上 下
12 / 126

第12話 敵意の込められた視線

しおりを挟む
 学園に到着して馬車から降りると早速私はジョンに尋ねた。

「ねぇ、私は何年何組なのかしら?」

するとジョンは溜息をついた。

「何故そういう大事な事を今頃尋ねるのですか?普通記憶が無いのでしたら前日には確認をとるものではありませんか?」

確かに言われてみればそうかもしれないが…。

「だ、だって…校舎を見れば…記憶が戻るかもしれないと思ったのよ…」

「ご自分の部屋を見ても、鏡でご自分の姿を確認しても…何一つ思い出す事が出来なかったのに、今頃校舎を目にして記憶が戻ると思ったのですか?甘い考えですね」

きっぱり言い切られてしまった。だけど私にだって言い分がある。何もそんな言い方をしなくてもジョンの方から私のクラスを教えてくれたっていいようなものだと思った。しかし、唯一私の今の所一番?の理解者である彼の機嫌を損ねたくないので、ここはグッと我慢した。

「そうよね…言われてみればその通りだったわ…それで?私は何年何クラスなの?」

「ユリアお嬢様は3年Cクラスです。校舎はあの大きな時計が取り付けられているのと同じ建物で3階にあります。あ、ちなみに私も同じクラスに編入する事になっていますからね」

「…」

私はじっとジョンを見る。

「何ですか?」

「…今更、学生に戻るの嫌じゃない?それよりも先生になってこの学園に入って来た方が良かったのじゃないのかしら?」

まさか26歳にもなって学生に戻るなんて…私だったら折角学校を卒業して社会に出られたと言うのに、もう一度高校生をやり直すなんて絶対に嫌だけど…。するとジョンが言った。

「生徒達に授業を教える?冗談じゃありません。そんな事をしたらサボれないじゃないですか」

「サ、サボるって…」

「私は頭脳も優秀ですからね、今更誰かに教えを請うつもりも、教えるつもりも毛頭無いですから。私がこの学園に通うのはあくまでユリアお嬢様の護衛の為です」

「あ…そ、そうなのね」

「それでは私は職員室に行ってきますが…先程も言っていた通り、学園内では対等な口を聞かせてもらいますからね」

「ええ、いいわよ」

するとジョンはニヤリと不敵な笑みを浮かべると言った。

「それじゃユリア。また後でな」

そしてクルリと背を向けると、恐らく?職員室のある方角へと行ってしまった。

「そ、それにしても…何て変わり身の早さなのかしら…」

呆然としていると、私のそばを大勢の学生たちが通り過ぎていく。

「あ!こうしちゃいられないわ!私も早く教室へ行かなくちゃ!」

私は急いで校舎の入り口をくぐり抜けた―。


****

「え~と…確か私の教室は3年Cクラスで…この校舎の3階だったわよね…」

校舎に入り、教室を目指していると何故か通り過ぎる学生たちが私を遠巻きに見て、コソコソと話をしている。

「…?」

視線を向けると、何故か女子学生も男子学生もサッと顔をそらしてしまう。やれやれ…どうやら私はやはり家族からだけではなく、学校でも嫌われているようだ。

「まぁ、誰にも話しかけられない方がいいかもね…何しろ記憶が無いのだから」

ボソリと呟くと、前方から見事なまでの金色の髪に青い瞳の美しい男子学生がこちらに歩いてくるのが見えた。彼の隣には銀色の髪の美少女が並んで歩き、その2人の背後を3人のこれまたハンサムな男子学生たちがついて歩いている。彼等は一目おかれているようで、廊下を歩く学生たちはサッと道を避けている。…まぁ端っこを歩いていれば彼等の邪魔にはならないだろう。そう思い、なるべく廊下の端を歩いていると何故か5人は私のことを凝視してきた。男子学生たちは私のことを明らかに敵意のある目で見つめてくるし、女子学生は何か言いたげに…しかも何故か怯えている様子で私を見ている。…一体何だと言うのだろう?

なるべく彼等と視線を合わせないように真正面を向いて通り過ぎたその時―。

「おい、この俺を無視する気なのか?」

どこかイライラした口調で背後から声を掛けられた―。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転移物語

月夜
ファンタジー
このところ、日本各地で謎の地震が頻発していた。そんなある日、都内の大学に通う僕(田所健太)は、地震が起こったときのために、部屋で非常持出袋を整理していた。すると、突然、めまいに襲われ、次に気づいたときは、深い森の中に迷い込んでいたのだ……

零下3℃のコイ

ぱんなこった。
BL
高校1年の春・・・ 恋愛初心者の春野風音(はるのかさね)が好きになった女の子には彼氏がいた。 優しそうでイケメンで高身長な彼氏、日下部零(くさかべれい)。 はたから見ればお似合いのカップル。勝ち目はないと分かっていてもその姿を目で追ってしまい悔しくなる一一一。 なのに、2年生でその彼氏と同じクラスになってしまった。 でも、偶然のきっかけで関わっていくうちに、風音だけが知ってしまった彼氏の秘密。 好きな子の彼氏…だったのに。 秘密を共有していくうちに、2人は奇妙な関係になり、変化が起こってしまう…

「僕は病弱なので面倒な政務は全部やってね」と言う婚約者にビンタくらわした私が聖女です

リオール
恋愛
これは聖女が阿呆な婚約者(王太子)との婚約を解消して、惚れた大魔法使い(見た目若いイケメン…年齢は桁が違う)と結ばれるために奮闘する話。 でも周囲は認めてくれないし、婚約者はどこまでも阿呆だし、好きな人は塩対応だし、婚約者はやっぱり阿呆だし(二度言う) はたして聖女は自身の望みを叶えられるのだろうか? それとも聖女として辛い道を選ぶのか? ※筆者注※ 基本、コメディな雰囲気なので、苦手な方はご注意ください。 (たまにシリアスが入ります) 勢いで書き始めて、駆け足で終わってます(汗

欲情しないと仰いましたので白い結婚でお願いします

ユユ
恋愛
他国の王太子の第三妃として望まれたはずが、 王太子からは拒絶されてしまった。 欲情しない? ならば白い結婚で。 同伴公務も拒否します。 だけど王太子が何故か付き纏い出す。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

魔力ゼロの出来損ない貴族、四大精霊王に溺愛される

日之影ソラ
ファンタジー
魔法使いの名門マスタローグ家の次男として生をうけたアスク。兄のように優れた才能を期待されたアスクには何もなかった。魔法使いとしての才能はおろか、誰もが持って生まれる魔力すらない。加えて感情も欠落していた彼は、両親から拒絶され別宅で一人暮らす。 そんなある日、アスクは一冊の不思議な本を見つけた。本に誘われた世界で四大精霊王と邂逅し、自らの才能と可能性を知る。そして精霊王の契約者となったアスクは感情も取り戻し、これまで自分を馬鹿にしてきた周囲を見返していく。 HOTランキング&ファンタジーランキング1位達成!!

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

【完結】2愛されない伯爵令嬢が、愛される公爵令嬢へ

華蓮
恋愛
ルーセント伯爵家のシャーロットは、幼い頃に母に先立たれ、すぐに再婚した義母に嫌われ、父にも冷たくされ、義妹に全てのものを奪われていく、、、 R18は、後半になります!! ☆私が初めて書いた作品です。

処理中です...