上 下
509 / 519

川口直人 83

しおりを挟む
 スマホを取り出すと、早速岡本にメールを打った。

『俺の弟が協力を申し出てくれた。今度3人で会おう。弟の名は和也だ。よろしくな。偶然にも今千駄ヶ谷のファミレスでバイトしている。ひょっとするとどこかで会うかも知れないな』

「よし…これでいいだろう」

俺はメッセージを送信すると缶ビールを取りにキッチンへ向かった。


プシュッ

プルタブを開けて、缶ビールを飲みながらふと思った。

「そうだ…久しぶりに手が空いたからネット動画でも観るか…」

テーブルに載せたノートPCを手元に引き寄せると、電源を入れて立ち上げた。鈴音と交際していた頃は2人でよく海外ドラマや映画を観て過ごしていた懐かしい日々を思い出しながら、動画を検索した。そしてSFXの動画を見つけると、早速俺は映画を観ながらビールを飲み始めた―。



****

午後9時を少し過ぎた頃、不意にスマホに着信が入ってきた。

「岡本からか?」

ネットの動画を一時停止し、スマホを見ると着信相手は和也からだった。

「和也…?どうしたんだろう?」

ピッ

スマホを操作し、耳元に当てた。

「もしもし」

『あ、兄ちゃんっ!今、電話大丈夫っ?!』

受話器から和也の切羽つまった声が聞こえる。

「ああ、電話は大丈夫だけど…何かあったのか?」

『実はさ…来たんだよっ!鈴音さんが…男と一緒に!』

「えっ?!何処に来たんだっ?!」

『今夜は千駄ヶ谷のファミレスでバイトだったんだ。そこに鈴音さんがやってきたんだよ。何だか横柄そうな男と一緒にさ』

「千駄ヶ谷のファミレスに、横柄そうな男…?」

それなら相手の男は誰なのか明白だ。

「多分、その男は鈴音の幼馴染の岡本亮平だな」

『え?あの男が鈴音さんの幼馴染…?そっか…随分感じが悪かったな…あんな男が幼馴染なのか…可愛そうだな…』

和也がポツリと言う。

「そうか、お前も岡本が感じ悪そうに見えるのか」

『うん。そうだよ。何だか偉そうな態度を鈴音さんにとっていたな』

「あいつ、誰にでもああいう態度を取るんだよ。それで何か話したのか?」

『別に大した話はしていないよ。でも…俺が誰か気付いた用に思えたな。それじゃ切るよ』

「ああ、わざわざ連絡すまなかったな。それじゃ」


そして俺達は電話を切った。



****

 時刻は22時になろうとしていた。

「岡本に電話をいれてみるか…」

いくらなんでも、もう帰宅している頃だろう。そう思った矢先に突然スマホがなり始めた。着信相手は偶然にも岡本だ。

スマホを手に取ると電話に出た。

「もしもし」

『俺だ』

相変わらず無愛想な声が聞こえてくる。

「ああ…丁度電話しようかと思っていたんだ。今日、鈴音と駅前のファミレスに行ったんだろう?和也に聞いたよ」

『そうか…お前の弟、早速連絡入れたのか』

やっぱり俺の弟だとすぐに気付いたのか。

「ああ、まぁな…所で…」

『何だよ?』

「鈴音に…手を出したりしていないよな?」

気付けば、俺の口は勝手に動いていた―。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru
恋愛
駆け落ち同然で結婚したシャロンとシリウス。 仲の良い夫婦でずっと一緒だと思っていた。 突然現れた子連れの女性、そして腕を組んで歩く2人。 我慢の限界を迎えたシャロンは神殿に離縁の申し込みをした。 ※色々と異世界の他に現実に近いモノや妄想の世界をぶっこんでいます。 ※設定はかなり他の方の作品とは異なる部分があります。

国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。

ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。 即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。 そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。 国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。 ⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎ ※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

中将閣下は御下賜品となった令嬢を溺愛する

cyaru
恋愛
幼い頃から仲睦まじいと言われてきた侯爵令息クラウドと侯爵令嬢のセレティア。 18歳となりそろそろ婚約かと思われていたが、長引く隣国との戦争に少年兵士としてクラウドが徴兵されてしまった。 帰りを待ち続けるが、22歳になったある日クラウドの戦死が告げられた。 泣き崩れるセレティアだったが、ほどなくして戦争が終わる。敗戦したのである。 戦勝国の国王は好色王としても有名で王女を差し出せと通達があったが王女は逃げた所を衛兵に斬り殺されてしまう。仕方なく高位貴族の令嬢があてがわれる事になったが次々に純潔を婚約者や、急遽婚約者を立ててしまう他の貴族たち。選ばれてしまったセレティアは貢物として隣国へ送られた。 奴隷のような扱いを受けるのだろうと思っていたが、豪華な部屋に通され、好色王と言われた王には一途に愛する王妃がいた。 セレティアは武功を挙げた将兵に下賜されるために呼ばれたのだった。 そしてその将兵は‥‥。 ※作品の都合上、うわぁと思うような残酷なシーンがございます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。 ※頑張って更新します。

ゼラニウムの花束をあなたに

ごろごろみかん。
恋愛
リリネリア・ブライシフィックは八歳のあの日に死んだ。死んだこととされたのだ。リリネリアであった彼女はあの絶望を忘れはしない。 じわじわと壊れていったリリネリアはある日、自身の元婚約者だった王太子レジナルド・リームヴと再会した。 レジナルドは少し前に隣国の王女を娶ったと聞く。だけどもうリリネリアには何も関係の無い話だ。何もかもがどうでもいい。リリネリアは何も期待していない。誰にも、何にも。 二人は知らない。 国王夫妻と公爵夫妻が、良かれと思ってしたことがリリネリアを追い詰めたことに。レジナルドを絶望させたことを、彼らは知らない。 彼らが偶然再会したのは運命のいたずらなのか、ただ単純に偶然なのか。だけどリリネリアは何一つ望んでいなかったし、レジナルドは何一つ知らなかった。ただそれだけなのである。 ※タイトル変更しました

【完結】番(つがい)でした ~美しき竜人の王様の元を去った番の私が、再び彼に囚われるまでのお話~

tea
恋愛
かつて私を妻として番として乞い願ってくれたのは、宝石の様に美しい青い目をし冒険者に扮した、美しき竜人の王様でした。 番に選ばれたものの、一度は辛くて彼の元を去ったレーアが、番であるエーヴェルトラーシュと再び結ばれるまでのお話です。 ヒーローは普段穏やかですが、スイッチ入るとややドS。 そして安定のヤンデレさん☆ ちょっぴり切ない、でもちょっとした剣と魔法の冒険ありの(私とヒロイン的には)ハッピーエンド(執着心むき出しのヒーローに囚われてしまったので、見ようによってはメリバ?)のお話です。 別サイトに公開済の小説を編集し直して掲載しています。

【完結】お姉様の婚約者

七瀬菜々
恋愛
 姉が失踪した。それは結婚式当日の朝のことだった。  残された私は家族のため、ひいては祖国のため、姉の婚約者と結婚した。    サイズの合わない純白のドレスを身に纏い、すまないと啜り泣く父に手を引かれ、困惑と同情と侮蔑の視線が交差するバージンロードを歩き、彼の手を取る。  誰が見ても哀れで、惨めで、不幸な結婚。  けれど私の心は晴れやかだった。  だって、ずっと片思いを続けていた人の隣に立てるのだから。  ーーーーーそう、だから私は、誰がなんと言おうと、シアワセだ。

処理中です...