記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした

第116話 夢の世界に囚われて

「キャアッ！で…ムゴッ！」　

「こら、騒ぐなっ！」

突如現れた青年に私は口を塞がれた。

「いいか？静かにするんだ？分かったか？」

思い切り口を塞がれた私はコクコクと無言でうなずく。

「よし…分かったならいい」

青年は私から手を離すとため息をついた。

「あ、貴方…さっきの男の人じゃないの…？」

私は青年を見ると尋ねた。

「いや、そっくりに見えるかもしれないが…別人だよ」

青年はそう言うと隣の席に座ってきた。確かによく見ると着ている服が違う。先程の人物は濃紺のジャケット・スーツにYシャツ姿だったが、今目の前にいる彼はジーンズ姿にデニムジャケット姿だった。中にはパーカーを着ている。

「あの…それでどちら様でしょうか？」

改めて青年に尋ねる。

「参ったな…俺の姿を見てもまだ何も思い出せないのか？ユリア」

「だから、私の名前はそんな外国人的な名前じゃなくて、『紺野美咲』って名前です。ちなみに年齢25歳です」

「だから、それは前世のお前だって…。いいか？今のお前はユリア・アルフォンス。そして俺はお前の護衛騎士のセラフィムだ。さっきお前を追いかけていたのは命を狙っているオルニアス。お前は催眠暗示で池に落とされ、未だに目が覚めずにいる。ここはお前の前世の世界なんだ。あいつはお前を夢から目覚めさせずにこのまま衰弱死させようとしている」

「…」

私は黙って話を聞いていたが…。

「またまた冗談ばっかり～…そんな物語みたいな作り話、信じられるはずないでしょう？」

「しっかりしろっ！ユリアッ！前世の記憶を取り戻したら、今度は今世の記憶を失ってしまったのか？！このまま夢の世界に飲まれて死んでもいいのか？！」

セラフィムと名乗る青年は私の両肩を掴むと揺さぶった。

「本当に…？本当にここは夢の世界なの…？」

「ああ、そうだ。この世界ではユリアは友人も大勢いたし、毎日充実した生活を送っていたんだろう？」

「あ…」

そう言えばそうだった。仕事は楽しかったし、友人も大勢いた。毎日が充実して楽しかった…はずだけど…何かが引っかかる。

「だけど、この世界のお前はもう死んでいる。そして生まれ変わったのが今のお前…ユリア・アルフォンスだ」

「え…？」

その時、私は見た。ガラス窓に映り込む自分の姿を。そこに映るのは今の自分とは似ても似つかない…ストロベリーブロンドの髪の女性だった。

「だ、誰…？」

声を震わせて窓ガラスに思わず触れる。その時、セラフィムが苦しげに言った。

「ま、まずい…！奴の干渉が…！」

「え？セラフィム？」

見ると、セラフィムの身体が一瞬でかき消えてしまった。

「キャアアッ！！」

人が一瞬で目の前から消え失せ、悲鳴を上げたその時―。


「あら、偶然ね。美咲じゃないの！」

「え？」

振り向くとそこは良く見知った人物が立っていた―。