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第16話 悪意の目

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「ごめん。君達には悪いけど、俺は彼女に案内を頼むことにしたよ。それじゃ早速行こうかい?ユリア」

「え?私?!」

何故かジョンは私に声を掛けて来た。そ、そんな…。折角この居心地の悪い空間から解放されると思っていたのに…。

「い、いえ。あの私は…」

するとジョンが言った。

「つれないなぁ…俺達、今朝一緒に学校へ馬車で来た仲じゃないか?」

「ヒッ!」

明らかに好意を寄せる女生徒達の前でジョンはとんでもない事を言って来た。

「まぁ!ユリア様と一緒にですかっ?!」
「一体それはどういう事ですのっ?!」
「教えて下さいませっ!」
「大体ユリア様は王子様の婚約者ではありませんか?」
「それなのに別の殿方と同じ馬車に乗るなんて…!」

彼女達は私の方をチラチラと見ながらジョンに詰め寄っている。それにしても…。私はある違和感を感じていた。確か私は公爵令嬢で、この学園に通う王子様の次に爵位が高いはず。普通、こういう場合…爵位が私より低い彼女たちは私の事を時折睨みながらこんな台詞を言えるのだろうか…?
すると、ジョンもその事に気付いたのだろう。彼女達に言った。

「ねぇ、君達…」

「はい、何でしょうか?スミス様!」

リーダと思われる金髪の長い髪の女生徒が頬を赤らめて返事をする。

「君達の爵位は何だい?」

いきなりその女生徒を指さした。

「え?あ、あの、私は…」

恐らく今まで人に指など差された事は無いのだろう。焦りの表情を浮かべながら彼女はジョンを見つめている。

「どうしたんだい?俺は君に尋ねているんだけど?」

「あ…わ、私は…侯爵家の一人娘の…マリーベルですわ…」

マリーベル?は名前を聞かれてもいないのに、ちゃっかり自分の名前を言いつつ爵位を告げる。

「ふ~ん…君は侯爵家か…?それじゃそこの君は?」

続けてジョンはマリーベルの隣に立つ女生徒を指さしながら言った。

「あ、あの私は…伯爵家です。名前は…」

しかし、ジョンは待たずに次の女生徒を指さす。

「今度は君だ」

「は、はい…伯爵家です…」

そして残りの2人も伯爵家の女生徒だった。

「ふ~ん…」

ジョンは冷たい目で腕組みしながら彼女たちを一瞥すると言った。

「つまり君達は、全員ユリアより爵位が下だって事だね?それなのに…仮にも公爵根のユリアを睨み付けたり、貶めるような事を言える立場なのかな?あ、それともこの学園の中では爵位なんか全く関係ないって事かな?この学園には王子もいるんだよね?彼にも今の様な態度を取れるって事だよね?」

「ま、まさか…!そんな恐れ多い事出来る筈ありません!だって王族の方ですよ?!」

マリーベルは驚いたように目を見開く。他の女生徒達も無言で一斉に首を振る。

「それじゃ、ユリアにしたことも同じじゃないかな?彼女は何といっても公爵家なんだよ?」

「「「「「…」」」」」

ジョンの言葉に女生徒全員が黙ってしまう。

「黙っていたら分らないな」

ジョンは冷たい目で彼女たちを見る。

「あ…も、申し訳ありませんでした…」

マリーベルの言葉に、全員が次々とジョンに謝罪の言葉を述べる。

するとジョンは言った。

「謝罪する相手を間違えていないか?君達が謝罪する相手は俺じゃない。ユリアだろう?」

「「「「「!!」」」」」

全員驚いたように私を見たが、渋々謝罪の言葉を述べていく。

「どうも申し訳ございませんでした」
「生意気な口を聞いて申し訳ございません」
「大変失礼致しました」
「御無礼を働きました事、心よりお詫び申し上げます」
「本当に申し訳ございませんでした」

しかし…私の目から見ても、誰もが嫌々私に謝罪しているのは明らかだった。ジョンもその事に気付いているのか、明らかに不満気そうに見えたが、私に視線を移した。

「それじゃ、行こうか?ユリア」

「え、ええ…」

今ではこの教室の方が居心地が悪くなってしまった。ジョンが立ち上がり、廊下へ歩いていくので私も立ち上がって彼女たちに背を向けた時…。

「ふん、調子に乗って」
「王子に嫌われている婚約者のくせに」

「!」

小さな声だが、はっきりと私に聞こえるような声が聞こえた。…駄目だ、これくらいの事気にしていたら…。
私は聞こえなかったふりをして、ジョンの後を追うように教室を出た―。

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