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川口直人 85
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「…直人、大丈夫か?」
常盤商事を出たところで父が声を掛けて来た。
「あ、ああ…大丈夫だよ。どうって事は無い」
「だけど、まだ婚約者の件が…」
「大丈夫だって。常盤社長はもう川口家電からは手を引くって約束してくれたんだ。そうすれば彼女だって俺との結婚をあきらめてくれだろう?何しろ俺に対して今まで高圧的な態度に出ていたのだって、父親の後ろ盾があったからなんだ。それがもう無くなるんだ。諦めてくれるだろうさ」
「直人…」
父は深刻そうな顔で俺を見ると足を止めた。
「実は…お前に大事な話があるんだ…」
「え…?」
次に父の口から出た言葉に衝撃を受けた―。
****
川口家電の買収を食い止める事が出来たこの日、社長に任命された。あまりにも突然の話に驚いてしまったが、父は以前から俺を社長にする事を考えていたそうだ。
会社に戻った後はあわただしくなった。幹部社員達を会議室に集め、父は社長の座を俺に渡す事を発表し、全国にある支社や支店への報告と取引先への挨拶。引継ぎの話…等々、目も回るような忙しさだった。当然常盤恵理と話が出来るような余裕は無かった。ただ岡本にだけは自分が川口家電の社長に任命されたことだけをメールで伝えた。勿論、これ以上常盤商事の好きにはさせないと言う事も。
今は大人しく手を引いてくれたが、あの社長の事だ。またいつどこで川口家電に手を伸ばしてくるか分らない。常に警戒しておかなければ―。
19時半―
ようやく常盤恵理に連絡を入れる余裕が出来た俺は社長室から電話を掛けた。
『…もしもし』
4コール目で常盤恵理が電話に出た。そこで俺はすぐに言った。
「常盤商事と川口家電の買収話は無くなって、完全に常盤商事との縁が切れた。だから俺達の婚約話も無かった事にさせて貰う」
『…は?何よその話…』
電話越しから、何処か間延びしたような常盤恵理の声が聞こえて来る。
「聞いての通りだよ。買収の話は立ち消えになったんだ。だから当然俺達の結婚の話もおしまいだ」
『ふ、ふざけないでよっ!ずーっと連絡1つ入れて来ないで、いきなり入れて来たと思ったら別れ話?私達来月結婚する事になっていたでしょうっ!!式場だって手配していたのに…招待状だって…どうしてくれるのよっ!!』
電話越しからヒステリックな声が聞こえて来た。でも…何だって?結婚式場?招待状だって?そんな話は初耳だ。
「ちょっと待ってくれっ!俺はそもそも結婚式の話しなんか聞いていないぞ?!入籍だけさせられるかと思っていたのに…おまけに結婚式の招待状だって?そんなもの知らないぞ!」
『直人を逃がさない為に私が1人でやったのよっ!どう?この話を聞けば、流石の直人でも責任取って結婚する気になったでしょうっ?!』
な、何て恐ろしい女なんだ…。だが、それでも俺の答えは決まっていた。
「ごめん…。何と言われようと俺は君の事を好きになれない。始めから結婚なんて考えた事もないんだ」
『そ、そん…な…酷いじゃない…あんまりよ…』
ついに…あの気丈な常盤恵理が泣きだした―。
常盤商事を出たところで父が声を掛けて来た。
「あ、ああ…大丈夫だよ。どうって事は無い」
「だけど、まだ婚約者の件が…」
「大丈夫だって。常盤社長はもう川口家電からは手を引くって約束してくれたんだ。そうすれば彼女だって俺との結婚をあきらめてくれだろう?何しろ俺に対して今まで高圧的な態度に出ていたのだって、父親の後ろ盾があったからなんだ。それがもう無くなるんだ。諦めてくれるだろうさ」
「直人…」
父は深刻そうな顔で俺を見ると足を止めた。
「実は…お前に大事な話があるんだ…」
「え…?」
次に父の口から出た言葉に衝撃を受けた―。
****
川口家電の買収を食い止める事が出来たこの日、社長に任命された。あまりにも突然の話に驚いてしまったが、父は以前から俺を社長にする事を考えていたそうだ。
会社に戻った後はあわただしくなった。幹部社員達を会議室に集め、父は社長の座を俺に渡す事を発表し、全国にある支社や支店への報告と取引先への挨拶。引継ぎの話…等々、目も回るような忙しさだった。当然常盤恵理と話が出来るような余裕は無かった。ただ岡本にだけは自分が川口家電の社長に任命されたことだけをメールで伝えた。勿論、これ以上常盤商事の好きにはさせないと言う事も。
今は大人しく手を引いてくれたが、あの社長の事だ。またいつどこで川口家電に手を伸ばしてくるか分らない。常に警戒しておかなければ―。
19時半―
ようやく常盤恵理に連絡を入れる余裕が出来た俺は社長室から電話を掛けた。
『…もしもし』
4コール目で常盤恵理が電話に出た。そこで俺はすぐに言った。
「常盤商事と川口家電の買収話は無くなって、完全に常盤商事との縁が切れた。だから俺達の婚約話も無かった事にさせて貰う」
『…は?何よその話…』
電話越しから、何処か間延びしたような常盤恵理の声が聞こえて来る。
「聞いての通りだよ。買収の話は立ち消えになったんだ。だから当然俺達の結婚の話もおしまいだ」
『ふ、ふざけないでよっ!ずーっと連絡1つ入れて来ないで、いきなり入れて来たと思ったら別れ話?私達来月結婚する事になっていたでしょうっ!!式場だって手配していたのに…招待状だって…どうしてくれるのよっ!!』
電話越しからヒステリックな声が聞こえて来た。でも…何だって?結婚式場?招待状だって?そんな話は初耳だ。
「ちょっと待ってくれっ!俺はそもそも結婚式の話しなんか聞いていないぞ?!入籍だけさせられるかと思っていたのに…おまけに結婚式の招待状だって?そんなもの知らないぞ!」
『直人を逃がさない為に私が1人でやったのよっ!どう?この話を聞けば、流石の直人でも責任取って結婚する気になったでしょうっ?!』
な、何て恐ろしい女なんだ…。だが、それでも俺の答えは決まっていた。
「ごめん…。何と言われようと俺は君の事を好きになれない。始めから結婚なんて考えた事もないんだ」
『そ、そん…な…酷いじゃない…あんまりよ…』
ついに…あの気丈な常盤恵理が泣きだした―。
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