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第1章 10 また明日

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「ヒルダ様、実は・・・マドレーヌとは偶然ヒルダ様のアパートメントの前で会ったのです。」

ルドルフはヒルダの小さな手を握り締めながら言う。

「え・・?私の住むアパートメントの前で・・?」

ヒルダは小首を傾げた。その姿さえ、ルドルフには愛しくてたまらなかった。

「ヒルダ様、まずは歩きながらお話しませんか?アパートメント迄送りますので。」

「え、ええ・・。」

そしてヒルダは未だに繋がれたままの手を見つめると、頬を染めて言う。

「あ、あの・・手を放して貰える?その・・。」

「僕はマドレーヌとは付き合っていませんよ。それとも・・・嫌ですか?僕に手を繋がれるのは・・・?」

ルドルフはまだヒルダが自分の事をどう思っているのか不安な気持ちがあったので、つい意地が悪いと思ったけれども再度ヒルダの気持ちを確認したくて尋ねた。もうあの時の二の舞は踏みたくは無かったからだ。

「い、嫌じゃ・・・無い・・わ・・。」

ヒルダは俯き、消え入りそうな声で返事をする。その言葉を聞いただけで、ルドルフの凍り付いていた心が雪解けを迎えたかのように溶けだして行くのを感じた。

(やっぱり僕は・・こんなにもヒルダ様の事を愛しているんだ・・・。)

「なら・・いいですよね?ヒルダ様・・足が辛そうだったし・・。」

「ありがとう・・ルドルフ。」

そしてヒルダはルドルフに手を引かれながら、2人はヒルダの住むアパートメントへ向かってゆっくりと歩き始めた。
2人でロータスの賑わっている街並みを歩きながらルドルフが話しかけてきた。

「実は・・カウベリーに里帰りをした時に・・ヒルダ様にお土産を買ってきたのです。」

「まあ・・私に・・カウベリーでのお土産を?」

ヒルダは嬉しそうに笑みを浮かべた。

「・・・。」

ルドルフはヒルダの笑みを真剣な顔でじっと見つめている。

「ど、どうかしたの?ルドルフ。」

ヒルダはあまりにも自分の事を凝視するルドルフの視線が恥ずかしくて視線を逸らせながら尋ねた。

「い、いえ・・・。ヒルダ様の笑顔を見るのはロータスに来てから・・初めてだったので・・・。」

ルドルフは戸惑いながらも言う。

「あ・・・それは・・・。」

(どうしよう・・・変装してお母さまに会う為にカウベリーへ行った事をルドルフに話してもいいのかしら・・・。)

ヒルダは知らない。自分の里帰りをした話をルドルフが知っていると言う事実を。そこで迷っていると、ルドルフが言った。

「ヒルダ様・・・実は・・・。」

しかし、そこまでルドルフが言いかけた時・・もう目の前はヒルダの住むアパートメントだった。

「ルドルフ・・アパートメントに着いたわ・・。」

どことなく寂し気な声でヒルダは言う。

「あ・・・。」

(もう・・ヒルダ様のアパートメントに着いてしまった・・・。本当はもっと長く一緒にいたかったのに・・・。)

「あ・・・それでは玄関まで荷物・・持ちますよ。」

「・・ありがとう、ルドルフ。」


2人は並んでアパートメントの入り口に入り、ヒルダの住む部屋の扉の前に立った。

「ヒルダ様・・・・荷物です。」

「ええ・・。」

言葉少なくヒルダはルドルフから重い手提げ部袋を受け取る。

「あの・・・これ、さっき話していたカウベリーのお土産です。受け取ってください。」

ルドルフはヒルダに小さな紙バックを渡してきた。

「私・・貰っていいの・・?」

ヒルダは顔を上げてルドルフを見た。

「ええ、勿論です。ヒルダ様の為に・・・買ってきたのですから。」

「ありがとう・・とっても嬉しいわ。」

ヒルダは頬を染めて笑顔でルドルフを見た。

「・・っ!」

思わずその笑顔を見てルドルフはヒルダを抱きしめたい騒動に駆られたが、それを堪えると言った。

「ヒルダ様・・実はマドレーヌのお店に行ったのは・・ケーキを注文したからです。明日・・出来上がるのですが・・・ヒルダ様は明日何か用事はありますか?」

「明日も用事は無いわ。」

「良かった・・ならケーキを持っていきます。何時なら都合がいいですか?」

ルドルフの言葉にヒルダは驚いた。

「え?で、でも・・今日だってお土産を貰ったのに・・そのうえケーキまでなんて・・。」

「いえ、とっても素敵なケーキだったので、どうしてもヒルダ様に食べてもらいたいのです。」

「なら・・・11時頃なら・・。」

ルドルフの真剣な瞳に押されてヒルダはつい返事をしてしまった。

「11時ですね?分かりました。ではまた明日。」

ルドルフは笑みを浮かべると足早に帰って行った―。
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