上 下
253 / 566

第12章 5 電話で交わした会話

しおりを挟む
 21時―

 外では雪がシンシンと降り積もっていた。とても静かな夜で、外は物音ひとつ聞こえてこない・・そんな夜だった。

エドガーは再び自室でアンナと電話で話をしていた。今、この部屋付近は人払いを済ませてある。

「そうか・・・ヒルダがそんな事を言っていたのか・・・。」

『はい、そうです。やはり・・・ヒルダ様とルドルフ様が婚約した時に・・グレースがヒルダ様にルドルフは自分の恋人だったと・・泥棒猫とののしったようです・・。』

受話器越しから悔しそうなアンナの声が聞こえてくる。

「ありがとう、アンナ嬢・・・。君のお陰だよ。ヒルダを母に会わせられたのも・・・そしてヒルダ自身の口から本当の事を聞きだすことが出来たのも・・君には感謝してもしきれないな・・・。母は・・・ヒルダに再会できて、体調がすごく良くなったんだよ。主治医もとても驚いていた。これは奇跡では無いだろうかって言うくらいにね・・。本当に・・ありがとう・・。」


エドガーはフッと笑いながら言う。すると、受話器越しからためらいがちにアンナの声が聞こえてきた。

『エドガー様・・・軽蔑しないで下さいね・・?』

急にアンナの声のトーンが変わる。

「どうしたんだ?」

『私・・・グレースが死んでしまったと言うのに・・いまだに彼女が許せないんです・・・。自分の罪を白状しないまま・・例え、父親に殺されても・・勝手に死んでいったグレースが・・許せないんです!ヒルダ様に罪を被せたまま、のうのうと生きていて・・最後まで自分の罪を認めずに・・死ぬなんて・・、私・・グレースが憎くてたまらないんです・・・!』

アンナは嗚咽混じりに言う。

「アンナ嬢・・・。分かるよ、俺もその気持ち・・・。」

『え・・・?』

「俺も・・君と同じ考えだからさ。俺は絶対にグレースを許さない。ヒルダに足の大けがを負わせ・・・教会の火事の事件を押し付けた。そして・・1人の少年を自殺に追いやったあの悪女を・・!」

エドガーは憎々し気に言う。

「俺はグレースが死んだって許さない。神の身元へ行くこと自体、おこがましい。あんな女はいっそ地獄へ落ちてしまえばいいと思っている。・・どうだい?こんな俺に・・・失望したかい?」

『いいえ・・・失望なんかしません・・!』

「だったら・・俺だってアンナ嬢を軽蔑なんかしないさ。」

『エドガー様・・・。』

「実は・・明日はイワンの葬儀が教会で行われるんだ。父は勿論・・俺も伯爵家の次期党首として葬儀に参列することになっているんだ。・・恐らくルドルフも参列するだろう・・。だから・・ヒルダの話を・・しようと思っている。2人の誤解を解いてあげる事が出来ればいいのだが・・・。」

するとアンナは言った。

『大丈夫ですよ・・だって・・ヒルダ様は今もルドルフ様の事を思っていますから・・。』

「そうか・・・。」

(ヒルダは・・ルドルフの事がまだ好きなのか・・。)

ズキリとする胸の痛みを我慢しながらエドガーは言った。

「それではアンナ嬢・・・ヒルダの事をよろしく頼むよ・・・。」

『あ、そのことなんですけど・・。』

アンナが申し訳なさげに言う。

「・・どうかしたのか?」

『ヒルダ様・・明日の汽車で・・『ロータス』へ・・・帰るそうです。』

「え・・?そ、そんな急に・・・?何故だ?」

(ヒルダが・・・『カウベリー』を去ってしまう・・!)

『ヒルダ様は・・グレースとイワンが死んだのは自分のせいだと思っているんです。そんなはずは無いのに・・・。ここにいるのは申し訳ないって・・・。』

「そう・・なのか・・。」

エドガーは本当はもっと長くヒルダには『カウベリー』に滞在してもらいたかった。少しでも長く自分の近くにいてもらいたいと思っていた。だが・・エドガーにはその言葉を口にする事は出来ないのだ。

 その時、エドガーに良い考えが浮かんだ―。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ
恋愛
身に覚えのない罪で婚約破棄のはずが、何故かヒロインを立派な令嬢にするために引き取ることになってしまった! 結果によってはやっぱり婚約破棄? 血の繋がりがない婚約者と子爵令嬢が兄妹?いったいどういう意味? 虐められていたのは本当?黒幕は別?混乱する公爵令嬢を転生兄妹が守り抜いたら、別の公爵令嬢に悪役フラグが立った!

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

処理中です...