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川口直人 62
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スマホの解約を1週間待ってもらえるように頼みこんで正解だった。どうせあの女には俺が鈴音に連絡を入れる事等…バレないだろう。
俺は…常盤恵理を騙す事にした。
マンションに戻ると鍵を掛けて、カーテンをぴったりしめると逸る気持ちで鈴音の番号をタップした。
頼む…鈴音。電話に出てくれ…!
トゥルルルル…
トゥルルルル…
5回目のコール音で…
『もしもし?』
鈴音の声が聞こえて来た。良かった…鈴音…!後1週間でこのスマホを解約してしまえば…鈴音とはもう終わりになってしまう。せめて…その日が来るまでは声を聞いていたい…。
「鈴音…」
駄目だ、声が震えて…涙声になりそうだ。
『直人さん!良かった…連絡くれて…ずっと、待ってたから…』
鈴音の声が電話越しから聞こえて来る。
「ごめん…待たせて…色々忙しくて…」
『ううん、忙しくなるって聞かされていたから…大丈夫だよ。それよりも…ひょっとして風邪ひいた?』
「え?何でそう思うんだ?」
『だって…何だか声の調子がいつもと違う気がしたから」
「あ、ああ。ほんの少しね。でも大丈夫だよ。そう言えばいきなり電話掛けちゃったけど今大丈夫なのか?」
『うん、大丈夫だよ。30分位前に家に帰って来て、今夜ご飯作っていたところだから』
「へ~何作ってたんだい?」
鈴音の優しい声が好きだ。彼女と話していると心が穏やかになってくる。
『今夜はね、寒いからあんかけ焼きそばを作ってるの』
「へ~美味しそうだな。食べてみたいよ」
つい、いつもの調子で話してしまう。
『本当?それじゃ今届けに…』
「ごめん。今、実家にいるんだ。会社の事で忙しくて」
早口で断る。鈴音に会うなんて出来るはずは無かった。何故なら最近実は何者かに見張られているような気配を感じる様になっていたからだ。
『そう…なら仕方がないね』
鈴音の寂し気な声が聞こえ、罪悪感で胸が痛む。
本当は鈴音に会いたい、手料理を食べたい。そして…触れたい。
でもそれらを全て俺は捨てなければならないのだ。どうせ残り後わずかでスマホを解約しなくてはならない。だとしたら電話をかけるくらいならいいじゃないか。
「ごめん…また今度電話入れるから」
『うん、待ってる。ほんの少しでも…話がしたいから』
「鈴音…」
思わず涙が溢れそうになった。
「それじゃ…切るよ、おやすみ。鈴音」
『うん、おやすみなさい、直人さん』
プツッ
電話を切って…少しの間だけ、鈴音を思って涙した―。
****
翌日12時―
この日の朝、常盤恵利に電話を掛けると強引に場所と時間を指定されて俺は呼び出しを受けていた。
「来たわね」
喫茶店に行くと中央の丸テーブル席に常盤恵利が満足そうに座っていた。
「呼び出されたからな…当然だろう?」
「それで?引っ越しの手続きは進んでいるのかしら?」
「あ…それか…」
「何よ、それっ!私はすぐに引っ越すように言ったでしょう?」
「今は12月だからなかなか引越し会社が見つからないんだ」
俺は嘘をついた。
「それなら探しているって事よね?」
「ああ、まぁな」
「フフフ…それならいいわ」
常盤恵利は満足そうに笑みを浮かべると言った。
「直人、それじゃ何食べる?」
メニュー表を差し出してきた。
「…」
俺は無言でメニューを受け取ると、ページを開いた。
その姿を…まさかあいつに見られてい事を知る由も無く―。
俺は…常盤恵理を騙す事にした。
マンションに戻ると鍵を掛けて、カーテンをぴったりしめると逸る気持ちで鈴音の番号をタップした。
頼む…鈴音。電話に出てくれ…!
トゥルルルル…
トゥルルルル…
5回目のコール音で…
『もしもし?』
鈴音の声が聞こえて来た。良かった…鈴音…!後1週間でこのスマホを解約してしまえば…鈴音とはもう終わりになってしまう。せめて…その日が来るまでは声を聞いていたい…。
「鈴音…」
駄目だ、声が震えて…涙声になりそうだ。
『直人さん!良かった…連絡くれて…ずっと、待ってたから…』
鈴音の声が電話越しから聞こえて来る。
「ごめん…待たせて…色々忙しくて…」
『ううん、忙しくなるって聞かされていたから…大丈夫だよ。それよりも…ひょっとして風邪ひいた?』
「え?何でそう思うんだ?」
『だって…何だか声の調子がいつもと違う気がしたから」
「あ、ああ。ほんの少しね。でも大丈夫だよ。そう言えばいきなり電話掛けちゃったけど今大丈夫なのか?」
『うん、大丈夫だよ。30分位前に家に帰って来て、今夜ご飯作っていたところだから』
「へ~何作ってたんだい?」
鈴音の優しい声が好きだ。彼女と話していると心が穏やかになってくる。
『今夜はね、寒いからあんかけ焼きそばを作ってるの』
「へ~美味しそうだな。食べてみたいよ」
つい、いつもの調子で話してしまう。
『本当?それじゃ今届けに…』
「ごめん。今、実家にいるんだ。会社の事で忙しくて」
早口で断る。鈴音に会うなんて出来るはずは無かった。何故なら最近実は何者かに見張られているような気配を感じる様になっていたからだ。
『そう…なら仕方がないね』
鈴音の寂し気な声が聞こえ、罪悪感で胸が痛む。
本当は鈴音に会いたい、手料理を食べたい。そして…触れたい。
でもそれらを全て俺は捨てなければならないのだ。どうせ残り後わずかでスマホを解約しなくてはならない。だとしたら電話をかけるくらいならいいじゃないか。
「ごめん…また今度電話入れるから」
『うん、待ってる。ほんの少しでも…話がしたいから』
「鈴音…」
思わず涙が溢れそうになった。
「それじゃ…切るよ、おやすみ。鈴音」
『うん、おやすみなさい、直人さん』
プツッ
電話を切って…少しの間だけ、鈴音を思って涙した―。
****
翌日12時―
この日の朝、常盤恵利に電話を掛けると強引に場所と時間を指定されて俺は呼び出しを受けていた。
「来たわね」
喫茶店に行くと中央の丸テーブル席に常盤恵利が満足そうに座っていた。
「呼び出されたからな…当然だろう?」
「それで?引っ越しの手続きは進んでいるのかしら?」
「あ…それか…」
「何よ、それっ!私はすぐに引っ越すように言ったでしょう?」
「今は12月だからなかなか引越し会社が見つからないんだ」
俺は嘘をついた。
「それなら探しているって事よね?」
「ああ、まぁな」
「フフフ…それならいいわ」
常盤恵利は満足そうに笑みを浮かべると言った。
「直人、それじゃ何食べる?」
メニュー表を差し出してきた。
「…」
俺は無言でメニューを受け取ると、ページを開いた。
その姿を…まさかあいつに見られてい事を知る由も無く―。
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