嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第5章 10 スコット

「ヒルダ様、足元に気を付けてお降りください。」

スコットがヒルダに手を差し伸べて来た。

「ありがとう、スコットさん。それで・・・お願いしたい事があるのだけど・・。」

「はい、何でしょうか？」

「帰り・・・・学校の門の前で待っていてくれないかしら・・？」

ヒルダは真剣な目でスコットを見た。

「え？ええ・・・？馬車は木にでも括り付けておけば問題ありませんが・・・どうされたのですか？ひょっとして足の傷でも痛むのでしょうか？」

スコットは心配そうに尋ねてきた。

「いいえ、そうじゃないの・・。ただ・・もしルドルフが帰りに門の前で待っていたら・・気まずいから・・。」

俯くヒルダにスコットは言った。

「ヒルダ様・・・ひょっとしてルドルフに何か言われたのですか？ヒルダ様を傷付けるような・・・何かをしたのでしょうか？」

その声には怒気が混ざっていた。

「ち、違うわっ！そうじゃないのっ！ルドルフはちっとも悪くないのよっ！あ、あの・・この話は・・帰りにお話しするわ・・・。もう教室に行かないとならないから。」

「あ、そうでしたね。申し訳ございませんでした。ヒルダ様。それでは行ってらっしゃいませ。」

スコットは頭を下げた。

「ええ、行って来るわ。」

ヒルダは杖を突いて、ゆっくりと校舎へ向かって歩いて行った。

「ヒルダ様・・・。」

（一体どうしたというんだろう・・・ヒルダ様とルドルフはあんなにお互いを思いやっていると思っていたのに・・・。）

スコットは溜息をつくと、御者台に乗り込み屋敷へ帰ろうとした時にルドルフが見た事も無い少女と一緒に馬車から降りてくる姿を目撃した。

「あ・・・あれは・・ルドルフじゃないかっ！誰だ・・・？あの少女は・・？」

ルドルフはグレースに腕を組まれている。ルドルフに取ってはグレースの行動は迷惑極まりなかったが、遠目から見たスコットには2人がとても仲の良いカップルに見えてしまった。

「ルドルフ・・・そういう事・・だったのか・・・？」

スコットは呟いた。

（どうする・・・この事・・旦那様に報告しようか・・？いや、その前にまずはヒルダ様から話を聞いてからだ。場合によってはルドルフからも事情を聞いた後に旦那様に報告しようか決めよう。）

そしてスコットは帽子を目深に被ると、屋敷へ向けて馬車を走らせた―。



「おはよう、ヒルダ。」

教室へ入るとシャーリーが元気よく声を掛けてきた。

「おはよう、シャーリー。ところで・・シャーリー。そこの席はグレースさんの席になったんじゃなかったかしら？」

ヒルダは昨日グレースの席になった場所にシャーリーが座っているので尋ねた。

「いいのよ、どうせグレースは謹慎処分を受けて2週間は学校に来れないんだから。その間は私がここに座ったって構わないでしょう？大体元々はこの席は私の席だったんだから。それより昨日あの後は大丈夫だった？相談出来たの？」

「え・・？相談って・？」

「ほら、保健室で包帯を取り換えて貰ってから足の事で先生に相談するって言ってたでしょう？」

シャーリーに言われ、ヒルダは昨日の事を思い出した。

（そうだった・・・！グレースさんに呼び出されていたから・・・咄嗟に保健室に用があるって嘘をついてしまったんだっけ・・。）

「ええ、大丈夫。もし、足の調子が悪い時は保健室にいつでも来るようにって言われたから。」

言いながら、ヒルダは思った。

（後で保健室の先生に会いにいかなくちゃ・・・。）


　
　今日は移動教室が多い日だったが、クラスメイト達が皆ヒルダに気を使ってくれたし、何よりあのグレースがいなかったので快適に過ごす事が出来た。


そして放課後―

「ヒルダ、今日は途中までなら一緒に帰る事が出来るんでしょう？」

鞄を背負ったシャーリーが声を掛けてきた。

「ええ、帰れるわ。」

ヒルダは笑みを浮かべると、杖を突いて立ち上がった。そして2人で校舎を出て門へ近付くとそこには約束通りスコットが待っていた。

「あら・・・？あそこにいる方は誰かしら・・。素敵だわ・・・。」

突然隣を歩いていたシャーリーが頬を染めてポツリと呟いた。

「ああ、彼はね、私の馬車の御者をやってくれている人でスコットさんというのよ。」

「え？ヒルダの御者を務めている方なの？！」

シャーリーは驚いたようにヒルダを見た。

「ね、ねえヒルダ。あの方・・わ、私に紹介してくれないかしら・・？」

シャーリーは顔が真っ赤になっている。

「シャーリー・・・？」



どうやらシャーリーはスコットに一目惚れしてしまったようであった―。