62 / 126
第62話 父と娘
しおりを挟む
着がえを済ませ、ソファで私は考え事をしていた。
「おかしい…。何かがおかしいわ…」
何がおかしいと聞かれてもうまく答えられないけれども、私の傍には常に誰かがいたような気がする。その誰かとは…一緒にいても、決して心が安らぐことが無く…近くにいれば苛立ちが募る、そんな人物だ。けれどもその反面、私はその誰かに頼り切っていた気がする…。
「う~…思い出せないって事はこんなに苛立つものなのね…」
クッションを抱えながら呟いたその時―。
「ユリア、入ってもいいか?」
ノックの音と共に、父の声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、父が部屋の中へ入って来た。
「何だ…?起きていたのか?もう身体は大丈夫なのか?」
父が尋ねて来る。…相変わらずまるで他人にしか思えない父に私は立ち上がると挨拶した。
「お父様、ご心配おかけいたしまして申し訳ございませんでした」
そして頭を下げる。
「いや…心配したのは確かだが…兎に角座って話をしよう」
父が向かい側のソファに座ったので、私も再び着席した。
「しかし、それにしてもよく無事だったな。もう一歩馬車が止るのが遅ければ、危うく崖下へ転落するところだったそうじゃないか」
「え、ええ…そのようですね」
しかし、その辺りの事は何一つ記憶にないので私には何とも答えようが無かった。
「…」
そんな様子の私を父は暫く無言で見つめていたが…やがて言った。
「馬車には細工がしてあったそうだ。車輪は外れやすく、扉は開きやすく加工されていたらしい。それに…肝心の御者の姿はまだ見つかっていないが、人相書きを見た処、この屋敷の御者では無かった。今行方を追っているが…見つけられない可能性がある」
「そうですか…」
やっぱり私は命を狙われていたのか…。
「すまなかった」
突然父が頭を下げて来た。
「え?お…父様?」
「お前が命を狙われているので護衛騎士を付けて欲しいと言ってきた時…ちゃんと信じて護衛を付けてやればよかったと反省している。またいつもの我々の関心を買う為の戯言だろうと決めつけてかかっていたのだ。あの時、お前を信じてやれば…そうしたらお前は馬車の事故に遭う事も無かったと言うのに…本当にすまなかった」
え…?父は一体何を言っているのだろう?
「何をおっしゃっているのですか?お父様は私の為に護衛騎士をつけて下さったではありませんか。現にその方がいたからこそ、私は馬車事故に遭っても命が助か…」
そこまで言いかけて私は息を飲んだ。今…自分で何を言いかけたのだろう?
「どうした?まだ具合が悪いのか?それに私はお前に護衛騎士等付けた覚えはないぞ?尤も…馬車事故に巻き込まれ、昏睡状態になってからは交代で外に見張りをつけ、お前のベッドはマジックシールドで防御をかけていたがな」
「護衛騎士を付けたことは…無い…?」
そんな…でもあの時、誰かに名前を呼ばれた気がする。
< ユリアッ!! >
その後、腕を掴まれて…誰かに抱きかかえられた記憶があるのに…?
私がぼんやりしていたからだろう。父が声を掛けて来た。
「兎に角…まだ休んでいた方がよいだろう。学園も数日休んで構わないぞ。こちらから連絡を入れておくので」
「はい、ありがとうございます」
すると父は立ち上がった。
「それでは私は仕事の続きがあるので執務室に戻るが…何か不自由な事があったら遠慮せずに呼び鈴を鳴らすのだぞ?」
「分りました。…お気遣い、ありがとうございます」
笑みを浮かべて父を見上げる。
「…」
すると父は不思議そうな顔で私を見た。
「あの…?どうかさないましたか?」
「あ、いや…随分雰囲気が変わったなと思っただけだ。それではな」
そして今度こそ、父は部屋を出て行った―。
「おかしい…。何かがおかしいわ…」
何がおかしいと聞かれてもうまく答えられないけれども、私の傍には常に誰かがいたような気がする。その誰かとは…一緒にいても、決して心が安らぐことが無く…近くにいれば苛立ちが募る、そんな人物だ。けれどもその反面、私はその誰かに頼り切っていた気がする…。
「う~…思い出せないって事はこんなに苛立つものなのね…」
クッションを抱えながら呟いたその時―。
「ユリア、入ってもいいか?」
ノックの音と共に、父の声が聞こえた。
「はい、どうぞ」
すると扉が開かれ、父が部屋の中へ入って来た。
「何だ…?起きていたのか?もう身体は大丈夫なのか?」
父が尋ねて来る。…相変わらずまるで他人にしか思えない父に私は立ち上がると挨拶した。
「お父様、ご心配おかけいたしまして申し訳ございませんでした」
そして頭を下げる。
「いや…心配したのは確かだが…兎に角座って話をしよう」
父が向かい側のソファに座ったので、私も再び着席した。
「しかし、それにしてもよく無事だったな。もう一歩馬車が止るのが遅ければ、危うく崖下へ転落するところだったそうじゃないか」
「え、ええ…そのようですね」
しかし、その辺りの事は何一つ記憶にないので私には何とも答えようが無かった。
「…」
そんな様子の私を父は暫く無言で見つめていたが…やがて言った。
「馬車には細工がしてあったそうだ。車輪は外れやすく、扉は開きやすく加工されていたらしい。それに…肝心の御者の姿はまだ見つかっていないが、人相書きを見た処、この屋敷の御者では無かった。今行方を追っているが…見つけられない可能性がある」
「そうですか…」
やっぱり私は命を狙われていたのか…。
「すまなかった」
突然父が頭を下げて来た。
「え?お…父様?」
「お前が命を狙われているので護衛騎士を付けて欲しいと言ってきた時…ちゃんと信じて護衛を付けてやればよかったと反省している。またいつもの我々の関心を買う為の戯言だろうと決めつけてかかっていたのだ。あの時、お前を信じてやれば…そうしたらお前は馬車の事故に遭う事も無かったと言うのに…本当にすまなかった」
え…?父は一体何を言っているのだろう?
「何をおっしゃっているのですか?お父様は私の為に護衛騎士をつけて下さったではありませんか。現にその方がいたからこそ、私は馬車事故に遭っても命が助か…」
そこまで言いかけて私は息を飲んだ。今…自分で何を言いかけたのだろう?
「どうした?まだ具合が悪いのか?それに私はお前に護衛騎士等付けた覚えはないぞ?尤も…馬車事故に巻き込まれ、昏睡状態になってからは交代で外に見張りをつけ、お前のベッドはマジックシールドで防御をかけていたがな」
「護衛騎士を付けたことは…無い…?」
そんな…でもあの時、誰かに名前を呼ばれた気がする。
< ユリアッ!! >
その後、腕を掴まれて…誰かに抱きかかえられた記憶があるのに…?
私がぼんやりしていたからだろう。父が声を掛けて来た。
「兎に角…まだ休んでいた方がよいだろう。学園も数日休んで構わないぞ。こちらから連絡を入れておくので」
「はい、ありがとうございます」
すると父は立ち上がった。
「それでは私は仕事の続きがあるので執務室に戻るが…何か不自由な事があったら遠慮せずに呼び鈴を鳴らすのだぞ?」
「分りました。…お気遣い、ありがとうございます」
笑みを浮かべて父を見上げる。
「…」
すると父は不思議そうな顔で私を見た。
「あの…?どうかさないましたか?」
「あ、いや…随分雰囲気が変わったなと思っただけだ。それではな」
そして今度こそ、父は部屋を出て行った―。
35
お気に入りに追加
2,841
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
不遇な王妃は国王の愛を望まない
ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨
〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。
※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜
結城芙由奈@12/27電子書籍配信中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】
白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語
※他サイトでも投稿中
【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。
112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。
愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。
実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。
アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。
「私に娼館を紹介してください」
娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──
私の愛した婚約者は死にました〜過去は捨てましたので自由に生きます〜
みおな
恋愛
大好きだった人。
一目惚れだった。だから、あの人が婚約者になって、本当に嬉しかった。
なのに、私の友人と愛を交わしていたなんて。
もう誰も信じられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる