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第4話 贅沢な女
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「そう言えば貴女の名前は何と言うの?」
メイドと一緒に隣の部屋の衣裳部屋へ向かいながら彼女に尋ねた。
「はい、私の名前はベスと申します。ひょっとして…お忘れですか?」
「だから目を覚ました時から言ってるでしょう?自分の事を何一つ覚えていないって」
このメイド…頭は大丈夫なのだろうか?先ほどの私とメイド長の会話で記憶が全くなくなってしまった事は知っているハズなのに…そう言えば、さっき私の事をおかしくなってしまったと言っていたし…。
どうやらこのメイドには注意をしておいた方が良さそうだ…。
「どうかしましたか?ユリアお嬢様?」
すると何かを敏感に察知したのだろうか。ベスが尋ねて来た。
「いいえ、何でもないわ。さてっと衣裳部屋に着いた事だし…早速服を選びましょう…か…?」
そこで私は絶句した。衣裳部屋と呼ばれる部屋にはハンガーに掛けられたドレスが色ごとにずらりと並べられていたのだ。淡い色のドレスから順番に並べられ…最後のドレスはブラックでまとめられている。
「な、何…このドレスの数は…」
毎日違うドレスに着替えたとしても、1年かけても着る事が出来ないだろう。しかもどのデザインドレスも胸元が大きく開いている。
「ねぇ…まさかとは思うけど…ここにあるドレスは…?」
震えながらベスに尋ねる。
「ええ。全てユリアお嬢様のドレスでございます。以前、町の仕立て屋を10人程呼んで、店ごと、まるまる10軒買い取ったではありませんか」
「…え?私…そんな事したの?」
「ええ、されました」
コクリと頷くベス。
「そ、そんな…何て…何て無駄な贅沢を~っ!」
頭を抱えて叫んでしまった。
「一体記憶を失う前の私ってどんな人間だったの?こんな贅沢な事を平気でするなんて…!しかもドレスの趣味も最低だし~っ!!」
「お気に召しませんか?」
「ええ、勿論。お気に召す筈が無いわよ。大体、私は裾を引きずって歩くようなドレスは好きじゃないのよ。もっと活動的な…せめて足首位は見える長さのドレスじゃないと動きにくくて仕方が無いじゃない」
「そうですか。それでは公爵様にお願いしてまた別の仕立て屋からお望みのデザインドレスをお買い上げなされば宜しいではありませんか」
「え…?こ、公爵…?」
ベスの言葉に反応した。
「はい、そうです」
「公爵って…あ、あの王族の次に地位の高い…?」
「はい、その公爵様でございます。フィブリゾ・アルフォンス公爵様…ユリアお嬢様のお父様ではありませんか?」
「え…えええっ?!そ、そんな…そんな立派な人が私のお父様なのっ?!」
「はい、左様でございます」
「どうしよう…そんなに偉い方ならすぐに着替えてご挨拶に行かないと駄目よね?なるべく上品そうなドレスを選ばなくちゃ!」
慌ててハンガーに吊るしてあるドレスに駆け寄った。
「う~ん…これは色が派手だし、こっちは胸元が開きすぎるし…どれが一番無難かしら…」
すると背後でベスが言った。
「ユリアお嬢様…今まで演技だと思っていましたが…本当に何も覚えていらっしゃらなかったのですね…」
「何言ってるのよ?さっきからそう言ってるでしょう?そんな事よりドレスを選ばなくちゃ。あ、このドレスなら無難かも…」
水色のドレスに手を伸ばした時―。
「何度も実の娘が命の危険にさらされたのに、一度も様子を見に来ることも無かった冷たい父親をあれ程嫌っていたのに…?」
「!」
空気が揺れ、背後にいるベスの口調が突然変わった。私は慌てて振り反り…。
「え…?だ、誰…?」
そこには見知らぬ青年が立っていた―。
メイドと一緒に隣の部屋の衣裳部屋へ向かいながら彼女に尋ねた。
「はい、私の名前はベスと申します。ひょっとして…お忘れですか?」
「だから目を覚ました時から言ってるでしょう?自分の事を何一つ覚えていないって」
このメイド…頭は大丈夫なのだろうか?先ほどの私とメイド長の会話で記憶が全くなくなってしまった事は知っているハズなのに…そう言えば、さっき私の事をおかしくなってしまったと言っていたし…。
どうやらこのメイドには注意をしておいた方が良さそうだ…。
「どうかしましたか?ユリアお嬢様?」
すると何かを敏感に察知したのだろうか。ベスが尋ねて来た。
「いいえ、何でもないわ。さてっと衣裳部屋に着いた事だし…早速服を選びましょう…か…?」
そこで私は絶句した。衣裳部屋と呼ばれる部屋にはハンガーに掛けられたドレスが色ごとにずらりと並べられていたのだ。淡い色のドレスから順番に並べられ…最後のドレスはブラックでまとめられている。
「な、何…このドレスの数は…」
毎日違うドレスに着替えたとしても、1年かけても着る事が出来ないだろう。しかもどのデザインドレスも胸元が大きく開いている。
「ねぇ…まさかとは思うけど…ここにあるドレスは…?」
震えながらベスに尋ねる。
「ええ。全てユリアお嬢様のドレスでございます。以前、町の仕立て屋を10人程呼んで、店ごと、まるまる10軒買い取ったではありませんか」
「…え?私…そんな事したの?」
「ええ、されました」
コクリと頷くベス。
「そ、そんな…何て…何て無駄な贅沢を~っ!」
頭を抱えて叫んでしまった。
「一体記憶を失う前の私ってどんな人間だったの?こんな贅沢な事を平気でするなんて…!しかもドレスの趣味も最低だし~っ!!」
「お気に召しませんか?」
「ええ、勿論。お気に召す筈が無いわよ。大体、私は裾を引きずって歩くようなドレスは好きじゃないのよ。もっと活動的な…せめて足首位は見える長さのドレスじゃないと動きにくくて仕方が無いじゃない」
「そうですか。それでは公爵様にお願いしてまた別の仕立て屋からお望みのデザインドレスをお買い上げなされば宜しいではありませんか」
「え…?こ、公爵…?」
ベスの言葉に反応した。
「はい、そうです」
「公爵って…あ、あの王族の次に地位の高い…?」
「はい、その公爵様でございます。フィブリゾ・アルフォンス公爵様…ユリアお嬢様のお父様ではありませんか?」
「え…えええっ?!そ、そんな…そんな立派な人が私のお父様なのっ?!」
「はい、左様でございます」
「どうしよう…そんなに偉い方ならすぐに着替えてご挨拶に行かないと駄目よね?なるべく上品そうなドレスを選ばなくちゃ!」
慌ててハンガーに吊るしてあるドレスに駆け寄った。
「う~ん…これは色が派手だし、こっちは胸元が開きすぎるし…どれが一番無難かしら…」
すると背後でベスが言った。
「ユリアお嬢様…今まで演技だと思っていましたが…本当に何も覚えていらっしゃらなかったのですね…」
「何言ってるのよ?さっきからそう言ってるでしょう?そんな事よりドレスを選ばなくちゃ。あ、このドレスなら無難かも…」
水色のドレスに手を伸ばした時―。
「何度も実の娘が命の危険にさらされたのに、一度も様子を見に来ることも無かった冷たい父親をあれ程嫌っていたのに…?」
「!」
空気が揺れ、背後にいるベスの口調が突然変わった。私は慌てて振り反り…。
「え…?だ、誰…?」
そこには見知らぬ青年が立っていた―。
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