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川口直人 26
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5月のとある週末の夜―。
「おい、川口。どうしたんだよ、ぼ~っとして」
不意に声を掛けられて我に返った。見ると高校時代からの友人、工藤が俺を見ていた。
「全く…折角久しぶりに会ったっていうのに、一体どうしたっていうんだよ」
小太りの林がビールを飲みながら呆れるように言った。
「ごめん…悪かったな」
俺は苦笑しながら返事をした。そうだった、今夜は久々に友人の工藤と林に誘われて居酒屋に飲みに来ていたのだ。それなのについ加藤さんの事を考えてしまっていた。
「お前、ひょっとして引越し会社の仕事きついのか?」
食品会社に勤務する工藤が心配そうに尋ねてきた。
「まぁ…確かに肉体労働で大変といえば大変だけど…やりがいは感じているよ」
ウーロンハイを飲みながら答えた。
「だよな~…なんて言ったってお前、随分筋肉質になったじゃないか?く~…細マッチョか…羨ましいぜ」
IT企業に務める林が俺の二の腕を掴んできた。
「おおっ!めちゃくちゃ硬いじゃないかっ!」
「おい、やめろって」
「どれ、俺にも触らせろ」
工藤まで無遠慮に人の二の腕に触れてくる。全く相変わらず悪ふざけする奴らだ。
****
「なぁ…それより川口…何かあったんじゃないか?」
モツ鍋を箸でつつきながら林が尋ねてきた。
「え…?何かって…?」
「とぼけるなよ、伊達に俺たちは高校時代からの付き合いじゃないだろう?」
工藤が本日3杯目のビールを飲みながら俺を見た。
「そう…か…やっぱり相当堪えてるのかな…?」
しんみりと答える。
「父親の事か?」
工藤の言葉に驚く。
「まさか!もう卒業以来連絡すら取っていないさ」
「ふ~ん…ならすみれか?」
「いや、違う。俺たちはとっくに別れたさ。…相変わらず時々メールと電話が来るけどな」
林の質問に即答する。
「だったら何だよ?」
工藤が肘でつついてきた。
「あ、ああ…実は…」
そうだ、この苦しい胸の内を…友人に話せば少しは軽くなるだろうか…?俺は思い切って加藤さんの事を話すことにした―。
****
「な、何だよ…その話…」
林はすっかり俺の話で酔が覚めたのだろうか?驚いた顔で俺を見ている。
「それじゃ、もうその彼女は意識が戻らなくて既に2ヶ月が経過しているのか?」
「ああ…そうなんだ…もう心配で心配で…」
頭を抱えてため息を付く。
「…お前、余程その彼女が好きなんだな…?珍しいな?お前がそこまで1人の女に入れ込むなんて。大体いつものパターンならお前に告白してきて…自然消滅で終わっていなかったか?」
工藤がお新香を食べながら言う。
「そうだよな。お前があまり恋愛に対してあっさりしているから自然消滅していたんだろう?それなのに何だよ?その女とは付き合ってもいないんだろう?そんなに思い入れが強いのか?」
「…分かってる。自分でも不思議な位だ。…初めて会った時から…ずっと目が離せなくて…」
「だけど、その女には幼馴染の男って言うのが張り付いているんだろう?」
林の言葉にうなずく。
「ああ、そうなんだ…」
「一番たちが悪いよな。そのパターンって。多分男の方は…間違いなく彼女に惚れてるに決まっている。お前っていう邪魔な男を追い払おうとしているとしか思えないな…」
工藤が1人、納得した様子で言う。
「やっぱり…そう思うか?」
俺は身を乗り出して工藤に尋ねた。
「ああ、当然だろう?とにかくその男には気をつけたほうがいいぞ?ひょっとすると彼女の意識が戻ってもお前に知らせない可能性があるからな」
林がビールをあおるように飲むと言った。
「そうなのか…?」
ため息をつき…加藤さんの姿を思い浮かべながら俺はハイボールを飲んだ―。
「おい、川口。どうしたんだよ、ぼ~っとして」
不意に声を掛けられて我に返った。見ると高校時代からの友人、工藤が俺を見ていた。
「全く…折角久しぶりに会ったっていうのに、一体どうしたっていうんだよ」
小太りの林がビールを飲みながら呆れるように言った。
「ごめん…悪かったな」
俺は苦笑しながら返事をした。そうだった、今夜は久々に友人の工藤と林に誘われて居酒屋に飲みに来ていたのだ。それなのについ加藤さんの事を考えてしまっていた。
「お前、ひょっとして引越し会社の仕事きついのか?」
食品会社に勤務する工藤が心配そうに尋ねてきた。
「まぁ…確かに肉体労働で大変といえば大変だけど…やりがいは感じているよ」
ウーロンハイを飲みながら答えた。
「だよな~…なんて言ったってお前、随分筋肉質になったじゃないか?く~…細マッチョか…羨ましいぜ」
IT企業に務める林が俺の二の腕を掴んできた。
「おおっ!めちゃくちゃ硬いじゃないかっ!」
「おい、やめろって」
「どれ、俺にも触らせろ」
工藤まで無遠慮に人の二の腕に触れてくる。全く相変わらず悪ふざけする奴らだ。
****
「なぁ…それより川口…何かあったんじゃないか?」
モツ鍋を箸でつつきながら林が尋ねてきた。
「え…?何かって…?」
「とぼけるなよ、伊達に俺たちは高校時代からの付き合いじゃないだろう?」
工藤が本日3杯目のビールを飲みながら俺を見た。
「そう…か…やっぱり相当堪えてるのかな…?」
しんみりと答える。
「父親の事か?」
工藤の言葉に驚く。
「まさか!もう卒業以来連絡すら取っていないさ」
「ふ~ん…ならすみれか?」
「いや、違う。俺たちはとっくに別れたさ。…相変わらず時々メールと電話が来るけどな」
林の質問に即答する。
「だったら何だよ?」
工藤が肘でつついてきた。
「あ、ああ…実は…」
そうだ、この苦しい胸の内を…友人に話せば少しは軽くなるだろうか…?俺は思い切って加藤さんの事を話すことにした―。
****
「な、何だよ…その話…」
林はすっかり俺の話で酔が覚めたのだろうか?驚いた顔で俺を見ている。
「それじゃ、もうその彼女は意識が戻らなくて既に2ヶ月が経過しているのか?」
「ああ…そうなんだ…もう心配で心配で…」
頭を抱えてため息を付く。
「…お前、余程その彼女が好きなんだな…?珍しいな?お前がそこまで1人の女に入れ込むなんて。大体いつものパターンならお前に告白してきて…自然消滅で終わっていなかったか?」
工藤がお新香を食べながら言う。
「そうだよな。お前があまり恋愛に対してあっさりしているから自然消滅していたんだろう?それなのに何だよ?その女とは付き合ってもいないんだろう?そんなに思い入れが強いのか?」
「…分かってる。自分でも不思議な位だ。…初めて会った時から…ずっと目が離せなくて…」
「だけど、その女には幼馴染の男って言うのが張り付いているんだろう?」
林の言葉にうなずく。
「ああ、そうなんだ…」
「一番たちが悪いよな。そのパターンって。多分男の方は…間違いなく彼女に惚れてるに決まっている。お前っていう邪魔な男を追い払おうとしているとしか思えないな…」
工藤が1人、納得した様子で言う。
「やっぱり…そう思うか?」
俺は身を乗り出して工藤に尋ねた。
「ああ、当然だろう?とにかくその男には気をつけたほうがいいぞ?ひょっとすると彼女の意識が戻ってもお前に知らせない可能性があるからな」
林がビールをあおるように飲むと言った。
「そうなのか…?」
ため息をつき…加藤さんの姿を思い浮かべながら俺はハイボールを飲んだ―。
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