬢を転生兄妹が守り抜いたら、別の公爵令嬢に悪役フラグが立った!
モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~
咲桜りおな
恋愛
前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。
ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。
いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!
そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。
結構、ところどころでイチャラブしております。
◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。
この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。
番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。
「小説家になろう」でも公開しています。
【完結】あなたを忘れたい
やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。
そんな時、不幸が訪れる。
■□■
【毎日更新】毎日8時と18時更新です。
【完結保証】最終話まで書き終えています。
最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)
あなたに愛や恋は求めません
灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。
婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。
このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。
婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。
貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。
R15は保険、タグは追加する可能性があります。
ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。
24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。
【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。
川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」
愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。
伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。
「あの女のせいです」
兄は怒り――。
「それほどの話であったのか……」
――父は呆れた。
そして始まる貴族同士の駆け引き。
「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」
「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」
「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」
令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?
兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!
ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。
自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。
しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。
「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」
「は?」
母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。
「もう縁を切ろう」
「マリー」
家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。
義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。
対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。
「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」
都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。
「お兄様にお任せします」
実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。
今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】
皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。
彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。
その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。
なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。
プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。
繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」
URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074
公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路
八代奏多
恋愛
公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。
王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……
……そんなこと、絶対にさせませんわよ?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる