上 下
6 / 566

第1章 6 突然の縁談話

しおりを挟む
 額に触れたのはほんの一瞬だった。すぐにルドルフの唇は離れて行った。

「あ、あ、あの・・・ルドルフ・・・?」

真っ赤になって自分の手で額に触れるヒルダにルドルフは天使のような笑みを浮かべた。

「ヒルダ様、朝は会えないかもしれませんが・・これからは放課後は時々こちらにまた手伝いに来る事になったんです。またヒルダ様にお会い出来るようになりました。時々・・ここで会いませんか?もっとヒルダ様の事を教えて下さい。」

「え・・ええ。わ、私なんかでよければ・・・。」

ヒルダは顔を真っ赤にして俯いた。その時、強い風が吹いてヒルダの金の髪が舞い上がり、ルドルフの手に触れた。するとルドルフはその髪をすくいあげ、匂いを嗅ぐと言った。

「・・・ヒルダ様の髪は・・・バラのような香りがしますね。」

「え・・・?」

次の瞬間、ルドルフはヒルダの髪を離すと言った。

「それではヒルダ様、又今度会いましょう!」

ルドルフは手を振ると、その場を走り去って行った。

「ルドルフ・・。」

ヒルダは顔を真っ赤にしながら、走り去るルドルフの後姿をいつまでも見つめていた。


 その夜の事―

両親とヒルダの3人揃っての夕食の席での事・・・。

「ヒルダ。ここ最近ずっと元気が無かったようだけど、今夜はいつになく楽しそうだな?何かあったのか?」

ヒルダの父であり、この土地の領主であるハリス・フィールズが尋ねて来た。彼もまたヒルダと同様に金の髪を持ち、とても美しい外見をしている。

「ええ、そうね。ヒルダ。私にも教えて頂戴?何があったのかしら?」

優し気に語りかけて来る母、マーガレットもやはり金の髪の持ち主だ。

「あ、あのね・・・実は久しぶりにルドルフに会えたの・・・それが嬉しくて・・・。」

フォークに刺したチキンを皿の上に置くとヒルダは顔を真っ赤に染めて俯きながら言う。

「ルドルフ・・・誰だろう?」

「そうですね・・私も聞いた事が無い名前だわ・・どこの令息かしら?」

父のハリスも、母のマーガレットも首を捻る。

「あのね、ルドルフは厩舎で働くマルコさんの子供なの。」

ヒルダが説明すると、父と母の顔が険しくなる。

「何・・?厩舎で働く男の息子・・つまり平民ていう事なのか?」

「え・・ええ・そうだけど・・・?」

ハリスの雰囲気が変わったので、助けを求める為にヒルダはマーガレットの顔を見たが、彼女は悲しそうにヒルダの顔を見つめている。

「ヒルダ、よく聞きなさい。お前は貴族なのだ。貴族は貴族同士で交流する。平民と関わっては駄目だ。」

父ハリスはいつになく厳しい表情でヒルダを見る。

「何故ですか?ルドルフは勉強が凄く良く出来るし、優しくてとても素敵な男の子なのよ?」

しかし、父は深いため息をつくと言った。

「ヒルダ・・・ルドルフとか言う少年の話はもうやめなさい。それよりもヒルダ。お前に縁談の話が出ているんだ。以前開かれたダンスパーティーに参加された令息達で3人から申し込まれてるんだよ。写真があるから後で目を通しておきなさい。彼等はお前の美しい容姿に恋をしてしまったらしい。決定権はヒルダ、お前にあるからな?」

「決定権があるなら・・・それならこのお話、お断りいたします!わ、私が好きなのは・・ルドルフなんです!」

ヒルダは目に涙を浮かべると、食卓を立ち上がり、両親が止めるのも聞かずに部屋を飛び出して行った。
そして自分の部屋に入ると鍵を掛けてベッドへ飛び込むと枕に顔を埋めて泣き続けるのだった—。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者とヒロインが悪役令嬢を推しにした結果、別の令嬢に悪役フラグが立っちゃってごめん!

行枝ローザ
恋愛
身に覚えのない罪で婚約破棄のはずが、何故かヒロインを立派な令嬢にするために引き取ることになってしまった! 結果によってはやっぱり婚約破棄? 血の繋がりがない婚約者と子爵令嬢が兄妹?いったいどういう意味? 虐められていたのは本当?黒幕は別?混乱する公爵令嬢を転生兄妹が守り抜いたら、別の公爵令嬢に悪役フラグが立った!

モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな
恋愛
 前世で大好きだった乙女ゲームの世界にモブキャラとして転生した伯爵令嬢のアスチルゼフィラ・ピスケリー。 ヒロインでも悪役令嬢でもないモブキャラだからこそ、推しキャラ達の恋物語を遠くから鑑賞出来る! と楽しみにしていたら、関わりたくないのに何故か悪役令嬢の兄である騎士見習いがやたらと絡んでくる……。 いやいや、物語の当事者になんてなりたくないんです! お願いだから近付かないでぇ!  そんな思いも虚しく愛しの推しは全力でわたしを口説いてくる。おまけにキラキラ王子まで絡んで来て……逃げ場を塞がれてしまったようです。 結構、ところどころでイチャラブしております。 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆  前作「完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい」のスピンオフ作品。 この作品だけでもちゃんと楽しんで頂けます。  番外編集もUPしましたので、宜しければご覧下さい。 「小説家になろう」でも公開しています。

【完結】あなたを忘れたい

やまぐちこはる
恋愛
子爵令嬢ナミリアは愛し合う婚約者ディルーストと結婚する日を待ち侘びていた。 そんな時、不幸が訪れる。 ■□■ 【毎日更新】毎日8時と18時更新です。 【完結保証】最終話まで書き終えています。 最後までお付き合い頂けたらうれしいです(_ _)

あなたに愛や恋は求めません

灰銀猫
恋愛
婚約者と姉が自分に隠れて逢瀬を繰り返していると気付いたイルーゼ。 婚約者を諫めるも聞く耳を持たず、父に訴えても聞き流されるばかり。 このままでは不実な婚約者と結婚させられ、最悪姉に操を捧げると言い出しかねない。 婚約者を見限った彼女は、二人の逢瀬を両親に突きつける。 貴族なら愛や恋よりも義務を優先すべきと考える主人公が、自分の場所を求めて奮闘する話です。 R15は保険、タグは追加する可能性があります。 ふんわり設定のご都合主義の話なので、広いお心でお読みください。 24.3.1 女性向けHOTランキングで1位になりました。ありがとうございます。

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

兄を溺愛する母に捨てられたので私は家族を捨てる事にします!

ユウ
恋愛
幼い頃から兄を溺愛する母。 自由奔放で独身貴族を貫いていた兄がようやく結婚を決めた。 しかし、兄の結婚で全てが崩壊する事になった。 「今すぐこの邸から出て行ってくれる?遺産相続も放棄して」 「は?」 母の我儘に振り回され同居し世話をして来たのに理不尽な理由で邸から追い出されることになったマリーは自分勝手な母に愛想が尽きた。 「もう縁を切ろう」 「マリー」 家族は夫だけだと思い領地を離れることにしたそんな中。 義母から同居を願い出られることになり、マリー達は義母の元に身を寄せることになった。 対するマリーの母は念願の新生活と思いきや、思ったように進まず新たな嫁はびっくり箱のような人物で生活にも支障が起きた事でマリーを呼び戻そうとするも。 「無理ですわ。王都から領地まで遠すぎます」 都合の良い時だけ利用する母に愛情はない。 「お兄様にお任せします」 実母よりも大事にしてくれる義母と夫を優先しすることにしたのだった。

今日、大好きな婚約者の心を奪われます 【完結済み】

皇 翼
恋愛
昔から、自分や自分の周りについての未来を視てしまう公爵令嬢である少女・ヴィオレッタ。 彼女はある日、ウィステリア王国の第一王子にして大好きな婚約者であるアシュレイが隣国の王女に恋に落ちるという未来を視てしまう。 その日から少女は変わることを決意した。将来、大好きな彼の邪魔をしてしまう位なら、潔く身を引ける女性になろうと。 なろうで投稿している方に話が追いついたら、投稿頻度は下がります。 プロローグはヴィオレッタ視点、act.1は三人称、act.2はアシュレイ視点、act.3はヴィオレッタ視点となります。 繋がりのある作品:「先読みの姫巫女ですが、力を失ったので職を辞したいと思います」 URL:https://www.alphapolis.co.jp/novel/496593841/690369074

公爵令嬢を虐げた自称ヒロインの末路

八代奏多
恋愛
 公爵令嬢のレシアはヒロインを自称する伯爵令嬢のセラフィから毎日のように嫌がらせを受けていた。  王子殿下の婚約者はレシアではなく私が相応しいとセラフィは言うが……  ……そんなこと、絶対にさせませんわよ?

処理中です...