記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

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第49話 腰ぎんちゃくマテオ

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「あの~…」

私は前を歩く青年に声を掛けた。

「何だ?」

立ち止まることもなく返事をする黒髪青年。

「いえ、貴方のお名前は何だったかな~と思いまして…」

すると…。

「はぁ?」

露骨に呆れられた顔で私を振り返った。

「…本気で言っているのか?」

その顔は…眉間にシワが寄り、酷く機嫌が悪そうに見える。あ…まずい。余計なこと聞かなければ良かった。

「ごめんなさい、今のは聞かなかったことにして下さい」

たじろぎながらも謝罪する。

「誰が謝れと言った?そんな事より、本当に俺の名前を知らないのか?」

「…」

はい、知りません。そう伝えられればどんなにいいか…。しかし、黒髪青年は全身から怒り?のオーラを吹き出している。正直に言えばジョンの様に魔法をぶっ放されてしまうかもしれない。

「おい、黙っていないで答えろ」

ついに黒髪青年は立ち止まると腕を組んで仁王立ちになってしまった。

「ご、ご、ごめんなさい…。実はここ最近記憶喪失になってしまって…」

下手な嘘をついてバレた時の方が、怖いので私は正直に言うことにした。

「は?記憶喪失?嘘を言うな」

「いやいや、嘘なんか付いていませんってば」

すると何故か黒髪青年はズイッと一歩近付いてくると私を上から下までジロジロ見渡すと言った。

「…確かに雰囲気は変わったようだが…?化粧もしていないし、きつい香水の匂いもしないしな…。でもどうせベルナルド王子の気を引く為だろう?」

「え?何を言ってるのですか?私とベルナルド王子は昨日婚約解消が決定したのですよ?」

「な、何だってっ?!そんな話は初耳だぞっ?!」

大袈裟なくらいに驚く黒髪青年。

「それは知らなくても当然かも知れませんね。実は昨日、ベルナルド王子が訪ねてきたのですよ。その際に早急に婚約破棄をして貰えるようにお願いしたのです。ベルナルド王子も私と婚約破棄したがっていたので、きっともう手続きが済んでいますよ」

私自身、あんな俺様暴君が婚約者なんてお断りでせいせいする。思わず顔に笑みが浮かぶ。

「何だ?随分嬉しそうだな?」

「ええ、それは嬉しいですよ。だってお互い望まぬ婚約…」

そこまで言いかけて、何やら恐ろしい殺気を感じた。そして黒髪青年まで顔色が真っ青になっている。

「おい…マテオ。お前、一体ユリアと何を話していたのだ…?」

そ、その声は…。恐る恐る振り返ると、そこにはベルナルド王子が立っていた。

「あ、お・おはようございます。ベルナルド王子」

何故そこまで殺気をまとってこちらを睨みつけているのだろう?
しかし…。

「おはよう、ユリア」

何故かベルナルド王子は口元に若干の笑みを浮かべながら私に返事をした。

え…?何故笑みを?しかし、次の瞬間私は悟った。そうか、きっと私達の婚約が破棄されたから嬉しくて笑みを浮かべたに違いない。そこで私は言った。

「その様子だと国王陛下から私との婚約破棄が認められたのですね?良かったです」

「何?良かった…だと…?」

すると何故か今度は突然不機嫌な様子で私を睨みつけてきた。

「え?ええ。だって…ベルナルド王子は私の事…嫌っていましたよね?」

一歩後ずさりながらベルナルド王子に尋ねる。すると…。

「ゴホンッ!!」

ベルナルド王子は大きく咳払いすると、マテオと呼んだ青年を見た。

「おい…マテオ。ユリアと何処に行くつもりだったのだ?」

「え…?お、俺は理事長室に用事があると言ったユリア嬢の案内を…」

若干引き気味に説明するマテオ。

ん…?ユリア嬢…?

この人は先程まで私のことを呼び捨てにしていたのに…?

「理事長室なら俺が案内する。お前はもう教室に戻っていろ」

なんと、ベルナルド王子はマテオに向かってシッシッとまるで犬を手で追い払うような仕草をした―。





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