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川口直人 53
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ピンポーン
エレベーターが地上45階に到着した。扉が開くと長い廊下が目に入り、右側は全て一面ガラス張りの窓になっていた。窓から見える景色は新宿のビル群が一望出来、かなり壮観な景色に俺も父も目を奪われてしまった。
「これは…中々見事な景色だな。さぞかし夜景は美しいだろう」
「そうだね…」
答えながら俺は鈴音の顔を思い出していた。もし、鈴音と2人でここから夜景を見れば、一体どんな表情を見せてくれるのだろうか…と。
「社長室はどこにあるのだろう?」
このフロアには床に重厚そうなカーペットが敷かれ、歩く足音が吸い込まれるようだった。父はエレベータを降りると、部屋を探しながら歩き始めた。その後ろを俺も続く。
それにしても…。
アポイントをきちんと取ったうえで、社長に会いに来たと言うのに案内も無しとは一体どういう事なのだろう?何故か分らないが、『常盤商事』の社長から随分軽んじて見られているような気がしてならなかった。
「あ、直人。どうやら真正面の部屋が社長室のようだ」
父が部屋を指さすと、そこにはまるでホテルの宴会場を思わせる大きな扉を構えた部屋が目に入った。ドアには『社長室』のプレートが掛けられている。
壁には電話機が取り付けられており、どうやらこの電話を掛けて社長室に繋げる仕組みになっていた。
「内線番号1か…」
父は電話機をあらためると、受話器を取って「1」をプッシュした。少しの沈黙の後…父は電話に向かって頭を下げながら話し始めた。
俺はその様子を黙って見届ける。やがて受話器を置いた父がこちらを振り向くと言った。
「直人、このまま部屋に入って良いそうだ。中へ入ろう」
「分った」
そして父が扉を開け、俺はその後に続いた。
「…!」
社長室はとても広く、大きく幅広の書斎机に向かって座る人物が飛び込んできた。
その人物の背後はガラス窓になっており、高層ビル群が見渡せる。
そして、社長と思しき人物の隣には高級そうなワンピースを着た、派手な若い女性がこちらをじっと見つめて立っている姿が目に飛び込んできた。
社長室に入ると父はすぐに頭を下げたので、俺もそれにならって頭を下げた。
「この度はお忙しい中、お時間を割いて頂きまして誠にありがとうございます」
するとこちらを向いて座る60代と思しき男性がにこやかに声を掛けて来た。
「ああ、貴方が『川口家電』の社長と…その御子息の…」
「はい、川口直人と申します」
お辞儀をして、顔を上げると社長の隣に立つ若い女性が何故か俺をじっと見つめている。
何故、そんなに俺を見つめるのだろう…?
美人の部類に入るかもしれないが、高級そうなワンピースに派手なメイクの女性に俺は好感を持てなかった。
いや、違う。
この時の俺は、既に本能的に悟っていたのかもしれない。
目の前に立つこの女が…卑怯な手を使って俺と鈴音を強引に引き離す存在であるという事に。
そして俺の大切な鈴音を傷つける、憎むべき相手となることを―。
エレベーターが地上45階に到着した。扉が開くと長い廊下が目に入り、右側は全て一面ガラス張りの窓になっていた。窓から見える景色は新宿のビル群が一望出来、かなり壮観な景色に俺も父も目を奪われてしまった。
「これは…中々見事な景色だな。さぞかし夜景は美しいだろう」
「そうだね…」
答えながら俺は鈴音の顔を思い出していた。もし、鈴音と2人でここから夜景を見れば、一体どんな表情を見せてくれるのだろうか…と。
「社長室はどこにあるのだろう?」
このフロアには床に重厚そうなカーペットが敷かれ、歩く足音が吸い込まれるようだった。父はエレベータを降りると、部屋を探しながら歩き始めた。その後ろを俺も続く。
それにしても…。
アポイントをきちんと取ったうえで、社長に会いに来たと言うのに案内も無しとは一体どういう事なのだろう?何故か分らないが、『常盤商事』の社長から随分軽んじて見られているような気がしてならなかった。
「あ、直人。どうやら真正面の部屋が社長室のようだ」
父が部屋を指さすと、そこにはまるでホテルの宴会場を思わせる大きな扉を構えた部屋が目に入った。ドアには『社長室』のプレートが掛けられている。
壁には電話機が取り付けられており、どうやらこの電話を掛けて社長室に繋げる仕組みになっていた。
「内線番号1か…」
父は電話機をあらためると、受話器を取って「1」をプッシュした。少しの沈黙の後…父は電話に向かって頭を下げながら話し始めた。
俺はその様子を黙って見届ける。やがて受話器を置いた父がこちらを振り向くと言った。
「直人、このまま部屋に入って良いそうだ。中へ入ろう」
「分った」
そして父が扉を開け、俺はその後に続いた。
「…!」
社長室はとても広く、大きく幅広の書斎机に向かって座る人物が飛び込んできた。
その人物の背後はガラス窓になっており、高層ビル群が見渡せる。
そして、社長と思しき人物の隣には高級そうなワンピースを着た、派手な若い女性がこちらをじっと見つめて立っている姿が目に飛び込んできた。
社長室に入ると父はすぐに頭を下げたので、俺もそれにならって頭を下げた。
「この度はお忙しい中、お時間を割いて頂きまして誠にありがとうございます」
するとこちらを向いて座る60代と思しき男性がにこやかに声を掛けて来た。
「ああ、貴方が『川口家電』の社長と…その御子息の…」
「はい、川口直人と申します」
お辞儀をして、顔を上げると社長の隣に立つ若い女性が何故か俺をじっと見つめている。
何故、そんなに俺を見つめるのだろう…?
美人の部類に入るかもしれないが、高級そうなワンピースに派手なメイクの女性に俺は好感を持てなかった。
いや、違う。
この時の俺は、既に本能的に悟っていたのかもしれない。
目の前に立つこの女が…卑怯な手を使って俺と鈴音を強引に引き離す存在であるという事に。
そして俺の大切な鈴音を傷つける、憎むべき相手となることを―。
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