上 下
501 / 519

川口直人 75

しおりを挟む
 常盤恵理と岡本は激しい口論を繰り広げていた。そして俺はその様子をただ黙って見ていた。それにしても2人は性格がそっくりだ。血の気が多いし、口が悪い…。こんな出会い方をしていなければ意外とお似合いなんじゃ無いだろうか…?
そしてついに岡本は自分の正体を明かした。鈴音の幼馴染であるという事を。
途端に常盤恵利の顔色が変わり、今度は俺だけじゃなく岡本にまで脅迫してきた。

「いいの?自分の不利益になることが起きても知らないわからね?私にはそれだけの力があるんだから!」

しかし、岡本は平然としている。

「ああ、そうか。好きにしろ。そんな事されたって俺は痛くも痒くもないからな」

「…!」

一瞬、常盤恵利は悔しげに顔を歪ませ…ついにはとんでもないことを言ってきた。
あんただけじゃないわよ…。加藤鈴音だっていざとなれば社会から抹殺する事だって出来るんだからねっ?!」

「何っ?!」

「何だってっ?!」

冗談じゃないっ!何故鈴音を巻き込むんだっ?!

「お前は…っ!」

岡本が声を荒げる前に俺は頭を下げた。

「それだけは勘弁してくれっ!」

鈴音がまた傷つけられる…その事を想像するだけで胸が潰れそうになってくる。

「頼む…君の望み通り結婚でも何でもするから…どうか、どうか鈴音にだけは手を出さないでくれ…。この通りだ…っ!」

そうだ…鈴音が傷つけられるくらいなら、この女と結婚したって構わない。どんな犠牲を払っても俺は鈴音を守らなければ…っ!

「直人…顔を上げてよ…」

珍しく常盤恵利がしおらしい声で話しかけてきた。

「鈴音に…手を出さないと誓ってくれるまでは…顔を上げるなんて出来ない…っ!」

俺は肩を震わせながら返事をした

「直人…そこまでして…あの鈴音って女が大事なの…?」

「そうだ…!鈴音は俺にとって大切な…!」

俺は頭をテーブルにつけたまま叫んだ。

「分かったわよ!鈴音って女には手出ししないと約束するから顔上げなさいよっ!」

常盤恵利は苛立ち紛れに喚く。

「あ、ありがとう…」

ようやく顔を上げて、2人を見ると常盤恵利が岡本の方を振り返った。

「あんたは帰りなさいよ」

「だが…」

「頼む…鈴音の為なんだ…。帰ってくれ…すまない」

言い淀む岡本に俺は頭を下げた。

「…わ、分かったよっ!」

ガタンと乱暴に席を立ち、上着を掴んだ岡本は足早にその場を去って行った。

「…」

常盤恵利は無言で俺を見ていたが…やがて言った。

「ねぇ、何処かドライブに行きたいわ」

「ドライブ…」

気乗りがしない。

「何よっ!私の望む通り、何でもするって言ったのは嘘だったのっ?!」

「わ、悪かった…。すまない…許してくれ…」

再び頭を下げた。

「な、何よ…今までなら私に何かと反発していたのに…ドライブだって…色々言い訳して断って来たくせに…あの女の為なら自分を犠牲にするのねっ?!」

「ああ…そうだ。鈴音を守る為なら…自分を犠牲にすること位どうって事はないよ」

すると、突然常盤恵利が立ち上がった。

「私…もう帰るわっ!」

「え?」

「今日はもう連絡しないわ。さよなら」

そして彼女は俺を置いて帰ってしまった―。

しおりを挟む
感想 208

あなたにおすすめの小説

【完】愛人に王妃の座を奪い取られました。

112
恋愛
クインツ国の王妃アンは、王レイナルドの命を受け廃妃となった。 愛人であったリディア嬢が新しい王妃となり、アンはその日のうちに王宮を出ていく。 実家の伯爵家の屋敷へ帰るが、継母のダーナによって身を寄せることも敵わない。 アンは動じることなく、継母に一つの提案をする。 「私に娼館を紹介してください」 娼婦になると思った継母は喜んでアンを娼館へと送り出して──

不遇な王妃は国王の愛を望まない

ゆきむらさり
恋愛
稚拙ながらも投稿初日(11/21)から📝HOTランキングに入れて頂き、本当にありがとうございます🤗 今回初めてHOTランキングの5位(11/23)を頂き感無量です🥲 そうは言いつつも間違ってランキング入りしてしまった感が否めないのも確かです💦 それでも目に留めてくれた読者様には感謝致します✨ 〔あらすじ〕📝ある時、クラウン王国の国王カルロスの元に、自ら命を絶った王妃アリーヤの訃報が届く。王妃アリーヤを冷遇しておきながら嘆く国王カルロスに皆は不思議がる。なにせ国王カルロスは幼馴染の側妃ベリンダを寵愛し、政略結婚の為に他国アメジスト王国から輿入れした不遇の王女アリーヤには見向きもしない。はたから見れば哀れな王妃アリーヤだが、実は他に愛する人がいる王妃アリーヤにもその方が都合が良いとも。彼女が真に望むのは愛する人と共に居られる些細な幸せ。ある時、自国に囚われの身である愛する人の訃報を受け取る王妃アリーヤは絶望に駆られるも……。主人公の舞台は途中から変わります。 ※設定などは独自の世界観で、あくまでもご都合主義。断罪あり。ハピエン🩷

私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない

文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。 使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。 優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。 婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。 「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。 優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。 父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。 嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの? 優月は父親をも信頼できなくなる。 婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

皇太子夫妻の歪んだ結婚 

夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。 その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。 本編完結してます。 番外編を更新中です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

誰にも言えないあなたへ

天海月
恋愛
子爵令嬢のクリスティーナは心に決めた思い人がいたが、彼が平民だという理由で結ばれることを諦め、彼女の事を見初めたという騎士で伯爵のマリオンと婚姻を結ぶ。 マリオンは家格も高いうえに、優しく美しい男であったが、常に他人と一線を引き、妻であるクリスティーナにさえ、どこか壁があるようだった。 年齢が離れている彼にとって自分は子供にしか見えないのかもしれない、と落ち込む彼女だったが・・・マリオンには誰にも言えない秘密があって・・・。

忙しい男

菅井群青
恋愛
付き合っていた彼氏に別れを告げた。忙しいという彼を信じていたけれど、私から別れを告げる前に……きっと私は半分捨てられていたんだ。 「私のことなんてもうなんとも思ってないくせに」 「お前は一体俺の何を見て言ってる──お前は、俺を知らな過ぎる」 すれ違う想いはどうしてこうも上手くいかないのか。いつだって思うことはただ一つ、愛おしいという気持ちだ。 ※ハッピーエンドです かなりやきもきさせてしまうと思います。 どうか温かい目でみてやってくださいね。 ※本編完結しました(2019/07/15) スピンオフ &番外編 【泣く背中】 菊田夫妻のストーリーを追加しました(2019/08/19) 改稿 (2020/01/01) 本編のみカクヨムさんでも公開しました。

処理中です...