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番外編 エドガーとアンナ

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 雪が降り積もっているカウベリー。
エドガーは朝から自室で今年度納められた税金の資料に目を通していた。

コンコン

不意にエドガーの扉がノックされた。

「はい」

すると声が聞こえた。

「エドガー様宛に小包が届いております」

「小包…?入ってくれ」

「失礼致します」

カチャリと扉が開かれ、入って来たのはフィールズ家の執事であり、ルドルフの父でもあるマルコだった。

「差出人は書かれていないのですが、あて先はエドガー様になっております」

マルコが持ってきたのは両手に乗るほどの小包だった。

「ありがとう」

エドガーが礼を述べると、マルコは恭しく頭を下げて去って行った。

パタン…

扉が閉ざされると、エドガーは早速小包を開封し始めた。

「一体誰からなんだ…?」

その時、エドガーは発送先の住所がロータスになっていることに気付いた。

「え?ロータス…?まさかっ!」

急いで小包を開封すると、青いラッピングをした箱のようなものが入っている。エドガーはラッピング用紙が破けないように慎重に広げると中から細長い木の箱が現れた。
「これは…?」

エドガーは木の蓋を開けると、そこにはとても美しいガラス製の万年筆が入っていた。

「何て美しい万年筆なんだ…」

そして箱の中にメッセージカードが添えられていた。エドガーは震える手でメッセージカードを広げた。

『メリークリスマス。お兄様。またお会いしたいです。 ヒルダ』

「ヒルダ…ッ!」

エドガーは珍しいガラス製の万年筆の送り主がヒルダだと言う事を知り、胸が熱くなった。

「ヒルダ…俺の為にわざわざクリスマスプレゼントを買ってくれたなんて…」

エドガーの顔に笑みが浮かぶ。愛するヒルダからのプレゼントだ。嬉しくてたまらなかった。

「それにしても何て見事な万年筆だろう。きっと高かっただろうに…」

エドガーは万年筆を持って自分の眼前にかかげた。ガラス製の万年筆は光沢を放ち、それは美しいデザインだった。ペン軸の部分が青く染められ、まるでヒルダの青い瞳を思い起こさせた。

「使うのはもったいないが、試し書きをしてみるか。」

エドガーは早速インク壺にガラス製の万年筆を浸し、紙に自分のサインを書いてみた。万年筆の書き心地は素晴らしくてエドガーは大満足だった。

「ありがとう、ヒルダ。この万年筆…大切に使わせて貰うよ。」

エドガーは万年筆をギュッと握りしめ、遠く離れたヒルダに礼を述べた―。



その日の午後―


「こんにちは~。エドガー様。」

午後、いつものようにアンナが馬車に乗ってエドガーの元へとやってきた。学校が冬期休暇に入ってからと言うもの、アンナは毎日フィールズ家にやって来ていた。

カチャリ…

アンナはエドガーの部屋を開けると、いつもはエドガーが書斎机に向かって仕事をしているのに今日に限っていない。

「エドガー様?」

アンナはキョロキョロしながら机に近付き、ガラス製の万年筆を見つけた。

「まあ!何て素敵な万年筆なの…とっても綺麗…」

アンナは万年筆を手に取ってみた。そして窓際に持って行き、太陽の光にかざしてみるとガラスがキラキラと光り輝く。

「わあ…本当に何て素晴らしいんでしょう…」

その時、カチャリと扉が開いてエドガーが現れた。そしてアンナに気が付いた。

「やぁ、アンナ嬢。来ていたのかい?」

すると不意に声を掛けられたアンナは驚いた。

「え?あっ!」

その瞬間、持っていた万年筆を床に落としてしまった。

ガシャーンッ!!

派手な音を立てて壊れる万年筆。

「キャアッ!」

アンナは悲鳴を上げた。

「え?!今の音はっ?!」

驚いたのはエドガーだった。驚いてアンナの元へ駆け寄るとそこには粉々に砕け散った万年筆が散らばっている。

「あ!万年筆が…っ!」

エドガーは慌てて拾い上げようとしてガラスの先端で指先を傷つけてしまった。

「痛っ…!」

「エドガー様っ!大丈夫ですかっ?!」

アンナはエドガーに駆け寄ると、涙ぐんで謝罪した。

「ご、ごめんなさい…エドガー様。私、万年筆を…。それに怪我まで負わせてしまったわ。」

「いや…壊れてしまったものは仕方が無いよ。それよりアンナ嬢に怪我が無くて良かった。」

(すまない、ヒルダ…。)

エドガーはアンナに優しく言いながら心の中で詫びるのだった―。
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