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川口直人 50
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都内世田谷区にある実家に帰って来るのは実に大学を卒業して以来だった。
ピンポーン
インターホンを押すと、すぐに玄関の扉が開かれて母が出迎えてくれた。
「お帰り、直人」
「ただいま…」
「さ、早く上がって。今夜は直人の好きな料理ばかり用意したのよ」
「ありがとう」
母に言われ、玄関から上がり込むとそのままリビングルームへ向かった。
「お帰り、直人」
リビングテーブルには既に父が席に着いていて…。
「え…?和也。お前も来ていたのか?」
「うん、お帰り。兄さん」
すると母が背後から声を掛けて来た。
「ほらほら、直人。折角の家族団らんなんだから座って頂戴」
「わ、分った」
父の向かい側いに座ると、母が次から次へと料理を運んでくる。肉じゃがに焼き魚、
茶碗蒸しに冷ややっこ、シーザーサラダ…。確かに全て俺の好きな料理ばかりだった。
「ほら、直人。お前もビール飲め」
父がビール瓶を差し出して来た。
「ありがとう」
目の前のグラスを手に取ると、並々と注がれる。
「父さん、俺にもビール貰えるかな?」
「そうか…そう言えば和也も20歳になったんだものな」
父は感慨深そうに言うと、和也のグラスにもビールを注ぐ。
「よし、それじゃ乾杯するか」
父に促され、俺も和也もグラスを手に、乾杯した―。
****
「どう?美味しい?」
母が食事をしている俺と和也に尋ねて来る。
「美味しいよ」
「うん、美味い」
俺も和也も頷く。
「ところで、直人。お前…随分痩せたんじゃないか?仕事…きついんだろう?」
父がビールを飲みながら尋ねて来る。
「いや、別に痩せたわけじゃないよ。余分な肉が落ちて筋肉がついただけだ」
すると和也が俺の二の腕に触って来た。
「おおっ!本当だっ!すっげー筋肉っ!」
「やめろって」
その手を振りほどくと父を見た。
「父さん…今夜は何で俺を…和也を呼んだんだ?ただ食事に誘う為だけに家に呼んだわけではないんだろう?」
部屋に入って父の姿を見た途端、ピンと来た。この家を出た時の父は若々しかったのに、随分しわが刻まれ、白髪も増えている。それは母も同じだった。
「「…」」
父と母は少しの間、顔を見合わせて来たが…突然頭を下げて来た。
「頼む、直人!俺を…いや、会社を救ってくれっ!」
「え?な、何だって?」
会社を救ってくれって…どう言う事なんだ?隣に座る和也も驚いたように目を見張っている。父は未だに俺に頭を下げている。
「父さん、何があったのか話してくれ。そうじゃないと助けるものも助けられないから」
「あ、ああ…そうだな…」
父は顔を上げてポツリポツリと話し出した。
ここ最近、不景気のあおりで会社の業績が大幅に悪化したこと。ライバル企業の参入で独占状態だった分野の家電の売り上げが落ち込んだ事、そして下請け会社の倒産…それらが相次ぎ、とうとう最大級の赤字を出してしまった事…。
「もう…会社は倒産寸前なんだ…。会社を救う為に色々融資をあたってみても断られた。そこで新しい取引先を見つけて資金援助を探している所なんだが、私1人では限界なんだ。やはり次の後継者もいなければ信用して貰えない!だから…頼む、直人!力を貸してくれっ!」
「…父さん…」
会社を守りたい―
そう言われてしまえば言う事を聞かざるを得ない。
「分った…協力する」
まさか、この事がきっかけで俺と鈴音が長い間引き離される事になるとはこの時の俺は知る由も無かった―。
ピンポーン
インターホンを押すと、すぐに玄関の扉が開かれて母が出迎えてくれた。
「お帰り、直人」
「ただいま…」
「さ、早く上がって。今夜は直人の好きな料理ばかり用意したのよ」
「ありがとう」
母に言われ、玄関から上がり込むとそのままリビングルームへ向かった。
「お帰り、直人」
リビングテーブルには既に父が席に着いていて…。
「え…?和也。お前も来ていたのか?」
「うん、お帰り。兄さん」
すると母が背後から声を掛けて来た。
「ほらほら、直人。折角の家族団らんなんだから座って頂戴」
「わ、分った」
父の向かい側いに座ると、母が次から次へと料理を運んでくる。肉じゃがに焼き魚、
茶碗蒸しに冷ややっこ、シーザーサラダ…。確かに全て俺の好きな料理ばかりだった。
「ほら、直人。お前もビール飲め」
父がビール瓶を差し出して来た。
「ありがとう」
目の前のグラスを手に取ると、並々と注がれる。
「父さん、俺にもビール貰えるかな?」
「そうか…そう言えば和也も20歳になったんだものな」
父は感慨深そうに言うと、和也のグラスにもビールを注ぐ。
「よし、それじゃ乾杯するか」
父に促され、俺も和也もグラスを手に、乾杯した―。
****
「どう?美味しい?」
母が食事をしている俺と和也に尋ねて来る。
「美味しいよ」
「うん、美味い」
俺も和也も頷く。
「ところで、直人。お前…随分痩せたんじゃないか?仕事…きついんだろう?」
父がビールを飲みながら尋ねて来る。
「いや、別に痩せたわけじゃないよ。余分な肉が落ちて筋肉がついただけだ」
すると和也が俺の二の腕に触って来た。
「おおっ!本当だっ!すっげー筋肉っ!」
「やめろって」
その手を振りほどくと父を見た。
「父さん…今夜は何で俺を…和也を呼んだんだ?ただ食事に誘う為だけに家に呼んだわけではないんだろう?」
部屋に入って父の姿を見た途端、ピンと来た。この家を出た時の父は若々しかったのに、随分しわが刻まれ、白髪も増えている。それは母も同じだった。
「「…」」
父と母は少しの間、顔を見合わせて来たが…突然頭を下げて来た。
「頼む、直人!俺を…いや、会社を救ってくれっ!」
「え?な、何だって?」
会社を救ってくれって…どう言う事なんだ?隣に座る和也も驚いたように目を見張っている。父は未だに俺に頭を下げている。
「父さん、何があったのか話してくれ。そうじゃないと助けるものも助けられないから」
「あ、ああ…そうだな…」
父は顔を上げてポツリポツリと話し出した。
ここ最近、不景気のあおりで会社の業績が大幅に悪化したこと。ライバル企業の参入で独占状態だった分野の家電の売り上げが落ち込んだ事、そして下請け会社の倒産…それらが相次ぎ、とうとう最大級の赤字を出してしまった事…。
「もう…会社は倒産寸前なんだ…。会社を救う為に色々融資をあたってみても断られた。そこで新しい取引先を見つけて資金援助を探している所なんだが、私1人では限界なんだ。やはり次の後継者もいなければ信用して貰えない!だから…頼む、直人!力を貸してくれっ!」
「…父さん…」
会社を守りたい―
そう言われてしまえば言う事を聞かざるを得ない。
「分った…協力する」
まさか、この事がきっかけで俺と鈴音が長い間引き離される事になるとはこの時の俺は知る由も無かった―。
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