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川口直人 34
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加藤さんが去ってしまった…。俺はあいつがいることも忘れて呆然と佇んでいた。
< ごめんなさい >
加藤さんの声が頭の中でこだまする。振られる覚悟で告白したが…こんなにショックを受けるとは自分で思わなかった。…ひょっとすると俺は心の何処かで期待していたのかもしれない。加藤さんが俺の告白に応えてくれると…。だが、現実はそんなに甘く無かった。
「ハハハ…駄目元で告白してみたけど、やっぱり振られたか…」
自嘲気味に笑うと、あいつが言った。
「言っただろう?鈴音はお前になんか興味無いって」
何だ…いたのか。存在を忘れていた。
だが…。
こいつ、俺に喧嘩を打ってるのか?失恋したばかりの人間にそんな追い詰めるような台詞を普通言うか?
気づけば俺は奴を睨みつけていた。
「そう言うお前だって、幼馴染のくせに彼女の眼中には入っていないようだけど?それなのに何故彼女に構うんだ?お前は加藤さんのお姉さんと恋人同士なんだろう?加藤さんに構っていないで恋人の処へ行った方がいいんじゃないか?
すると図星をつかれたのか、奴は一瞬ウッと言葉につまったような顔を見せた。
「うるさい…お前には何も関係ないだろう?」
「いや、あるね。たかが幼馴染と言うだけで加藤さんに乱暴な態度を取って…さっきだって彼女の腕をねじ上げただろう?おまけに何でもかんでも上から目線。俺から言わせるとお前が加藤さんにしている事はDVやモラハラと何ら変わらない様に見える」
もう我慢の限界だった。こいつを見ているとあまりにも加藤さんに対する態度が横柄で苛立ちが募ってくる。俺は…こんな怒りっぽい男だっただろうか?
「な…っ!」
「俺なら…お前の様に絶対に彼女を傷つけるような事はしない。大切にすると誓えるさ。何故なら…ここまで本気で好きになった女性は加藤さんが初めてだからな」
そうだ…。俺は自分でも不思議なくらい加藤さんに惹かれている。彼女の儚げな美しさが…どこか寂しげに笑う姿が…愛しくてたまらない。
「な、何だって…っ?!」
すると奴はいきなり俺の襟首を掴んできた。その目には怒りをたぎらせて…。
「ほら。お前はすぐにそうやって暴力的な行動に出るんだな。だから平気で加藤さんにも酷い事をするし、全くその自覚も持てないんだろう?」
一瞬奴は驚いたように目を見張り…。
「…悪かった。つい…」
いきなり今度は手を離し、俺から距離を取ると謝罪してきた。
「とにかく…俺は加藤さんを諦める気はないから。傍にいられるなら友人でも構わないと思っている」
そして、俺は奴に背を向けると自分のマンションの中に入って行った。
そうだ、いきなり告白なんてしたのがそもそも間違いだったかもしれない。まずはやっぱり友達から始めるべきだったんだ。
そして、それから少しの間…俺は加藤さんと会えない日々が続いた。
そんなある夜のこと、不意に俺のスマホにあいつから電話がかかってきたのだった…。
****
22時15分―
「ふぅ~…気持ちよかった」
シャワーを浴び、濡れた髪をタオルでクシャクシャ拭いながら部屋に戻るとテーブルの上に置いておいたスマホが着信を知らせている。
「電話…?」
着信相手を見て俺は驚いた。何しろ相手はあの男からだったのだから。一体今度はどんな文句を言ってくるつもりなんだ?
「もしもし…」
電話を取ると俺は不機嫌そうに返事をした。
『こんな時間に悪いな。今何処にいるんだ?』
いつものあいつに比べ、今日は随分低姿勢な様子に少し戸惑った。
「何処って、家に決まってるだろう?」
「そうか、なら鈴音を迎えに駅迄行ってくれるか?」
その言葉に耳を疑った。
「え?まだ加藤さん、帰っていないのか?」
「ああ、そうなんだ。だから…」
最後まで聞くまでも無かった。
「行くに決まってるだろう?!」
俺は電話を切ると、取るものとりあえずにマンションを飛び出した―。
< ごめんなさい >
加藤さんの声が頭の中でこだまする。振られる覚悟で告白したが…こんなにショックを受けるとは自分で思わなかった。…ひょっとすると俺は心の何処かで期待していたのかもしれない。加藤さんが俺の告白に応えてくれると…。だが、現実はそんなに甘く無かった。
「ハハハ…駄目元で告白してみたけど、やっぱり振られたか…」
自嘲気味に笑うと、あいつが言った。
「言っただろう?鈴音はお前になんか興味無いって」
何だ…いたのか。存在を忘れていた。
だが…。
こいつ、俺に喧嘩を打ってるのか?失恋したばかりの人間にそんな追い詰めるような台詞を普通言うか?
気づけば俺は奴を睨みつけていた。
「そう言うお前だって、幼馴染のくせに彼女の眼中には入っていないようだけど?それなのに何故彼女に構うんだ?お前は加藤さんのお姉さんと恋人同士なんだろう?加藤さんに構っていないで恋人の処へ行った方がいいんじゃないか?
すると図星をつかれたのか、奴は一瞬ウッと言葉につまったような顔を見せた。
「うるさい…お前には何も関係ないだろう?」
「いや、あるね。たかが幼馴染と言うだけで加藤さんに乱暴な態度を取って…さっきだって彼女の腕をねじ上げただろう?おまけに何でもかんでも上から目線。俺から言わせるとお前が加藤さんにしている事はDVやモラハラと何ら変わらない様に見える」
もう我慢の限界だった。こいつを見ているとあまりにも加藤さんに対する態度が横柄で苛立ちが募ってくる。俺は…こんな怒りっぽい男だっただろうか?
「な…っ!」
「俺なら…お前の様に絶対に彼女を傷つけるような事はしない。大切にすると誓えるさ。何故なら…ここまで本気で好きになった女性は加藤さんが初めてだからな」
そうだ…。俺は自分でも不思議なくらい加藤さんに惹かれている。彼女の儚げな美しさが…どこか寂しげに笑う姿が…愛しくてたまらない。
「な、何だって…っ?!」
すると奴はいきなり俺の襟首を掴んできた。その目には怒りをたぎらせて…。
「ほら。お前はすぐにそうやって暴力的な行動に出るんだな。だから平気で加藤さんにも酷い事をするし、全くその自覚も持てないんだろう?」
一瞬奴は驚いたように目を見張り…。
「…悪かった。つい…」
いきなり今度は手を離し、俺から距離を取ると謝罪してきた。
「とにかく…俺は加藤さんを諦める気はないから。傍にいられるなら友人でも構わないと思っている」
そして、俺は奴に背を向けると自分のマンションの中に入って行った。
そうだ、いきなり告白なんてしたのがそもそも間違いだったかもしれない。まずはやっぱり友達から始めるべきだったんだ。
そして、それから少しの間…俺は加藤さんと会えない日々が続いた。
そんなある夜のこと、不意に俺のスマホにあいつから電話がかかってきたのだった…。
****
22時15分―
「ふぅ~…気持ちよかった」
シャワーを浴び、濡れた髪をタオルでクシャクシャ拭いながら部屋に戻るとテーブルの上に置いておいたスマホが着信を知らせている。
「電話…?」
着信相手を見て俺は驚いた。何しろ相手はあの男からだったのだから。一体今度はどんな文句を言ってくるつもりなんだ?
「もしもし…」
電話を取ると俺は不機嫌そうに返事をした。
『こんな時間に悪いな。今何処にいるんだ?』
いつものあいつに比べ、今日は随分低姿勢な様子に少し戸惑った。
「何処って、家に決まってるだろう?」
「そうか、なら鈴音を迎えに駅迄行ってくれるか?」
その言葉に耳を疑った。
「え?まだ加藤さん、帰っていないのか?」
「ああ、そうなんだ。だから…」
最後まで聞くまでも無かった。
「行くに決まってるだろう?!」
俺は電話を切ると、取るものとりあえずにマンションを飛び出した―。
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