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第4章 7 心に灯火がともる時
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「え?島へ・・・行ってみたいのですか?」
「ああ、そうだよ。ヒルダなら当然知っているだろうけど『カウベリー』には海がないだろう?だから綺麗な海を見るのが夢だったんだ。ヒルダは島へ行ったことがあるかい?」
「いいえ・・ありません。」
「そうか、なら丁度よかった。2人で一緒に島へ行こう。このホテルのパンフレットに観光船で島へ渡れるツアーがある事を知ったんだよ。港は目の前だし・・よし、早速行こう。」
エドガーはヒルダの返事を聞かないうちにさっさとホテルの出口へと歩いていく。
ヒルダは慌てて、後を追った。
ヒルダが港に着くころ、エドガーは波止場に立って海を眺めていた。空はどこまでも青く、雲一つ無かった。
「ヒルダッ!こっちこっち!」
青い海を背にエドガーは両手を振ってヒルダを呼ぶ。そんな様子のエドガーを見てヒルダは思った。
(エドガー様って・・・どこか子供っぽい方なのね。)
ヒルダは杖をつきながらエドガーの元へと歩いて行くと、エドガーが近付いてきた。
「もうすぐここの波止場に観光船がやってくるらしいんだ。その観光船はここから船で30分位の小島に行くらしい。小島は内海にあるから揺れもさほどないそうなんだ。ヒルダは船酔いは大丈夫か?」
「さあ・・・そもそも船に乗ったことがありませんので・・。」
「ほら、ヒルダ。手を出して広げて。」
ヒルダはエドガーに言われるままに手を出して広げると、エドガーはセロファンに包んだキャンディーをヒルダの掌に乗せた。
「あの・・これは何ですか?」
「これはミントキャンディーさ。さっき小島行の遊船チケットを2枚買ったときに貰ったんだよ。酔い止め効果があるらしい。」
「そうなんですね?ありがとうございます。」
その時、海からボーッと汽笛のなる音が聞こえてきた。ヒルダとエドガーはその音に振り向くと、真っ白な船がこちらへ向かって近づいてくる。船からは大きな煙突が左右に2本伸びていて、そこから真っ白な蒸気を噴き出している。
「ああ!あれが蒸気船か・・・初めて見るよ。それにしても・・・美しい景色だな・・。」
エドガーが頬をうっすら赤く染めて蒸気船を眺めている。
どこまでも続く青い空に青い海。海は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。そして真っ白な蒸気船の周囲にはカモメが飛び回っている。思わず、ヒルダもその光景に見惚れ・・笑みが浮び、言った。
「はい。そうですね・・・。」
(本当に・・・何て素敵な景色・・・。)
ヒルダの心は壮絶なカウベリーの経験のせいで心が傷つき・・死んでしまったかのようになっていた。何を見ても感動することは無くなり、涙はカウベリーで枯れはて、作り笑いしかすることが出来なくなっていた。けれど、今この景色を目にした時、ヒルダは心から美しい景色だと感じることが出来たのだ。それは氷のように冷え切ったヒルダの心に灯火がともるかのように・・・。
そんなヒルダの横顔をエドガーは無言で見つめていたが、やがて口を開いた。
「ヒルダ・・・やっと少し笑ったな?」
「え・・?」
ヒルダはエドガーを見上げた。
「私・・・笑ってるんですか・・・?」
「何だ?気づいていなかったのか?自分が笑っていたことに・・・。」
「は、はい・・・。」
するとエドガーは右手でヒルダの頬に触れると言った。
「カミラがずっと手紙でヒルダの事を心配してたんだ。ヒルダの心はまるで死んでしまったかのようになっている。何を見ても感動する気持ちが無くなり、作り笑いしかできなくなってしまった・・と。母もその手紙を読んでずっと心を痛めてきたんだ。だけど、ヒルダは今・・ほんの少しだけど笑えた。それだけでも安心したよ。これで母に良い土産話が出来たな。」
そしてエドガーはヒルダの頬から手を離すと、再び船を見た。
船はいつの間にか船着き場に停泊している。それを見たエドガーはヒルダに手を差し述べた。
「さあ。俺の可愛い妹ヒルダ。蒸気船に乗るぞ。」
「はい・・・お兄様。」
ヒルダはエドガーの手を取ると言った―。
「ああ、そうだよ。ヒルダなら当然知っているだろうけど『カウベリー』には海がないだろう?だから綺麗な海を見るのが夢だったんだ。ヒルダは島へ行ったことがあるかい?」
「いいえ・・ありません。」
「そうか、なら丁度よかった。2人で一緒に島へ行こう。このホテルのパンフレットに観光船で島へ渡れるツアーがある事を知ったんだよ。港は目の前だし・・よし、早速行こう。」
エドガーはヒルダの返事を聞かないうちにさっさとホテルの出口へと歩いていく。
ヒルダは慌てて、後を追った。
ヒルダが港に着くころ、エドガーは波止場に立って海を眺めていた。空はどこまでも青く、雲一つ無かった。
「ヒルダッ!こっちこっち!」
青い海を背にエドガーは両手を振ってヒルダを呼ぶ。そんな様子のエドガーを見てヒルダは思った。
(エドガー様って・・・どこか子供っぽい方なのね。)
ヒルダは杖をつきながらエドガーの元へと歩いて行くと、エドガーが近付いてきた。
「もうすぐここの波止場に観光船がやってくるらしいんだ。その観光船はここから船で30分位の小島に行くらしい。小島は内海にあるから揺れもさほどないそうなんだ。ヒルダは船酔いは大丈夫か?」
「さあ・・・そもそも船に乗ったことがありませんので・・。」
「ほら、ヒルダ。手を出して広げて。」
ヒルダはエドガーに言われるままに手を出して広げると、エドガーはセロファンに包んだキャンディーをヒルダの掌に乗せた。
「あの・・これは何ですか?」
「これはミントキャンディーさ。さっき小島行の遊船チケットを2枚買ったときに貰ったんだよ。酔い止め効果があるらしい。」
「そうなんですね?ありがとうございます。」
その時、海からボーッと汽笛のなる音が聞こえてきた。ヒルダとエドガーはその音に振り向くと、真っ白な船がこちらへ向かって近づいてくる。船からは大きな煙突が左右に2本伸びていて、そこから真っ白な蒸気を噴き出している。
「ああ!あれが蒸気船か・・・初めて見るよ。それにしても・・・美しい景色だな・・。」
エドガーが頬をうっすら赤く染めて蒸気船を眺めている。
どこまでも続く青い空に青い海。海は太陽の光を反射してキラキラと輝いている。そして真っ白な蒸気船の周囲にはカモメが飛び回っている。思わず、ヒルダもその光景に見惚れ・・笑みが浮び、言った。
「はい。そうですね・・・。」
(本当に・・・何て素敵な景色・・・。)
ヒルダの心は壮絶なカウベリーの経験のせいで心が傷つき・・死んでしまったかのようになっていた。何を見ても感動することは無くなり、涙はカウベリーで枯れはて、作り笑いしかすることが出来なくなっていた。けれど、今この景色を目にした時、ヒルダは心から美しい景色だと感じることが出来たのだ。それは氷のように冷え切ったヒルダの心に灯火がともるかのように・・・。
そんなヒルダの横顔をエドガーは無言で見つめていたが、やがて口を開いた。
「ヒルダ・・・やっと少し笑ったな?」
「え・・?」
ヒルダはエドガーを見上げた。
「私・・・笑ってるんですか・・・?」
「何だ?気づいていなかったのか?自分が笑っていたことに・・・。」
「は、はい・・・。」
するとエドガーは右手でヒルダの頬に触れると言った。
「カミラがずっと手紙でヒルダの事を心配してたんだ。ヒルダの心はまるで死んでしまったかのようになっている。何を見ても感動する気持ちが無くなり、作り笑いしかできなくなってしまった・・と。母もその手紙を読んでずっと心を痛めてきたんだ。だけど、ヒルダは今・・ほんの少しだけど笑えた。それだけでも安心したよ。これで母に良い土産話が出来たな。」
そしてエドガーはヒルダの頬から手を離すと、再び船を見た。
船はいつの間にか船着き場に停泊している。それを見たエドガーはヒルダに手を差し述べた。
「さあ。俺の可愛い妹ヒルダ。蒸気船に乗るぞ。」
「はい・・・お兄様。」
ヒルダはエドガーの手を取ると言った―。
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