152 / 566
第5章 4 ヒルダの夏休み ②
しおりを挟む
夕方4時―
ヒルダのアルバイトの終了時間がやってきた。ちょうど患者が全てはけた時間帯だったヒルダはエプロンを外し、カバンにしまうと診察室へいるアレンに声を掛けた。
「アレン先生、それでは4時になったので帰らせて頂きますね。」
患者のカルテを見直していたアレンは顔を上げると言った。
「ああ、もうそんな時間だったのか?お疲れ様。ヒルダ。」
「はい、それではまた明後日よろしくお願いします。」
ヒルダは頭を下げて、帰りかけた時に診察室奥にある処置室のカーテンがシャッと開けられ、看護師のレイチェルが現れた。
「ああ、ヒルダ。良かったわ、まだ帰っていなくて。はい、これ・・持ってお行きなさい。」
レイチェルは手に持っていた大きな紙袋を手渡してきた。
「あの・・?これは・・?」
ヒルダは首をかしげて尋ねるとレイチェルは笑顔で言った。
「これはミートパイだよ。お姉さんと夕食にでも食べておくれ?」
「まあ・・ミートパイですか?私の姉も大好きなんです。ありがとうございます。レイチェルさん。」
それを見ていたアレンが言った。
「レイチェルさん。私の分もあるかな?」
「ええ、勿論ございますよ。先生もミートパイお好きですものね?」
レイチェルは笑顔で言う。
「ああ。そうだね。貴女のミートパイは絶品だ。」
すると今度は受付のリンダが姿を見せた。
「ヒルダちゃん。良かった。まだいてくれて。」
そしてリンダも紙袋を手に持っている。
「はい、ヒルダちゃん。これ受け取って。全粒粉のレーズン入りパンよ。お姉さんと食べて頂戴。」
「え・・?いいんですか?この間もパンを頂いたのに・・。」
ヒルダは目を丸くした。
「ええ、いいのよ。だってほら、うちの夫はパン職人なんだから気にしないで。」
リンダの言葉にヒルダはお礼を述べた。
「ありがとうございます。今度姉と一緒にお店に行きますね。」
ヒルダはしっかり紙袋を抱えるとお礼を述べた。そして3人を見るとヒルダは再び頭を下げた。
「お先に失礼します。」
診療所を出たヒルダのカバンの中には先程貰ったミートパイとパンが入っている。
「レイチェルさんとリンダさんのお陰でお夕食作るのが楽になったわ。」
ヒルダは独り言のようにつぶやくと、マルシェへ向かった。メインの食事を貰ったので、後は野菜を買って帰ろうと思ったヒルダは青果を売っている店に向った。
「まあ・・・おいしそうなトマト。」
青果売り場には色とりどりの野菜やくだものが売られていた。『ロータス』は海のある都市でもあったが、郊外では野菜の栽培が盛んな都市でもあった。特に有名なのはトマトである。
「ここのトマトは本当においしいのよね・・・。」
ヒルダはトマトとジャガイモ、それにレタスにパプリカを買った。
「お嬢ちゃん、荷物重くなるけど大丈夫かい?」
青果店の年老いた店主が心配そうに尋ねてくる。
「はい、何とか持てそうです。」
ヒルダはすっかり重くなった布カバンを肩から下げながら言う。
「そうかい・・・気を付けて持って帰るんだよ?」
「はい、ありがとうございます。」
そしてヒルダはマーケットを後にした。
「ふう・・・・やっぱり買いすぎちゃったみたい・・。重いわ・・・。」
ヒルダは足を引きずりながら家路へ向かっていると、背後からヒルダを大声で呼ぶ声が聞こえてきた。
「ヒルダーッ!!」
「え?」
その声に振り向くと、なんとフランシスがこちらへ向かって駆け寄って来ている。
ヒルダは立ち止まって待っていると、フランシスは息を切らせながらヒルダの元へとやってきた。
「ふう~・・・・良かった。ヒルダに偶然会えて・・・。」
「どうしたの?フランシス。」
「い、いや・・実はさ。俺も今夏休みで家のレストランの手伝いしてるの・・知ってるだろう?」
「ええ、そうね。」
「そ、それでさ。これ・・・店であまった料理なんだ。ヒルダ・・・良かったら食べてくれよ。・・て荷物一杯だな。よし、ヒルダ。荷物持つよ。」
フランシスはヒルダが何か言う前にサッとヒルダからカバンを奪うように取った。
「あ・・・。」
「それじゃ、行こうぜ。ヒルダ。」
フランシスは笑みを浮かべた。
「ありがとう、フランシス。」
ヒルダはフランシスを見上げて礼を言う。
「なあ・・ヒルダ。」
2人でアパートメントへ向かって歩く道すがら、フランシスは声を掛けてきた。
「何?」
「あ、あのさ・・・7月になったら・・皆でまた島へ行かないか?今度はヒルダも泊りがけで・・・。」
「旅行・・・。」
ヒルダは呟く。
(そうね・・・。カミラは私の夏休みの過ごし方を心配していたわ。カミラの為にも少しは夏季休暇を楽しんだ方がいいかも・・・。)
「そうね・・考えておくわ。」
ヒルダは潮風に長い髪をたなびかせながらフランシスに返事をするのだった—。
ヒルダのアルバイトの終了時間がやってきた。ちょうど患者が全てはけた時間帯だったヒルダはエプロンを外し、カバンにしまうと診察室へいるアレンに声を掛けた。
「アレン先生、それでは4時になったので帰らせて頂きますね。」
患者のカルテを見直していたアレンは顔を上げると言った。
「ああ、もうそんな時間だったのか?お疲れ様。ヒルダ。」
「はい、それではまた明後日よろしくお願いします。」
ヒルダは頭を下げて、帰りかけた時に診察室奥にある処置室のカーテンがシャッと開けられ、看護師のレイチェルが現れた。
「ああ、ヒルダ。良かったわ、まだ帰っていなくて。はい、これ・・持ってお行きなさい。」
レイチェルは手に持っていた大きな紙袋を手渡してきた。
「あの・・?これは・・?」
ヒルダは首をかしげて尋ねるとレイチェルは笑顔で言った。
「これはミートパイだよ。お姉さんと夕食にでも食べておくれ?」
「まあ・・ミートパイですか?私の姉も大好きなんです。ありがとうございます。レイチェルさん。」
それを見ていたアレンが言った。
「レイチェルさん。私の分もあるかな?」
「ええ、勿論ございますよ。先生もミートパイお好きですものね?」
レイチェルは笑顔で言う。
「ああ。そうだね。貴女のミートパイは絶品だ。」
すると今度は受付のリンダが姿を見せた。
「ヒルダちゃん。良かった。まだいてくれて。」
そしてリンダも紙袋を手に持っている。
「はい、ヒルダちゃん。これ受け取って。全粒粉のレーズン入りパンよ。お姉さんと食べて頂戴。」
「え・・?いいんですか?この間もパンを頂いたのに・・。」
ヒルダは目を丸くした。
「ええ、いいのよ。だってほら、うちの夫はパン職人なんだから気にしないで。」
リンダの言葉にヒルダはお礼を述べた。
「ありがとうございます。今度姉と一緒にお店に行きますね。」
ヒルダはしっかり紙袋を抱えるとお礼を述べた。そして3人を見るとヒルダは再び頭を下げた。
「お先に失礼します。」
診療所を出たヒルダのカバンの中には先程貰ったミートパイとパンが入っている。
「レイチェルさんとリンダさんのお陰でお夕食作るのが楽になったわ。」
ヒルダは独り言のようにつぶやくと、マルシェへ向かった。メインの食事を貰ったので、後は野菜を買って帰ろうと思ったヒルダは青果を売っている店に向った。
「まあ・・・おいしそうなトマト。」
青果売り場には色とりどりの野菜やくだものが売られていた。『ロータス』は海のある都市でもあったが、郊外では野菜の栽培が盛んな都市でもあった。特に有名なのはトマトである。
「ここのトマトは本当においしいのよね・・・。」
ヒルダはトマトとジャガイモ、それにレタスにパプリカを買った。
「お嬢ちゃん、荷物重くなるけど大丈夫かい?」
青果店の年老いた店主が心配そうに尋ねてくる。
「はい、何とか持てそうです。」
ヒルダはすっかり重くなった布カバンを肩から下げながら言う。
「そうかい・・・気を付けて持って帰るんだよ?」
「はい、ありがとうございます。」
そしてヒルダはマーケットを後にした。
「ふう・・・・やっぱり買いすぎちゃったみたい・・。重いわ・・・。」
ヒルダは足を引きずりながら家路へ向かっていると、背後からヒルダを大声で呼ぶ声が聞こえてきた。
「ヒルダーッ!!」
「え?」
その声に振り向くと、なんとフランシスがこちらへ向かって駆け寄って来ている。
ヒルダは立ち止まって待っていると、フランシスは息を切らせながらヒルダの元へとやってきた。
「ふう~・・・・良かった。ヒルダに偶然会えて・・・。」
「どうしたの?フランシス。」
「い、いや・・実はさ。俺も今夏休みで家のレストランの手伝いしてるの・・知ってるだろう?」
「ええ、そうね。」
「そ、それでさ。これ・・・店であまった料理なんだ。ヒルダ・・・良かったら食べてくれよ。・・て荷物一杯だな。よし、ヒルダ。荷物持つよ。」
フランシスはヒルダが何か言う前にサッとヒルダからカバンを奪うように取った。
「あ・・・。」
「それじゃ、行こうぜ。ヒルダ。」
フランシスは笑みを浮かべた。
「ありがとう、フランシス。」
ヒルダはフランシスを見上げて礼を言う。
「なあ・・ヒルダ。」
2人でアパートメントへ向かって歩く道すがら、フランシスは声を掛けてきた。
「何?」
「あ、あのさ・・・7月になったら・・皆でまた島へ行かないか?今度はヒルダも泊りがけで・・・。」
「旅行・・・。」
ヒルダは呟く。
(そうね・・・。カミラは私の夏休みの過ごし方を心配していたわ。カミラの為にも少しは夏季休暇を楽しんだ方がいいかも・・・。)
「そうね・・考えておくわ。」
ヒルダは潮風に長い髪をたなびかせながらフランシスに返事をするのだった—。
0
お気に入りに追加
725
あなたにおすすめの小説
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
大切なあのひとを失ったこと絶対許しません
にいるず
恋愛
公爵令嬢キャスリン・ダイモックは、王太子の思い人の命を脅かした罪状で、毒杯を飲んで死んだ。
はずだった。
目を開けると、いつものベッド。ここは天国?違う?
あれっ、私生きかえったの?しかも若返ってる?
でもどうしてこの世界にあの人はいないの?どうしてみんなあの人の事を覚えていないの?
私だけは、自分を犠牲にして助けてくれたあの人の事を忘れない。絶対に許すものか。こんな原因を作った人たちを。
婚約破棄すると言われたので、これ幸いとダッシュで逃げました。殿下、すみませんが追いかけてこないでください。
桜乃
恋愛
ハイネシック王国王太子、セルビオ・エドイン・ハイネシックが舞踏会で高らかに言い放つ。
「ミュリア・メリッジ、お前とは婚約を破棄する!」
「はい、喜んで!」
……えっ? 喜んじゃうの?
※約8000文字程度の短編です。6/17に完結いたします。
※1ページの文字数は少な目です。
☆番外編「出会って10秒でひっぱたかれた王太子のお話」
セルビオとミュリアの出会いの物語。
※10/1から連載し、10/7に完結します。
※1日おきの更新です。
※1ページの文字数は少な目です。
家出した伯爵令嬢【完結済】
弓立歩
恋愛
薬学に長けた家に生まれた伯爵令嬢のカノン。病弱だった第2王子との7年の婚約の結果は何と婚約破棄だった!これまでの尽力に対して、実家も含めあまりにもつらい仕打ちにとうとうカノンは家を出る決意をする。
番外編において暴力的なシーン等もありますので一応R15が付いています
6/21完結。今後の更新は予定しておりません。また、本編は60000字と少しで柔らかい表現で出来ております
【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~
Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。
そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。
「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」
※ご都合主義、ふんわり設定です
※小説家になろう様にも掲載しています
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
【完結】公女が死んだ、その後のこと
杜野秋人
恋愛
【第17回恋愛小説大賞 奨励賞受賞しました!】
「お母様……」
冷たく薄暗く、不潔で不快な地下の罪人牢で、彼女は独り、亡き母に語りかける。その掌の中には、ひと粒の小さな白い錠剤。
古ぼけた簡易寝台に座り、彼女はそのままゆっくりと、覚悟を決めたように横たわる。
「言いつけを、守ります」
最期にそう呟いて、彼女は震える手で錠剤を口に含み、そのまま飲み下した。
こうして、第二王子ボアネルジェスの婚約者でありカストリア公爵家の次期女公爵でもある公女オフィーリアは、獄中にて自ら命を断った。
そして彼女の死後、その影響はマケダニア王国の王宮内外の至るところで噴出した。
「ええい、公務が回らん!オフィーリアは何をやっている!?」
「殿下は何を仰せか!すでに公女は儚くなられたでしょうが!」
「くっ……、な、ならば蘇生させ」
「あれから何日経つとお思いで!?お気は確かか!」
「何故だ!何故この私が裁かれねばならん!」
「そうよ!お父様も私も何も悪くないわ!悪いのは全部お義姉さまよ!」
「…………申し開きがあるのなら、今ここではなく取り調べと裁判の場で存分に申すがよいわ。⸺連れて行け」
「まっ、待て!話を」
「嫌ぁ〜!」
「今さら何しに戻ってきたかね先々代様。わしらはもう、公女さま以外にお仕えする気も従う気もないんじゃがな?」
「なっ……貴様!領主たる儂の言うことが聞けんと」
「領主だったのは亡くなった女公さまとその娘の公女さまじゃ。あの方らはあんたと違って、わしら領民を第一に考えて下さった。あんたと違ってな!」
「くっ……!」
「なっ、譲位せよだと!?」
「本国の決定にございます。これ以上の混迷は連邦友邦にまで悪影響を与えかねないと。⸺潔く観念なさいませ。さあ、ご署名を」
「おのれ、謀りおったか!」
「…………父上が悪いのですよ。あの時止めてさえいれば、彼女は死なずに済んだのに」
◆人が亡くなる描写、及びベッドシーンがあるのでR15で。生々しい表現は避けています。
◆公女が亡くなってからが本番。なので最初の方、恋愛要素はほぼありません。最後はちゃんとジャンル:恋愛です。
◆ドアマットヒロインを書こうとしたはずが。どうしてこうなった?
◆作中の演出として自死のシーンがありますが、決して推奨し助長するものではありません。早まっちゃう前に然るべき窓口に一言相談を。
◆作者の作品は特に断りなき場合、基本的に同一の世界観に基づいています。が、他作品とリンクする予定は特にありません。本作単品でお楽しみ頂けます。
◆この作品は小説家になろうでも公開します。
◆24/2/17、HOTランキング女性向け1位!?1位は初ですありがとうございます!
ゼラニウムの花束をあなたに
ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。
じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。
レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。
二人は知らない。
国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。
彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。
※タイトル変更しました
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる