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第1章 3 嬉しい知らせ
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午後4時―
「それではお先に失礼します。」
帰り支度を終えたヒルダが診察室で小休憩を取っていたアレンに声を掛けた。
「ああ、お疲れ様ヒルダ。今日は忙しくて大変だっただろう?次のアルバイトは2日後だからそれまではゆっくり休むと良い。」
「はい、ありがとうございます。」
ヒルダは笑みを浮かべて、挨拶をした。
「っ!」
不覚にもその笑顔がとても美しく、アレンは顔が赤面するのを感じて慌てて視線を反らすと言った。
「それじゃ、ヒルダ。気を付けて帰るんだぞ?」
「はい、ありがとうございます。では失礼します。」
ヒルダは頭を下げると診察室のドアを閉めて出て行った。
「ふう・・・。」
アレンは溜息をついた。
(一体・・・俺は何を考えているんだ?ヒルダはまだたった17歳で俺よりも10歳も年下だと言うのに・・・。)
看護師のレイチェルと受付のリンダのせいで、どうにもアレンはヒルダを1人の女性として意識してしまようになってしまった。
(そうだ・・・それにヒルダのあの笑顔だ。以前のヒルダはまるで表情が無く、笑顔等見せたことも無かったのに・・・故郷へ里帰りしてから変わった。一体故郷で何があったのだろう・・。)
だが、アレンにはその事を尋ねる事は出来なかった。何故ならアレンとヒルダの関係は患者と医師、そしてアルバイトと雇用主と言う関係でしかなかったからだ。
(せめて俺とヒルダの年齢が・・・後半分くらい近ければ・・もう少し気軽に彼女に踏み込む事が出来るのに・・。)
そこまで考え、アレンは自分がとんでもないことを想像してしまっている事に気付き、デスクに置かれた紙コップに手を伸ばし、すっかり生ぬるくなったコーヒーを一気に流し込んだ。
この時・・・アレン自身は全く自分自身の気持ちに気づいていなかったのだ。
どれほど自分がヒルダに心惹かれているかと言う事に―。
診療所から歩いて20分―
ヒルダはカミラの待つアパートメントに帰って来た。ポケットから部屋の鍵を取り出し、鍵を開けてヒルダはガチャリとドアを開けた。
「ただいま。カミラ。」
すると廊下の奥にある部屋からパタパタとこちらへ向かって来る足音が聞えて来た。
「お帰りなさいませ、ヒルダ様。」
廊下に現れたカミラが笑顔で出迎えた。何か料理をしていたのだろうか。部屋中に美味しそうな匂いが漂っている。
「カミラ、何かお料理を作っていたの?美味しそうな匂いがここまで来ているわ。」
ヒルダはコートを脱ぎながら尋ねた。
「はい、今夜はヒルダ様の好きな魚のムニエルとポトフを作りました。勿論ニンジンは多めにしてありますよ?」
良く煮込んだニンジンをヒルダが好きなのはカミラは良く知っている。
「本当?嬉しいわ。」
「それでは18時になったらお夕食にしましょう。」
「ええ、そうね。」
上着を脱いだヒルダは嬉しそうに返事をした。
小さな洗面所で手を洗い、リビングルームへヒルダがやってくるとカミラが言った。
「ヒルダ様、そういえば『カウベリー』からお手紙が届いておりました。」
「え?本当に?!」
「はい、こちらになります。」
カミラはテーブルの上に乗せて置いた白い封筒を手渡した。その手紙にはエドガーの印を現す封蝋印が押されている。
「これは・・お兄様からだわ。」
ヒルダは手紙を受け取ると椅子に座り、すぐにペーパーナイフで封筒の上部を切ると中から手紙を取り出した。
「・・・・。」
ヒルダは真剣に手紙に目を通し・・やがて読み終えるとギュッと手紙を抱きしめた。
「ヒルダ様・・何か良い事が書かれていたのですか?」
「そうなの、分かる?」
「ええ。勿論です。」
「あのね、お母さまが大分身体が回復されて・・・今ではもう寝たきりの生活では無くなったんですって。視力も回復してきて、少しずつだけど編み物や読書も出来るようになったって・・。お医者様がこれは奇跡だと驚いているんですって。」
「まあ・・・そうだったのですね?やはりヒルダ様に会うことが出来たからでしょうね?」
「だとしたらいいのだけど・・・でもお母様が約束して下さったの。身体が元のように元気になれたら『ロータス』に来てくれるって。その日が今から待ち遠しいわ・・。」
ヒルダは故郷の母に思いをはせるのだった―。
「それではお先に失礼します。」
帰り支度を終えたヒルダが診察室で小休憩を取っていたアレンに声を掛けた。
「ああ、お疲れ様ヒルダ。今日は忙しくて大変だっただろう?次のアルバイトは2日後だからそれまではゆっくり休むと良い。」
「はい、ありがとうございます。」
ヒルダは笑みを浮かべて、挨拶をした。
「っ!」
不覚にもその笑顔がとても美しく、アレンは顔が赤面するのを感じて慌てて視線を反らすと言った。
「それじゃ、ヒルダ。気を付けて帰るんだぞ?」
「はい、ありがとうございます。では失礼します。」
ヒルダは頭を下げると診察室のドアを閉めて出て行った。
「ふう・・・。」
アレンは溜息をついた。
(一体・・・俺は何を考えているんだ?ヒルダはまだたった17歳で俺よりも10歳も年下だと言うのに・・・。)
看護師のレイチェルと受付のリンダのせいで、どうにもアレンはヒルダを1人の女性として意識してしまようになってしまった。
(そうだ・・・それにヒルダのあの笑顔だ。以前のヒルダはまるで表情が無く、笑顔等見せたことも無かったのに・・・故郷へ里帰りしてから変わった。一体故郷で何があったのだろう・・。)
だが、アレンにはその事を尋ねる事は出来なかった。何故ならアレンとヒルダの関係は患者と医師、そしてアルバイトと雇用主と言う関係でしかなかったからだ。
(せめて俺とヒルダの年齢が・・・後半分くらい近ければ・・もう少し気軽に彼女に踏み込む事が出来るのに・・。)
そこまで考え、アレンは自分がとんでもないことを想像してしまっている事に気付き、デスクに置かれた紙コップに手を伸ばし、すっかり生ぬるくなったコーヒーを一気に流し込んだ。
この時・・・アレン自身は全く自分自身の気持ちに気づいていなかったのだ。
どれほど自分がヒルダに心惹かれているかと言う事に―。
診療所から歩いて20分―
ヒルダはカミラの待つアパートメントに帰って来た。ポケットから部屋の鍵を取り出し、鍵を開けてヒルダはガチャリとドアを開けた。
「ただいま。カミラ。」
すると廊下の奥にある部屋からパタパタとこちらへ向かって来る足音が聞えて来た。
「お帰りなさいませ、ヒルダ様。」
廊下に現れたカミラが笑顔で出迎えた。何か料理をしていたのだろうか。部屋中に美味しそうな匂いが漂っている。
「カミラ、何かお料理を作っていたの?美味しそうな匂いがここまで来ているわ。」
ヒルダはコートを脱ぎながら尋ねた。
「はい、今夜はヒルダ様の好きな魚のムニエルとポトフを作りました。勿論ニンジンは多めにしてありますよ?」
良く煮込んだニンジンをヒルダが好きなのはカミラは良く知っている。
「本当?嬉しいわ。」
「それでは18時になったらお夕食にしましょう。」
「ええ、そうね。」
上着を脱いだヒルダは嬉しそうに返事をした。
小さな洗面所で手を洗い、リビングルームへヒルダがやってくるとカミラが言った。
「ヒルダ様、そういえば『カウベリー』からお手紙が届いておりました。」
「え?本当に?!」
「はい、こちらになります。」
カミラはテーブルの上に乗せて置いた白い封筒を手渡した。その手紙にはエドガーの印を現す封蝋印が押されている。
「これは・・お兄様からだわ。」
ヒルダは手紙を受け取ると椅子に座り、すぐにペーパーナイフで封筒の上部を切ると中から手紙を取り出した。
「・・・・。」
ヒルダは真剣に手紙に目を通し・・やがて読み終えるとギュッと手紙を抱きしめた。
「ヒルダ様・・何か良い事が書かれていたのですか?」
「そうなの、分かる?」
「ええ。勿論です。」
「あのね、お母さまが大分身体が回復されて・・・今ではもう寝たきりの生活では無くなったんですって。視力も回復してきて、少しずつだけど編み物や読書も出来るようになったって・・。お医者様がこれは奇跡だと驚いているんですって。」
「まあ・・・そうだったのですね?やはりヒルダ様に会うことが出来たからでしょうね?」
「だとしたらいいのだけど・・・でもお母様が約束して下さったの。身体が元のように元気になれたら『ロータス』に来てくれるって。その日が今から待ち遠しいわ・・。」
ヒルダは故郷の母に思いをはせるのだった―。
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