嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第5章 8 ヒルダの苦悩

　夕食の席、父と母は元気のないヒルダが気になり、声を掛けた。

「ヒルダ・・・どうしたのだい？随分元気が無いようだし・・それに殆ど食事に手を付けていないじゃないか。」

「ええ、そうよ。ヒルダ・・・貴女は育ちざかりなのだからもっと沢山食べないと・・・。」

だが、ヒルダは首を振ると言った。

「いいえ・・食欲が無いの・・・。」

すると父が言った。

「何かあったのか？ひょっとしてルドルフと喧嘩でもしたのか？」

するとヒルダはその言葉に反応した。

「お父様・・お母様・・・。ルドルフとの婚約・・・破棄させて下さい。」

ヒルダは顔をあげて父と母の顔を見た。

「な・・・何だって？！いきなり何を言い出すのだっ？！」

「そうよ、ヒルダ。貴女はルドルフの事が好きだったでしょう？」

「いいえ、もう私はルドルフの事が好きではありません。」

しかし、ヒルダの心は今にも張り裂けそうだった。するとその表情にマーガレットは気付いた。

「ヒルダ、そんな話を信じるとでも思ったの？だって貴女・・今にもなきそうな顔をしているじゃないの。」

マーガレットはヒルダの肩を優しく抱くと言った。するとハリスは何を勘違いしたのか憎々し気に言った。

「まさか・・・ルドルフの奴に何かされたのか？くそ・・・っ！折角貴族にしてやったのにその恩を忘れて・・！」

「違いますっ！ルドルフは何も悪くありませんっ！」

ヒルダは必死になって父の怒りを静めた。

（駄目だわ・・・こんなやり方ではルドルフが責められるだけだわ・・。）

「なら・・・何故ルドルフとの婚約を破棄したい等と言ったのだ？」

「そ、それは・・・。」

（言えないわ・・ルドルフには恋人がいるからなんて・・。ああ・・どうすればいいの？どうすれば・・・お父様やお母さまを納得させる事が出来るの・・・？）

俯くヒルダにハリスとマーガレットは言った。

「よしよし・・ヒルダ。久しぶりに学校へ行って疲れたのだろう？だからそんなおかしな事を口走ってしまったのだろう？」

ハリスはヒルダの髪を撫でた。

「ええ、そうね・・・。ヒルダ。無理して食べなくていいわ。もう・・・今夜は部屋に戻って休んだらどう？」

「はい・・・そうします。」

ヒルダは立てかけてあった杖を握りしめると立ち上がり、両親に頭を下げると杖を突いて足を引きずるように歩いて行った―。
その姿はとても痛々しく、両親は娘の後姿に胸を痛めた。

「可哀そうなヒルダ・・・。あんなに可愛らしい姿をしているのに・・・。」

マーガレットは涙ぐみながら言う。

「ああ・・全くだ・・・。それにしても気に食わないのは貴族の連中だ。あいつ等はヒルダはもう3本足になってしまった。二度とダンスも踊れないのでどこも嫁の貰い手が無いだろうとあざ笑っているらしい。」

ハリスは悔しそうに言う。

「貴方っ！何故そこまで言われているのをご存知なら、ルドルフとヒルダが婚約している事をその方々に伝えなかったのですか？」

「マーガレット。お前は・・・本当にルドルフがヒルダの婚約者でいいと思っているのか？彼はあくまで仮の婚約者なのだぞ？」

「え・・・？まだそのような事を仰っているのですか・・？」

「ああ、当然だろう？何か問題が起こっては困るからな・・・それに早速問題が出てしまったじゃないか・・・。いきなりルドルフと婚約を解消して欲しい等と言って・・・。」

「でも・・・あの台詞は本心ではありませんよ？見ましたでしょう？あの子の・・今にも泣きそうな顔を・・・・。」

「ああ、見た。一体何があったと言うのだろう・・・。」

父と母は溜息をついた。

2人はまだ知らない。ヒルダの心の苦悩を―。