上 下
117 / 566

2章 11 夜の首都『ロータス』

しおりを挟む
「お二人で合計、銀貨2枚になります。」

フランシスに言われてお金を支払ったカミラは申し訳なさそうに言った。

「お忙しい中・・来てしまってかえってご迷惑をおかけしてしまいましたね。」

「い、いやっ!何言ってるんですかっ!そもそも誘ったのもここに連れてきたのも俺なんです!それより・・・どうですか?このウェイター姿。似合ってますか?」

フランシスはヒルダを思い切り意識しながら尋ねた。

「ええ、よくお似合いですよ。」

カミラは笑顔で答える。

「そうね、私もそう思うわ。」

淡々と答えるヒルダだったが、それでもフランシスは天にも昇る程嬉しかった。

(ヒルダが・・・俺のウェイター姿を・・・似合うって言ってくれた・・・ッ!早速明日あいつらに言ってやろう!きっと羨ましがるに違いない・・・。)

フランシスは悪友?ルイス、カイン、マイクの顔を思い浮かべた。

(特にマイク・・・アイツには思い切り自慢してやらなくちゃな・・・。)

何故かフランシスは自分の中でマイクを勝手にライバル視していたのである。勿論当のマイクはフランシスにライバル視されているなど知る由も無かったのだが。

「それじゃ、ごちそうさまでした。」

カミラがフランシスに別れの挨拶をし、店を出ようとしたとき・・つい、フランシスはヒルダを引き留めてしまった。

「ヒ、ヒルダッ!」

「何?」

ヒルダは振り返ってフランシスを見た。

店の軒先に無数につるされたランタンのオレンジ色に揺れる炎に背後から照らされているヒルダの姿は、呼吸を忘れる程に美しかった。フランシスに本気で、この世界でヒルダにかなう美少女はいないだろうと思わせる程に―。

「どうしたの?ランドルフさん。」

ヒルダは外見だけでなく、その声もとても美しかった。

(一度でいいから笑った顔を見てみたいな・・・。)

フランシスはヒルダに見惚れるあまり、父親から呼ばれていることにすら気付いていなかった。

「ねえ、ランドルフさん。お父様に呼ばれてるわよ。」

ヒルダに諭され、初めてフランシスは我に返った。

「あ・・・ありがとう!ヒルダッ!くっそ・・それにしても父さんの奴め・・・。」

フランシスの言葉を耳にしたヒルダは言った。

「ランドルフさん、お父様の事を・・そんな風に言ってはいけないわ。」

その声は酷く寂しげだった。

「え・・?ヒルダ・・・?」

ヒルダはフランシスから目を伏せると言った。

「お父様を・・・どうか大切にしてあげて・・。」

「あ、あ・・・ご、ごめん・・そうだね・・・。」

ヒルダに言われたフランシスは何故か急に父親に対しての行いが良くないものだったと思い、途端に恥ずかしくなってしまった。

「今夜は来てくれてありがとうっ!それじゃ俺はまだ仕事があるから・・2人共、気を付けて帰ってくれよ!」

フランシスは元気よく手を振ってヒルダとカミラを見送った―。


 辻馬車に揺られながらヒルダはカミラに言った。

「ねえ、カミラ。」

「はい、何でしょうか?」

「今日はありがとう。レストランに連れてきてくれて・・。お陰で気分転換が出来たわ。」

「ヒルダ様・・・。また、2人で一緒に食事に行きましょうね。」

「ええ、そうね。」

そしてヒルダは馬車の窓から外を眺めた。今夜は『ロータス』の町が誕生した記念日・・・。町中はまるでクリスマスの様にカラフルなイルミネーションで溢れかえり、幻想的なムードに満ち溢れていた。

「カミラ・・・この町の夜は・・・美しいわよね・・・。私ね、アパートメントから見える『ロータス』の夜の町の景色が好きなの。これを見られれば・・カウベリーの事を諦められるほどに・・・。だからカミラには本当に感謝してるのよ?ありがとう、カミラ。」

ヒルダはカミラの手を握ると言った。

「ヒルダ様・・・いえ、私の方こそ・・・・!」

そしてカミラはヒルダの手を握り返すのだった―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

「婚約の約束を取り消しませんか」と言われ、涙が零れてしまったら

古堂すいう
恋愛
今日は待ちに待った婚約発表の日。 アベリア王国の公爵令嬢─ルルは、心を躍らせ王城のパーティーへと向かった。 けれど、パーティーで見たのは想い人である第二王子─ユシスと、その横に立つ妖艶で美人な隣国の王女。 王女がユシスにべったりとして離れないその様子を見て、ルルは切ない想いに胸を焦がして──。

私はただ一度の暴言が許せない

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
厳かな結婚式だった。 花婿が花嫁のベールを上げるまでは。 ベールを上げ、その日初めて花嫁の顔を見た花婿マティアスは暴言を吐いた。 「私の花嫁は花のようなスカーレットだ!お前ではない!」と。 そして花嫁の父に向かって怒鳴った。 「騙したな!スカーレットではなく別人をよこすとは! この婚姻はなしだ!訴えてやるから覚悟しろ!」と。 そこから始まる物語。 作者独自の世界観です。 短編予定。 のちのち、ちょこちょこ続編を書くかもしれません。 話が進むにつれ、ヒロイン・スカーレットの印象が変わっていくと思いますが。 楽しんでいただけると嬉しいです。 ※9/10 13話公開後、ミスに気づいて何度か文を訂正、追加しました。申し訳ありません。 ※9/20 最終回予定でしたが、訂正終わりませんでした!すみません!明日最終です! ※9/21 本編完結いたしました。ヒロインの夢がどうなったか、のところまでです。 ヒロインが誰を選んだのか?は読者の皆様に想像していただく終わり方となっております。 今後、番外編として別視点から見た物語など数話ののち、 ヒロインが誰と、どうしているかまでを書いたエピローグを公開する予定です。 よろしくお願いします。 ※9/27 番外編を公開させていただきました。 ※10/3 お話の一部(暴言部分1話、4話、6話)を訂正させていただきました。 ※10/23 お話の一部(14話、番外編11ー1話)を訂正させていただきました。 ※10/25 完結しました。 ここまでお読みくださった皆様。導いてくださった皆様にお礼申し上げます。 たくさんの方から感想をいただきました。 ありがとうございます。 様々なご意見、真摯に受け止めさせていただきたいと思います。 ただ、皆様に楽しんでいただける場であって欲しいと思いますので、 今後はいただいた感想をを非承認とさせていただく場合がございます。 申し訳ありませんが、どうかご了承くださいませ。 もちろん、私は全て読ませていただきます。

今日からはじめる錬金生活〜家から追い出されたので王都の片隅で錬金術店はじめました〜

束原ミヤコ
恋愛
マユラは優秀な魔導師を輩出するレイクフィア家に生まれたが、魔導の才能に恵まれなかった。 そのため幼い頃から小間使いのように扱われ、十六になるとアルティナ公爵家に爵位と金を引き換えに嫁ぐことになった。 だが夫であるオルソンは、初夜の晩に現れない。 マユラはオルソンが義理の妹リンカと愛し合っているところを目撃する。 全てを諦めたマユラは、領地の立て直しにひたすら尽力し続けていた。 それから四年。リンカとの間に子ができたという理由で、マユラは離縁を言い渡される。 マユラは喜び勇んで家を出た。今日からはもう誰かのために働かなくていい。 自由だ。 魔法は苦手だが、物作りは好きだ。商才も少しはある。 マユラは王都の片隅で、錬金術店を営むことにした。 これは、マユラが偉大な錬金術師になるまでの、初めの一歩の話──。

【完結】妹ざまぁ小説の主人公に転生した。徹底的にやって差し上げます。

鏑木 うりこ
恋愛
「アンゼリカ・ザザーラン、お前との婚約を破棄させてもらう!」  ええ、わかっていますとも。私はこの瞬間の為にずっと準備をしてきましたから。  私の婚約者であったマルセル王太子に寄り添う義妹のリルファ。何もかも私が読んでいたざまぁ系小説と一緒ね。  内容を知っている私が、ざまぁしてやる側の姉に転生したって言うことはそう言うことよね?私は小説のアンゼリカほど、気弱でも大人しくもないの。  やるからには徹底的にやらせていただきますわ!  HOT1位、恋愛1位、人気1位ありがとうございます!こんなに高順位は私史上初めてでものすごく光栄です!うわーうわー! 文字数45.000ほどで2021年12月頃の完結済み中編小説となります。  

嫌われ皇后は子供が可愛すぎて皇帝陛下に構っている時間なんてありません。

しあ
恋愛
目が覚めるとお腹が痛い! 声が出せないくらいの激痛。 この痛み、覚えがある…! 「ルビア様、赤ちゃんに酸素を送るためにゆっくり呼吸をしてください!もうすぐですよ!」 やっぱり! 忘れてたけど、お産の痛みだ! だけどどうして…? 私はもう子供が産めないからだだったのに…。 そんなことより、赤ちゃんを無事に産まないと! 指示に従ってやっと生まれた赤ちゃんはすごく可愛い。だけど、どう見ても日本人じゃない。 どうやら私は、わがままで嫌われ者の皇后に憑依転生したようです。だけど、赤ちゃんをお世話するのに忙しいので、構ってもらわなくて結構です。 なのに、どうして私を嫌ってる皇帝が部屋に訪れてくるんですか!?しかも毎回イラッとするとこを言ってくるし…。 本当になんなの!?あなたに構っている時間なんてないんですけど! ※視点がちょくちょく変わります。 ガバガバ設定、なんちゃって知識で書いてます。 エールを送って下さりありがとうございました!

幼馴染みを優先する婚約者にはうんざりだ

クレハ
恋愛
ユウナには婚約者であるジュードがいるが、ジュードはいつも幼馴染みであるアリアを優先している。 体の弱いアリアが体調を崩したからという理由でデートをすっぽかされたことは数えきれない。それに不満を漏らそうものなら逆に怒られるという理不尽さ。 家が決めたこの婚約だったが、結婚してもこんな日常が繰り返されてしまうのかと不安を感じてきた頃、隣国に留学していた兄が帰ってきた。 それによりユウナの運命は変わっていく。

妹に全てを奪われた伯爵令嬢は遠い国で愛を知る

星名柚花
恋愛
魔法が使えない伯爵令嬢セレスティアには美しい双子の妹・イノーラがいる。 国一番の魔力を持つイノーラは我儘な暴君で、セレスティアから婚約者まで奪った。 「もう無理、もう耐えられない!!」 イノーラの結婚式に無理やり参列させられたセレスティアは逃亡を決意。 「セラ」という偽名を使い、遠く離れたロドリー王国で侍女として働き始めた。 そこでセラには唯一無二のとんでもない魔法が使えることが判明する。 猫になる魔法をかけられた女性不信のユリウス。 表情筋が死んでいるユリウスの弟ノエル。 溺愛してくる魔法使いのリュオン。 彼らと共に暮らしながら、幸せに満ちたセラの新しい日々が始まる―― ※他サイトにも投稿しています。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

処理中です...