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番外編 カウベリーの事件簿 ①
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午後5時―
広々としたエントランスにハリスの声が響き渡った。
「何?アンナ嬢のご友人は・・もう故郷へ帰ってしまったのか?」
「はい・・・申し訳ございません。こちらとしては是非ともお茶会に出席して頂きたかったのですが・・立て続けに事件が起こり・・多くの警察官たちが『カウベリー』に来たこともあって、非常事態だと思われたらしく・・滞在予定を早めてしまったのです。」
フィールズ家に帰宅したばかりのハリスはエドガーの言葉に落胆の表情を見せた。
「そうか・・・でも仕方あるまい・・。何せまだたった17歳の少年と少女がショッキングな死を迎えてしまったからな・・・。私だってショックだ。まさかこのような田舎の町で・・こんな事件が起こるとは・・。」
ハリスはコートを脱ぐと、エドガーと一緒に出迎えに現れたマルコに上着を託した。
「・・・。」
マルコは黙っていたが、内心彼も心の中でとてもショックを受けていた。何しろ自殺をしてしまったイワンにしろ、父親に殺されてしまったグレースの事にしろ・・マルコは良く知っていたからだ。
ハリスはエドガーに言った。
「エドガー。その今回の事件についてだが・・・色々警察署で話を聞いてきた。詳しくお前にも伝えたいから今夜は私と一緒に食事を取ろう。」
「はい、分かりました。」
最近エドガーとハリスは互いの仕事が忙しくて食事時間がずれてしまっていたのだ。
その話を傍で聞いていたマルコが言った。
「旦那様。それでは何時にお食事になさいますか?」
「そうだな・・では18時に食堂に準備するように伝えておいてくれ。」
「はい、承知致しました。では伝えてまいりますので失礼致します。」
マルコは頭を下げると足早に厨房へと向かった―。
午後6時―
ハリスとエドガーは真っ白なテーブルクロスがかかった長方形のダイニングテーブルに向かい合って座っていた。テーブルの上にはサラダやスープ、パンに肉、魚料理等様々な料理が並べられ、燭台によって明るくオレンジ色に照らし出されていた。
「父上・・それで警察のお話はどのような話だったのでしょうか?」
エドガーはメインデッシュのステーキをカットしながら赤ワインを飲んでいるハリスに尋ねた。
「ああ・・・その話なのだが・・グレースを殺害してしまった父親に動機を尋ねてもまともに答える事が出来ないそうなのだ。ただ、うわ言のように、『あれは娘ではない。悪魔だ。自分は悪魔を殺しただけだ。』と答えるだけらしい。おまけに唯一現場に居合わせていたグレースの母親は・・・もう会話もまともに出来ない状態になってしまったそうだ・・。まあ・・・自分の娘が夫の手によって・・・よりにもよって自分の目の前で殺されてしまったのだからな・・・おかしくなるのも無理はない。」
「そうですね・・・。イワンの母親も・・おかしくなってしまいましたから・・。」
エドガーはポツリと言う。
「だから、グレースが殺害された理由が分からない。なので事件の全貌が明らかになるのは暫く時間がかかるそうだ。明日から本格的にグレースの家に警察が入り、捜査が行われる。警察は我々にも話を聞きたいらしいから・・・もし尋ねてきたら協力してあげてくれ。」
そして再びハリスはワインを飲んだ。
「はい・・分かりました。」
エドガーは返事をすると、再び食事を再開しながら考えた。
(絶対にグレースが殺された背景には・・イワンが絡んでいるはずだ。そしてイワンの自殺にはグレースが大きく関わっていたに違いない。だから・・グレースは父親に殺されたのだ・・。明日もし警察官がここへ来るようなら・・俺の考えを伝えてみよう・・。)
そしてふと、ヒルダの事が頭をよぎった。
『ロータス』へ帰ったヒルダの今夜の夕食は何だろうとエドガーは思うのだった―。
広々としたエントランスにハリスの声が響き渡った。
「何?アンナ嬢のご友人は・・もう故郷へ帰ってしまったのか?」
「はい・・・申し訳ございません。こちらとしては是非ともお茶会に出席して頂きたかったのですが・・立て続けに事件が起こり・・多くの警察官たちが『カウベリー』に来たこともあって、非常事態だと思われたらしく・・滞在予定を早めてしまったのです。」
フィールズ家に帰宅したばかりのハリスはエドガーの言葉に落胆の表情を見せた。
「そうか・・・でも仕方あるまい・・。何せまだたった17歳の少年と少女がショッキングな死を迎えてしまったからな・・・。私だってショックだ。まさかこのような田舎の町で・・こんな事件が起こるとは・・。」
ハリスはコートを脱ぐと、エドガーと一緒に出迎えに現れたマルコに上着を託した。
「・・・。」
マルコは黙っていたが、内心彼も心の中でとてもショックを受けていた。何しろ自殺をしてしまったイワンにしろ、父親に殺されてしまったグレースの事にしろ・・マルコは良く知っていたからだ。
ハリスはエドガーに言った。
「エドガー。その今回の事件についてだが・・・色々警察署で話を聞いてきた。詳しくお前にも伝えたいから今夜は私と一緒に食事を取ろう。」
「はい、分かりました。」
最近エドガーとハリスは互いの仕事が忙しくて食事時間がずれてしまっていたのだ。
その話を傍で聞いていたマルコが言った。
「旦那様。それでは何時にお食事になさいますか?」
「そうだな・・では18時に食堂に準備するように伝えておいてくれ。」
「はい、承知致しました。では伝えてまいりますので失礼致します。」
マルコは頭を下げると足早に厨房へと向かった―。
午後6時―
ハリスとエドガーは真っ白なテーブルクロスがかかった長方形のダイニングテーブルに向かい合って座っていた。テーブルの上にはサラダやスープ、パンに肉、魚料理等様々な料理が並べられ、燭台によって明るくオレンジ色に照らし出されていた。
「父上・・それで警察のお話はどのような話だったのでしょうか?」
エドガーはメインデッシュのステーキをカットしながら赤ワインを飲んでいるハリスに尋ねた。
「ああ・・・その話なのだが・・グレースを殺害してしまった父親に動機を尋ねてもまともに答える事が出来ないそうなのだ。ただ、うわ言のように、『あれは娘ではない。悪魔だ。自分は悪魔を殺しただけだ。』と答えるだけらしい。おまけに唯一現場に居合わせていたグレースの母親は・・・もう会話もまともに出来ない状態になってしまったそうだ・・。まあ・・・自分の娘が夫の手によって・・・よりにもよって自分の目の前で殺されてしまったのだからな・・・おかしくなるのも無理はない。」
「そうですね・・・。イワンの母親も・・おかしくなってしまいましたから・・。」
エドガーはポツリと言う。
「だから、グレースが殺害された理由が分からない。なので事件の全貌が明らかになるのは暫く時間がかかるそうだ。明日から本格的にグレースの家に警察が入り、捜査が行われる。警察は我々にも話を聞きたいらしいから・・・もし尋ねてきたら協力してあげてくれ。」
そして再びハリスはワインを飲んだ。
「はい・・分かりました。」
エドガーは返事をすると、再び食事を再開しながら考えた。
(絶対にグレースが殺された背景には・・イワンが絡んでいるはずだ。そしてイワンの自殺にはグレースが大きく関わっていたに違いない。だから・・グレースは父親に殺されたのだ・・。明日もし警察官がここへ来るようなら・・俺の考えを伝えてみよう・・。)
そしてふと、ヒルダの事が頭をよぎった。
『ロータス』へ帰ったヒルダの今夜の夕食は何だろうとエドガーは思うのだった―。
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