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第4章 22 悲しみの故郷
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ヒルダ達を乗せた列車は約4時間かけて11時40分にカウベリー駅へ到着した。
列車の中で、半ば放心状態で乗っていたヒルダは結局エドガーが用意した食べ物も、車内販売で売りに来た飲み物を購入しても手を付ける事は一切無かった。いくらカミラやエドガーが勧めても、力なく首を振るだけだったからである。
そんな状態のヒルダがエドガーは心配でならなかった。
「ヒルダ、大丈夫か?1人で降りられるか?」
列車から下りる時、エドガーはヒルダに尋ねた。
「はい…降りられます…」
ヒルダは力なく頷いて席から立ち上がったが、崩れ落ちてしまった。もう立っていられない程にヒルダの心身は参ってしまっていたのだった。それを見たエドガーがカミラに言った。
「カミラ、すまないが皆の荷物を持って降りてくれないか?」
「はい、かしこまりました。エドガー様はどうされるのですか?」
カミラは尋ねた。
「俺はヒルダを抱えて列車を降りる」
そしてヒルダを見ると言った。
「ヒルダ。列車から降りるぞ」
「え…?」
訝し気にエドガーを見たヒルダは次の瞬間、軽々とエドガーに抱きかかえられていた。
「お、お兄様…」
ヒルダが戸惑っているとエドガーは言う。
「遠慮するな、ヒルダ。」
「ありがとうございます…」
そしてヒルダは『ボルト』の町でルドルフに抱き上げられた事を思い出し、再び目に涙が浮かんできた。そしてエドガーの胸に顔をうずめ、肩を震わせて泣き崩れた。
「ヒルダ…?大丈夫か…?」
戸惑いながらもエドガーはヒルダに声を掛けるとヒルダはすすり泣きながら黙って頷く。
「そうか。泣きたいなら…好きなだけ泣くといい」
そしてエドガーはヒルダを抱きかかえたまま列車を降りた。その後ろをカミラが小さなボストンバッグとキャリーケースを引っ張りながら降りて来た。
駅のホームにエドガーは降り立つと、腕の中のヒルダに言う。
「ヒルダ。もう馬車の迎えを駅まで迎えに来させているんだ。このまま馬車に向かうぞ」
声を掛けられたヒルダが黙って頷くのをエドガーは確認すると、出口を目指して歩き出した―。
「ヒルダ様っ!」
エドガーの胸に顔をうずめて抱きかかえられていたヒルダは聞き御覚えのある声に思わず顔を上げた。すると馬車の前に立っていたのは以前ヒルダの乗る馬車の御者を務めていたスコットだったのだ。
「え…スコットさん…?」
ヒルダは涙にぬれた瞳でスコットを見た。するとスコットの顔が悲し気に歪む。
「ヒルダ様…お帰りなさいませ…」
「た、ただいま…」
ヒルダは悲し気に返事をすると、再び涙を流すのだった―。
****
ガラガラガラガラ…
走り続ける馬車の中で、エドガーはヒルダに尋ねた。
「ヒルダ、スコットの事は知っていたのか?」
「はい…私が中学生だった頃に…学校の送り迎えをしてくれていたんです」
「そうか…だから2人は顔を互いに知っていたんだな?」
「はい。スコットさんは…ルドルフの事も…知って、いて…」
再びヒルダの目に涙が浮かんでくる。
「ヒルダ様…」
隣に座るカミラがヒルダの肩を抱き寄せた。するとヒルダが泣きながら言う。
「お兄様…カミラ、ごめんなさい…カウベリーは私の大切な故郷…だけど、それだけに今は余計にルドルフの事が思い出されてしまって…」
そしてまたすすり泣く。
「ヒルダ…」
そんなヒルダを沈痛な面持ちで見つめるエドガーにカミラ。
もう2人にはどうすればヒルダを慰める事が出来るのか分からなかった―。
列車の中で、半ば放心状態で乗っていたヒルダは結局エドガーが用意した食べ物も、車内販売で売りに来た飲み物を購入しても手を付ける事は一切無かった。いくらカミラやエドガーが勧めても、力なく首を振るだけだったからである。
そんな状態のヒルダがエドガーは心配でならなかった。
「ヒルダ、大丈夫か?1人で降りられるか?」
列車から下りる時、エドガーはヒルダに尋ねた。
「はい…降りられます…」
ヒルダは力なく頷いて席から立ち上がったが、崩れ落ちてしまった。もう立っていられない程にヒルダの心身は参ってしまっていたのだった。それを見たエドガーがカミラに言った。
「カミラ、すまないが皆の荷物を持って降りてくれないか?」
「はい、かしこまりました。エドガー様はどうされるのですか?」
カミラは尋ねた。
「俺はヒルダを抱えて列車を降りる」
そしてヒルダを見ると言った。
「ヒルダ。列車から降りるぞ」
「え…?」
訝し気にエドガーを見たヒルダは次の瞬間、軽々とエドガーに抱きかかえられていた。
「お、お兄様…」
ヒルダが戸惑っているとエドガーは言う。
「遠慮するな、ヒルダ。」
「ありがとうございます…」
そしてヒルダは『ボルト』の町でルドルフに抱き上げられた事を思い出し、再び目に涙が浮かんできた。そしてエドガーの胸に顔をうずめ、肩を震わせて泣き崩れた。
「ヒルダ…?大丈夫か…?」
戸惑いながらもエドガーはヒルダに声を掛けるとヒルダはすすり泣きながら黙って頷く。
「そうか。泣きたいなら…好きなだけ泣くといい」
そしてエドガーはヒルダを抱きかかえたまま列車を降りた。その後ろをカミラが小さなボストンバッグとキャリーケースを引っ張りながら降りて来た。
駅のホームにエドガーは降り立つと、腕の中のヒルダに言う。
「ヒルダ。もう馬車の迎えを駅まで迎えに来させているんだ。このまま馬車に向かうぞ」
声を掛けられたヒルダが黙って頷くのをエドガーは確認すると、出口を目指して歩き出した―。
「ヒルダ様っ!」
エドガーの胸に顔をうずめて抱きかかえられていたヒルダは聞き御覚えのある声に思わず顔を上げた。すると馬車の前に立っていたのは以前ヒルダの乗る馬車の御者を務めていたスコットだったのだ。
「え…スコットさん…?」
ヒルダは涙にぬれた瞳でスコットを見た。するとスコットの顔が悲し気に歪む。
「ヒルダ様…お帰りなさいませ…」
「た、ただいま…」
ヒルダは悲し気に返事をすると、再び涙を流すのだった―。
****
ガラガラガラガラ…
走り続ける馬車の中で、エドガーはヒルダに尋ねた。
「ヒルダ、スコットの事は知っていたのか?」
「はい…私が中学生だった頃に…学校の送り迎えをしてくれていたんです」
「そうか…だから2人は顔を互いに知っていたんだな?」
「はい。スコットさんは…ルドルフの事も…知って、いて…」
再びヒルダの目に涙が浮かんでくる。
「ヒルダ様…」
隣に座るカミラがヒルダの肩を抱き寄せた。するとヒルダが泣きながら言う。
「お兄様…カミラ、ごめんなさい…カウベリーは私の大切な故郷…だけど、それだけに今は余計にルドルフの事が思い出されてしまって…」
そしてまたすすり泣く。
「ヒルダ…」
そんなヒルダを沈痛な面持ちで見つめるエドガーにカミラ。
もう2人にはどうすればヒルダを慰める事が出来るのか分からなかった―。
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