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第53話 そんな記憶、あるはずない

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「遅かったな」

本鈴がなるギリギリ前に教室に入り、席についた私にジョンが話しかけてきた。

「ええ。理事長室の行き帰りにちょっとした出来事があったから…」

するとジョンが目の色を変えて質問してきた。

「何だって?一体どんな嫌がらせにあったんだ?誰かに罵声を浴びせられたか?それとも平手打ちでもされたのか?ハッ!も、もしや…反省文とレポート用紙を取り上げられ、破り捨てられでもされたのかっ?!」

ジョンが私の肩を掴んでユサユサ揺すぶる。…揺さぶられながら私はじっとジョンの目を見た。気のせいだろうか…?ジョンの目が笑っているように見えるのは…?

「おい、黙っていないで早く答えるんだっ!」

ジョンの私を揺さぶるスピードがあがる。これでは流石にたまらない。

「ちょ、ちょっと待ってよ!何で全て私が嫌がらせを受けた妄想しか思い浮かばないのよ」

するとそこでピタリと私を揺さぶるジョンの動きが止まる。

「何?それじゃ…誰かに嫌がらせを受けたわけではないのだな?」

「ええ、まぁそう言う事ね」

何だ、目が笑っていると思ったのは気の所為か。ジョンはやはり私を心配してくれていたのだ。しかし…。

「つまりレポート用紙と反省文は無事だったと…?」

「え?ええ…無事だったわよ?」

うん?何故それを聞く?

「そ、そうなのか?良かった…なら反省文とレポートを無事に理事長に届けられたということだな?それなら退学もきっと免れるだろう…ふぅ…良かった…」

安堵のため息をつくジョン。つまり、ジョンが心配していたのは私のことではなく、私が書いたレポート用紙と反省文が無事に理事長に届けられたかどうかを心配していたのだ。しかし、これはあまりに酷い。一応ジョンは私の護衛騎士のはずなのに、どうも自分の学費の心配しかしていないように思える。

「あのねぇ、ジョン…」

キーンコーンカーンコーン

一言文句を言ってやろうかと口を開いた時に本鈴の鐘が鳴り響き、男性教師が教室に入ってきた。するとジョンが言う。

「おっと、話なら後で聞く。1時限目は数学の小テストだからな、試験に集中する為に授業が終わるまでは静かにしていてくれ」

「え…?小テスト…?数学の…?」

一瞬で頭の中が真っ白になる。

「ああ、そうだ。先週の授業で来週は小テストを実施すると言っていただろう。」

何それ。先週の記憶なんかあるはず無い。何しろ私は3日前から完全な記憶喪失なのだから。

「ちょ、ちょっと待ってよ!だったらどうして昨日のうちに数学の小テストがあると言ってくれなかったの?分かっていたらこっちの勉強をしていたのに!」

言ってる側から教師がテスト用紙を一番前の席の学生たちの上に並べていく。

「そんなの決まっているだろう?ユリアには魔法学の課題があったのだから。そっちを優先しないでどうする?何しろ退学がかかっていたのだからな?とりあえずもうこれ以上は私語厳禁だ。カンニングとみなされたらどうする」

そしてそれきりジョンは前を向いてしまった。

な、な、なんですって~っ!!大体、最初の話では提出は3日後だったはず。なのにジョンの口車?に乗せられて、たった1日でレポートと反省文を書かされてしまった。今日が数学の小テストであったにも関わらず…。
そして、ついに小テストが私の机に回ってきた。テスト内容を見て、私の目が点になる。

ジョ、ジョンの…アホーッ!!

私が心の中で絶叫したのは言うまでもなかったー。
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