上 下
5 / 17

第5話

しおりを挟む
 翌日の朝食も、昨日同様豪華だった。

食事をしながら、昨夜のメリンダとのデートを思い出す。
昨夜はエリザベスも不在と言うことで、少々羽目を外してしまった。だが……非常に良い時間を過ごすことが出来た。

つい、口元に笑みが浮かんだそのとき。

「カール様、随分今朝はご機嫌のようでいらっしゃいますね?」

給仕をしていたフットマンが声をかけてきた。

「そうか? 分かるか?」

自分の心の内を察して貰えたことが嬉しく、返事をした。

「ええ。見れば分かります。奥様が不在で、さぞかし寂しい思いをされているかと思っていたのですが……その心配は稀有だったようですね」

その言葉に、フォークを持つ手がピタリと止まってしまう。

何だと……?

まさか、こいつは俺をハメる為にわざとそんな言い方をしたのか?
思わず睨みつけたくなるのを必死で抑える。

「それは、確かに心配だ。だが、4日もあれば足の怪我は治るのだろう? エリザベスだって久々に両親と会えている。きっと、今頃は親子水入らずの楽しい時間を過ごしているのではないか? 大体、俺が笑顔だったのは昨夜は商談がうまくいったからだ。ただそれだけのことだ」

そう、昨夜のメリンダとのデートは最高だった。

「なるほど、それほどまでに商談がうまくいかれたのですね? カール様は本当に仕事熱心なお方で、尊敬するばかりです。私も見習わなければなりませんね」

「そ、そうだな。頑張ってくれ」

ニコニコと俺に笑顔で語りかけてくるフットマン。
うん、きっと気のせいだろう。彼の言葉の節々にどこか嫌味を感じるのは……。

早く、食事を終えて出社したほうが良さそうだ。

今日は食後のコーヒーはやめておこう……そう思いながら、食事をすすめた――



――朝食後

「では、出かけてくる」

フットマンからカバンを受取り、馬車に乗り込もうとした時。

「お待ち下さい、カール様」

珍しいことに執事が現れた。
今まで俺が仕事に出かける時、見送りをしたことが無かった彼が一体何の用だ?

「どうかしたのか?」

「はい、本日のお帰りは何時頃になられますか?」

「そうだな……18時半には帰ってこれるので、その時間に合わせて夕食を用意しておいてくれるか? 勿論肉料理を中心にだ。後はそうだな……食前酒も欲しいな」

「……」

すると何故か執事は目を見開き、まるで穴が開かんばかりに俺をじっと見つめてくる。
その眼差しが何となく不気味だ。

「な、何だ? 言いたいことがあるなら言ってみろ。俺はただお前の質問に答えただけだろう? なのに何故、そんなに見つめてくる?」

男にじっと見られるのは……ましてや、何を考えているかわからない相手に見つめられるのは息が詰まりそうだ。

「いえ、何でもございません。では19時前には、お夕食を出せるように手配しておきます。それでは行ってらっしゃいませ」

「ああ、行ってくる」

まるで飛び乗るように馬車に乗り込むと、執事が扉を締める為に馬車へ近づいてきて声をかけてきた。

「カール様」

「な、何だ?」

「お気をつけてどうぞ」

執事は口元だけ笑みを浮かべると扉を閉め……馬車はガラガラと音を立てて走り始めた。

「ふぅ~……一体何だって言うんだ? くそっ! いつもなら俺の見送りになど出てこないくせに……本当に不気味な男だ。全く……執事のせいで、嫌な汗をかいてしまったじゃないか」

馬車の背もたれによりかかると、ためいきをついた。

……この時は執事の言葉の意味を、全く理解していなかったのだ。

それが後に俺の失態を招く要因の一つになるということを――

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

愛する貴方の愛する彼女の愛する人から愛されています

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「ユスティーナ様、ごめんなさい。今日はレナードとお茶をしたい気分だからお借りしますね」 先に彼とお茶の約束していたのは私なのに……。 「ジュディットがどうしても二人きりが良いと聞かなくてな」「すまない」貴方はそう言って、婚約者の私ではなく、何時も彼女を優先させる。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 公爵令嬢のユスティーナには愛する婚約者の第二王子であるレナードがいる。 だがレナードには、恋慕する女性がいた。その女性は侯爵令嬢のジュディット。絶世の美女と呼ばれている彼女は、彼の兄である王太子のヴォルフラムの婚約者だった。 そんなジュディットは、事ある事にレナードの元を訪れてはユスティーナとレナードとの仲を邪魔してくる。だがレナードは彼女を諌めるどころか、彼女を庇い彼女を何時も優先させる。例えユスティーナがレナードと先に約束をしていたとしても、ジュディットが一言言えば彼は彼女の言いなりだ。だがそんなジュディットは、実は自分の婚約者のヴォルフラムにぞっこんだった。だがしかし、ヴォルフラムはジュディットに全く関心がないようで、相手にされていない。どうやらヴォルフラムにも別に想う女性がいるようで……。

愛されたのは私の妹

杉本凪咲
恋愛
そうですか、離婚ですか。 そんなに妹のことが大好きなんですね。

愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす

リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」  夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。  後に夫から聞かされた衝撃の事実。  アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。 ※シリアスです。 ※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。

旦那様は妻の私より幼馴染の方が大切なようです

雨野六月(まるめろ)
恋愛
「彼女はアンジェラ、私にとっては妹のようなものなんだ。妻となる君もどうか彼女と仲良くしてほしい」 セシリアが嫁いだ先には夫ラルフの「大切な幼馴染」アンジェラが同居していた。アンジェラは義母の友人の娘であり、身寄りがないため幼いころから侯爵邸に同居しているのだという。 ラルフは何かにつけてセシリアよりもアンジェラを優先し、少しでも不満を漏らすと我が儘な女だと責め立てる。 ついに我慢の限界をおぼえたセシリアは、ある行動に出る。 (※4月に投稿した同タイトル作品の長編版になります。序盤の展開は短編版とあまり変わりませんが、途中からの展開が大きく異なります)

【完結】もうやめましょう。あなたが愛しているのはその人です

堀 和三盆
恋愛
「それじゃあ、ちょっと番に会いに行ってくるから。ええと帰りは……7日後、かな…」  申し訳なさそうに眉を下げながら。  でも、どこかいそいそと浮足立った様子でそう言ってくる夫に対し、 「行ってらっしゃい、気を付けて。番さんによろしくね!」  別にどうってことがないような顔をして。そんな夫を元気に送り出すアナリーズ。  獣人であるアナリーズの夫――ジョイが魂の伴侶とも言える番に出会ってしまった以上、この先もアナリーズと夫婦関係を続けるためには、彼がある程度の時間を番の女性と共に過ごす必要があるのだ。 『別に性的な接触は必要ないし、獣人としての本能を抑えるために、番と二人で一定時間楽しく過ごすだけ』 『だから浮気とは違うし、この先も夫婦としてやっていくためにはどうしても必要なこと』  ――そんな説明を受けてからもうずいぶんと経つ。  だから夫のジョイは一カ月に一度、仕事ついでに番の女性と会うために出かけるのだ……妻であるアナリーズをこの家に残して。  夫であるジョイを愛しているから。  必ず自分の元へと帰ってきて欲しいから。  アナリーズはそれを受け入れて、今日も番の元へと向かう夫を送り出す。  顔には飛び切りの笑顔を張り付けて。  夫の背中を見送る度に、自分の内側がズタズタに引き裂かれていく痛みには気付かぬふりをして――――――。 

夫を愛することはやめました。

杉本凪咲
恋愛
私はただ夫に好かれたかった。毎日多くの時間をかけて丹念に化粧を施し、豊富な教養も身につけた。しかし夫は私を愛することはなく、別の女性へと愛を向けた。夫と彼女の不倫現場を目撃した時、私は強いショックを受けて、自分が隣国の王女であった時の記憶が蘇る。それを知った夫は手のひらを返したように愛を囁くが、もう既に彼への愛は尽きていた。

夫から国外追放を言い渡されました

杉本凪咲
恋愛
夫は冷淡に私を国外追放に処した。 どうやら、私が使用人をいじめたことが原因らしい。 抵抗虚しく兵士によって連れていかれてしまう私。 そんな私に、被害者である使用人は笑いかけていた……

処理中です...